6人目 合同コンパの審査
「へぇ……アンタ、ゲート施設で働いてるんだ?」
「うん……」
「すごいじゃん! あそこに勤められる人なんて、なかなかいないよ?」
審査官として本格的に活動し始めて数日後、私は久し振りに大学時代の女友達数人と喫茶店に訪れた。
……やっぱり、ゲート施設に勤めていることはその人物の大きなステータスシンボルになるようだ。正直なところ、あそこに勤められるのは私にとって誇りだった。優秀な人材が揃っている職場なので当然だろう。
ただ1人、優秀でない人物もいるが……。私の脳裏に、あのダルそうな表情が浮かんでくる……。
「じゃあさ、同僚の男性にはエリートな人が多いの?」
「まぁ、それなりに多いかなぁ……」
「ええ、いいなぁ。今度、私たちにも紹介してよ」
「別にいいけどさぁ……」
「やった! 今度、私たちと合コンしようよ!」
「えぇ……」
セッティング、面倒くさいなぁ。
「『可愛い子がたくさん来るよ』とか紹介しておいてよ!」
「別にいいけど……あんまりガツガツしないでよ? 相手はそこらにいるような男と違ってチャラくないんだからさ」
女友達は私を肉食獣のような鋭い眼差しで見つめてくる。
女の子って恐いなぁ……。
そんなわけで、私は同僚の男性審査官を集めて合コンを開催することになったのだ。
* * *
私は職場での空き時間を利用して同僚の若い男性審査官に声をかけた。
ただし、アイツを除いて。
正直、アイツはこのゲート施設の汚点だと思う。
どうしてアイツがここに勤めているのか理解できない。誰かがコネクションを使って裏口入社させた、というのが同僚たちの見解である。明らかに人と接する業務には向かないアイツを、どういう意図で入社させたのかは不明だが……。
とにかく、あんなヤツを女友達に紹介したら、自分の職場の品性を疑われるような気がする。
そして人数集めは始まった。
アイツ以外の男性審査官に声をかける作業には神経を尖らせた。
まず、アイツの位置を確認する。彼が仕事で審査ゲートに篭っているときがチャンスだ。彼に気づかれずに様子を窺うために、私の体がすっぽり入るダンボールの中に身を隠し、周辺の資材にカモフラージュする。これは某有名なステルスゲームで得た知識だ。彼がゲートに行ったタイミングを見計らってダンボールを抜け出し、更衣室や職員用通路にいる男性審査官へ個別に声をかける。その後、『じゃあ、別の人にも声をかけておくわ』と言い、その場を去る。こうして、その審査官が別の人間に呼びかける必要がないと認識させるのだ。
審査官同士はSNSで繋がっているが、それは使用しない。むやみにSNSを利用して拡散されると、アイツの目にも留まる可能性がある。『どうして僕だけ誘ってくれないんですか?』みたいなことを言われると困るからだ。声をかけた審査官には『何かあったら、私にメールで連絡してきてね』と釘を刺しておく。
そして、アイツを除いて、どうにか目標の人数を集めることができた。
どうやらアイツにこの話は伝わってないらしい。
どうかこのままアイツに伝わらないでほしい。
まぁ、アイツがこの話を聞いたとしても、来るとは思えないけどさ。
* * *
そして、合コン当日。
夕方、駅前の居酒屋に女友達が集まる。
「ねぇ、まだアンタの同僚は来ないのぉ?」
「今、携帯に連絡があって、『駅まで来てる』ってさ。もうすぐ着くわよ」
そして、
カランカラン……。
入店音が響き、私服姿の男性審査官が私たちの前に姿を現す。
「どうも、こんばんは!」
「待ってました! 審査官のみなさん!」
パチパチパチ!
女友達は拍手で彼らを迎える。
「まぁ、適当に座って!」
「では、失礼します!」
男性審査官たちは私の友達に促され、長方形のテーブル越しに向かい合うように席に着く。
そのとき、
「……え?」
私は目を疑った。
自分と向かい合うように座る男……そこにいるはずのない人物だった。
「……よろしく……お願いします」
ダルそうな目つき、ダルそうな声のトーン。
絶対にここへ呼びたくなかったアイツだった。
「ど……どうして?」
「……え?」
「どうしてアンタがここにいるのよ!?」
「……あぁ。同僚から『急に予定が入ったので、自分の代わりに出てくれ』って言われたんです」
なんてことを……。
男女の人数が合うように調整を忘れない気遣いは嬉しいが、その代わりがこの男となれば話は別である。
「……僕が来るのは不味かったですか?」
「そ、そんなことないじゃない。だ、だだだ大歓迎よ! オホホホ!」
不味過ぎるわよ!
私は心の中で叫んだ。
はぁ……どうしよう……。
こんなヤツを友達に紹介したくないんだけど……。
今回の合コン……一体どうなっちゃうの?
私の心の中を猛烈な不安と焦燥感が駆け抜ける。
「……飲み物……何を注文しますか?」
「……うん」
「飲み物を決めてないのはあなただけですよ?」
「……うん」
「……あの……早く決めて欲しいんですけど……」
「……うん」
「……乾杯したいんですが……」
「……うん」
「……」
「……うん」
コネ入社君は私に話しかけていたらしいが、それに気づくまでに数分かかった。
私は頭が真っ白になり、しばらく会話の内容が頭に入って来なかったのだ。
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