7人目 能面審査官の審査

 合コンの続きである。


「へぇー! 審査官って大変なんだねぇ!」

「……そうでもありません」


 参加者全員の自己紹介が終わり、雑談に入っていた。

 私はの言動を見張り、妙な真似をしたらすぐに介入できるよう神経を尖らせている。

 特にこれまでのところ、不審な行動は見られない。しかし、油断はできない。集団面接の様子から、こいつはいつ爆弾発言をするか分からないのだ。


「じゃあさ、審査官の皆さんに質問があるんだけどぉ」

「何でしょう?」


 私の女友達が会話を切り出す。


「あなたたちの目から見て、同僚のこの子のことをどう思う?」

「え……」


 友達は私の肩に手を置き、同僚である私の印象を尋ねたのだ。


「すごく明るくて良い子だと思うなぁ」


「真面目で、ハキハキしてて、頭の回転も良さそう」


「やっぱり高学歴だし、物知りなんだろうなぁ……」


 私の同僚は順番に印象を述べていく。私を褒め称えるような言葉を連ね、これからの職場での関係を良好に保とうとしているのだろうか。


「じゃあ、次、あなたが印象を言う番よ?」

「僕……ですか」


 とうとう、アイツが言う番になった。


 ゴクッ……。


 私は固唾を飲み、正面の席に座る彼の口元を見つめた。面接の様子を見て分かるとおり、こいつは良くも悪くも自分の考えを正直に述べる。私への印象も、馬鹿正直に言ってくるはずだ。


 こいつは私のことをどう思っているのだろう……?


「僕は……」

「……」

「彼女のこと、まだよく分かりませんね。これから知っていければいいと思うのですが……」


 ま、まぁ、そうでしょうね。お互い、あまり話さないし……。

 とりあえず、爆弾発言が出なかったことにホッとした。ほんと、こいつにはひやひやさせられる。


「じゃあ、私たち、ちょっとトイレに行って来るから」


 私と友達は席を離れ、今後の合コンの展開について会議することになった。


     * * *


「いやぁ、すっごいわぁ、合コンの相手がみんなエリートだよ? さすがゲート施設!」


 友達は化粧室の大きな鏡に向かい、メイクを直している。


「どう、アンタはもう連絡先を渡したい相手が決まったの?」

「いえ……まだ。っていうか、私の同僚だし、もう連絡先はほとんど知ってるんだけど」

「あぁ、そうだったわね」


 友達はメイクを直しながら、私をチラリと羨ましそうな目で見る。


「……で、アンタたちは狙う男子を決めたの?」

「私ね、アンタの正面の席にいる男なんていいんじゃないかと思うんだけど?」

「えぇ!? アイツ!?」


 つまり、無表情なアイツのことを指している。


「……どうしてそんなに驚くわけ?」


 私は慌てて口を両手で押さえる。

 どうしよう……。

 アイツについて深く追求されれば、自分の職場の汚点を彼らに知られてしまうかもしれない!


「えっと……じゃあ、逆にさぁ、何でアイツがいいの?」


 こういうときは逆質問である。ここから巧く話題を逸らせていく。


「いや、だって……彼、大人しいじゃない?」

「あの人は無口なだけだよ」

「今まで合コンでつるんできた連中ってさ、ギャーギャー騒いでやたらと場を盛り上げようとするヤツばっかりだったから、その反動でちょっと寡黙なところに惹かれちゃうのかなぁ。それにさ、無口な男ってカッコよくない?」

「この合コンがダルいだけじゃない?」

「まぁ、そんな顔してるよねぇ。でも、他の人がハキハキし過ぎて、なんか喋ってると緊張するんだよねぇ。彼くらい落ち着いてる方がつき合いやすいかもよ?」


 不味い……彼女は完全に彼を狙っている。

 違うんだよ、アイツはアンタが思ってるようなヤツじゃないんだよ!

 つき合ったら、後悔するよ!


     * * *


「お待たせ~」


 数分後、私たちは元の席に戻った。


「じゃあさ、そろそろフィーリングチェックしない?」


 再び、友達が話題を切り出す。


「何ですか、それは?」

「携帯の合コン用アプリで、携帯を参加者全員に回しながら誰に好意を持っているかをこっそり入力するの。で、最後、お互い好意を持っていて成立したカップルが、連絡先を交換して帰るっていう仕組みよ」

「そんなアプリがあるんですね」


 友達は携帯を取り出し、アプリを起動させる。


「じゃあ、まずアタシたちから入力しま~す!」


 私と女友達は順番に携帯を回し、好意のある男性をこっそり指名していく。

 まぁ、指の動きで何となく誰にチェックを入れてるのか分かるが……。

 友人のほとんどはアイツにチェックを入れている。


 もう、カップル成立しちゃっても知らないから!


 私は適当な男子にチェックを入れ、その場を済ませる。


「じゃあ、次は男子の番ね」


 携帯は男性審査官たちの手に渡り、次々と女子にチェックを入れていく。

 ほとんどの男子は、参加している友人の中で一番美人な女子を選んだ。指の動きで丸見えだ。

 まぁ、男なんてこんなもんだろう……。


 そして、アイツが入力する番になった。

 アイツは誰にチェックを入れるのだろう……?


 そんなことを考えながら、彼の指の動きを見つめていた。


 しかし、


「……!」


 見られていた?


 彼が私の目元を見つめているのに気づき、咄嗟に私は視線を別の場所に移す。

 私が指の動きを見ていたことを察知していたのだろうか。


 ほんとに、油断できない男だ……。


 私が視線を移している間に、彼はもう入力を済ませていた。


「じゃあ、結果を発表しまーす!」


 携帯はテーブルの中央に置かれ、軽快な音楽を発した。


「結果は……こうなりましたぁ!」

《ジャンジャンジャーン!》


 画面に表示されたのは『カップル 不成立』の文字だった。


「えぇ……?」


 つまりこれは、異性への好意がどの人間とも一致しなかったことを示している。


「あらぁ、残念……」


 結局みんな連絡先を交換しないまま、今回の合コンはそれでお開きとなった。


 このとき、私は『カップル 不成立』という言葉に、ある疑問を抱いていた。

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