22人目 淫乱メス豚の審査
「おぅ! またあなたが審査してくれるんでぇすか? 運命の赤い糸的なものを感じるのでぇす!」
「僕は悪魔の契約のようなものを感じますね……」
インターンシップで大学生に仕事を紹介するという大切な時期に、
いや、まだ希望はある。
普通に審査が終了すれば、それでいいのだ。
「あの、先輩? この人、知り合いなんですか?」
僕とポナパルトの雰囲気を察知した後輩ちゃんが聞いてきた。
「顔見知りっていう程度ですよ」
「そうでしたか」
「ここでずっと審査官をしていると、常連みたいにやって来る人は何度も見ることになりますから……」
そこへポナパルトが会話に混ざってくる。
「顔見知り……でぇすか? この人、顔どころか、アタシのおっぱいまで見てるでぇすよ!」
「え!? ど、どどどどういうことなんですか、先輩!」
もう面倒なことになってきた。
「説明すると長くなるでぇす! この人はでぇすね、警備員で万引き女子高生を個室に連れ込んで服を脱がした人に似ていたのでぇす」
「じょ、女子高生? ぬ、脱がした?」
「……誤解を招くような情報の与え方は止めてください」
全ての元凶が前回ここへ来たとき、彼女は僕に成人向けポルノ漫画誌を見せつけてきた。そこには、僕に似た人物が女子高生にいろいろなことをして楽しむ、という内容が描かれていたのだ。
「ポナパルトさん。あなたが今回入界しようとする理由は何です?」
「いぇす! 今回は、この世界の性事情の調査で来たのでぇす!」
「調査って、何をするつもりなんです?」
「今回は直接インタビューする予定でぇす! 今回はでぇすね、この世界の女性の日常的な性行為体験談を片っ端から聞いていくつもりでぇす!」
「えっ、えっ! せっ性行為!?」
後輩ちゃんは顔を真っ赤にしている。
「では、荷物を検査します」
「おーけーでぇす!」
ポナパルトは検査機に大きな鞄を入れたが、特に不審な影は発見できなかった。
しかし、彼女は要注意人物だ。僕は嫌々ながら念のために手作業で荷物を確認してみる。
「やっぱり……」
「ひゃっ、せ、先輩! な、何なんですか、これは?」
例の如く、鞄には大量の成人向けポルノ漫画誌が詰め込まれていた。付箋などがページのあちこちに貼られており、熟読していることが分かる。
後輩ちゃんは顔を両手で隠しながら、それを食い入るように見ていた。
「……そのインタビューのために、この荷物の雑誌は必要ですか?」
「アタシの愛読書でぇす! 寝る前に見返すのでぇす!」
逆に興奮して眠れなくなるのでは?
相変わらず、こいつの「でぇす!」という喋り方が腹立つ。
「ところででぇすね、そちらのお嬢さんは誰でぇすか?」
ポナパルトは後輩ちゃんに指差して聞いてくる。
「仕事見学に来た女の子ですよ」
「おおぅ! 騎士団の見習いみたいなものでぇすね?」
「……そうですね」
今思えば、こいつからの質問は全て無視すべきだったのかもしれない。
「そこのお嬢さん、ちょっといいでぇすか?」
「はい、何でしょう?」
「お嬢さん、淫乱メス豚みたいで可愛いでぇすよ」
「い、いんらん!?」
また面倒くさいことが始まった。
きっと今回も、ポナパルトは何かとんでもないことを勘違いしている。
「え、『淫乱メス豚』って女性への褒め言葉じゃないんでぇすか?」
「違いますね。むしろ罵倒に近いです」
「おぅ! 知っておいて良かったでぇす! インタビューで使おうと思っていたのでぇす! やっぱり、この参考書は当てにならないのでぇす!」
再び、ポナパルトはポルノ漫画誌をカウンターで広げ始めた。
「あの、もうゲートを通過していいですから……」
「アタシの疑問が解消されていなのでぇす!」
前回と同様、彼女は読み切り作品を見せてきた。
主人公の女子高生、ナオちゃんは近所のレンタルビデオショップでアルバイトとして働くことになる。そこの店長は「どんな状況でも接客できる訓練」と称して、ナオちゃんの下半身にいろいろなことをしながら、彼女に接客させる。必死に耐えながら接客していくナオちゃんだったが、徐々にそれが快楽に変わっていく。「お、何だ。こんなことされているのに喜んでいるのか。とんだ淫乱メス豚だな」と店長は言う。「そうなんですぅ。私、淫乱メス豚なんですぅ」と愉悦に浸ったような表情で返事をするナオちゃん。そしてもっとすごいことになっていく。
という内容だった。
「ここでは『淫乱メス豚』と言われて喜んでいるのでぇす! おかしいでぇす!」
「だから、前回も言いましたけど、こんな本を真面目に捉えていたら頭がおかしくなりますよ」
「うーん、難しいでぇす! この世界では間違った知識も本として出版されるのでぇすか?」
「そんなこと日常茶飯事です」
「とんでもない世界でぇすね!」
とんでもないのは、あなたの頭ですよ。
「こういう接客訓練は、ここでもするのでぇすか?」
「しないです」
「そこの淫乱メス豚のスカートの中に、ブルブル振動するものとか仕込んでないでぇすか?」
「ないです。というか、『淫乱メス豚』って言わないでください。彼女はただの実習生です」
「……そうでぇすか」
ポナパルトはガックリしたような態度でゲートを通過していった。
個人的には異世界に強制送還させたいところだが、そこまでできる材料が揃っていない。今後、彼女が入界禁止にされることを祈る。
なんとなく、先程の読み切り作品の店長が僕に似ていた気がした。前回の万引き女子高生のヤツと同じ作者だろうか? ナオちゃんも後輩ちゃんに似ていた気がする。
そして、僕は後輩ちゃんの方を向いた。
「今みたいな困った入界者もいるから、気をつけないと」
「は……はい……」
後輩ちゃんは顔を真っ赤にしたまま頷く。僕の話が頭の中に入っていないようだった。
* * *
インターンシップは7日間のコースだ。
しかし、後輩ちゃんは翌日、無断欠席した。
先輩からは「真面目そうな子だったんだけどなぁ。お前、彼女に何かした?」と聞かれた。僕は「何もしていない」と答えた。だって何もしていないから。
もしかしたら何もしなかったのが無断欠席の原因かもしれない。彼女はそういう展開を期待していたという可能性は微粒子レベルで存在する。
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