異世界ゲート審査官の日常
ゴッドさん
入界審査官の日常
1人目 見習い魔女の審査
時代は遥か未来。
日本に異世界へ通じる門が開いた。
これにより異世界から様々な人物が門を通じてこの世界にやって来るようになった。この影響もあって、人間の価値観や交流はかなり進歩したのだ。
しかし、全ての入界者が人間に対して友好的とは限らない。危害を加える目的で入界しようとする者もいた。
そんな入界者を選別するため、門を囲むように空港のような巨大な建造物が構築され、門の手前には人間の科学力を結集した入界審査管理ゲートが設置されたのだった。
* * *
今日もまた入界審査管理ゲートで一人の入界者が止められていた。
その人物は黒いローブを羽織り、先端が曲がった帽子を付けている女性だ。黒い水晶がはめ込まれた杖を握っており、誰がどこからどう見ても彼女のことを『魔女』と言うだろう。
「あのぉ、すいません」
審査官の僕はガラス越しに向かい合った彼女に声をかける。
「はい。何でしょう?」
魔女は年寄りばかりだと思っていたが、目の前の彼女は女子高生くらいの幼い顔立ちをしていた。彼女は変身魔法で化けているのだろうか? パスポートの名前欄には「ロゼット」と書かれている。
「ロゼットさんですね? 今日は何の目的でこの世界に?」
「えっと、魔法学校の卒業旅行で、一人前の魔法使いになる前に異世界を見学しておきたいと思いまして」
「卒業旅行なのに一人旅ですか?」
「あの、えっと、学校で友達ができなくて……」
彼女は挙動がどこか不審だが、これなら友達ができないという理由には納得できる。今のところパスポートの顔写真も合っているし、身分も学生と示されている。
「今、X線検査機にあなたの鞄をかけたのですが、変な影が映っていまして」
「変な影ですか……」
「はい。植木鉢みたいなものを入れてますよね?」
「は、はい。薬草です」
「鞄の中身を開けさせてもらいますよ?」
僕は机の上で鞄の中身を広げ始めた。検査機に映ったとおり、2つの植木鉢が収納されており、草が植えられている。
「まず、異世界から動植物を持ち込むこと自体が禁止されているのですが……」
「そ、そうなんですか?」
「はい。こちらの世界の生態系にダメージがあるといけないので。それにこれ、ただの薬草じゃないでしょう?」
僕はヘッドホンをかけ、その薬草を土から引っこ抜いた。
オギャアアアアアアアア!
引き抜かれた瞬間、薬草は大音量・破壊力バツグンな赤子のような声を上げる。ヘッドホンをしていても気持ち悪さを感じるほど、その声は大きく、不快だった。根は人間のような形をしており、口のような器官からその音は放出されていた。
これはマンドラゴラである。
「ひぇ、あの、土の中に戻してください!」
大音量の声が響き渡る中、僕は魔女の言葉を読唇術で解読した。マンドラゴラを土の中に戻すとその声はようやく消え、僕はヘッドホンを外して彼女に説明を求めた。
「なぜ、マンドラゴラがあなたの鞄に入っているのですか?」
「その……万が一、こっちの世界で怪我をした時とかにすぐ治療できると思って」
「現在こちらの世界でもマンドラゴラの効力は認められていて、乾燥粉末1グラムでも莫大な額で取引されているんです。あなたは不正に
「ち、違います! 誤解です!」
「それと、さっきから言おうと思っていたんですが……」
僕は彼女の持っている杖を指差した。
「それ、魔力を増幅できる武器ですよね?」
「は、はい……」
「剣や槍の他に、そうした魔力を増幅可能な武器を持ち込むことも禁止されています」
「その、原住民に強姦とかされそうになったらこれで抵抗しようと思って……でも、私、魔法とか全然得意じゃなくて危害を与えないと思うんですけど……」
「その発言が嘘の可能性もありますし、規則ですので持ち込めません」
「そんなぁ……」
「今すぐ荷物を持って引き返すか、許可を申請してから……」
そのとき、なぜか彼女はローブを開き、胸部の肌を露出させていた。
どうしてこいつは僕に胸を見せているんだ?
ローブに隠れていて分からなかったが、意外にもバストサイズは大きいようだ。彼女は顔を赤らめながら、僕に向かって胸を見せつけている。
とある学者の発表では、異世界人の女性は早く子どもを成長させるため乳腺が発達している傾向にあり、彼女のような巨乳は多いと聞く。危険なモンスターだらけの世界で子孫を早く成長させるために、栄養豊富な母乳を与えて生存率を上げている。
「……何をしてるんです?」
「こっちの世界の男性は胸を見せると大体のことは許してくれるって聞いたんですが……」
「そんなの嘘です。そっちの世界で刊行されている変な情報誌で勉強しましたね?」
これだから入界初心者は困る。向こうの世界で変な知識を植えつけられた状態でこの世界にやって来るのだ。
昔、「こっちの世界の女性は触手を見せられると興奮する」というデマに踊らされた男性入界者が大量のローパーを連れてきて、それを見た僕の前任だった女性審査官がトラウマになって辞職した聞いている。
「とにかく、入界はできないのでお引取りください」
「どうしても、ダメですか?」
「ダメです」
「絶対に?」
「絶対にです」
「……ケチ」
「規則ですから。またこちらの世界に来たい場合はこの規定書をよく読んでからお願いします」
そう言って僕は彼女に小さな紙を渡した。向こうの世界の言語で書いてあり、彼女にも読めるはずだ。
こうしてロゼットは自分の荷物をまとめ、元の世界に引き返していった。
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