2人目 就活大学生の審査
例のアイツに出会ったのは、約2年前。
私は高校卒業後、1年間浪人して必死に勉強してどうにか難関大学に合格した。こうして私は社会で生き抜くための『高学歴』という武器を手に入れたのだ。
そして卒業が近づき、就職活動を開始した。
大学生活中に培ったコミュニケーション能力で、誰もが知る有名企業の内定を次々と獲得していった。
その就職活動は順調で、困難なことなんて一切ない。
そんな順風満帆な就職活動をしているとき、例のアイツは私の前に現れたのだ。
* * *
その日も、某有名企業の面接だった。
「ここが、本社ビルね……」
私は試験会場である本社ビルの玄関前に立ち、バッグから『採用面接のお知らせ』という紙を取り出す。その紙を読み返し、これから行われる試験内容について確認した。
この日の試験は集団面接という形式で行われるらしい。就職希望者2人が同時に評価されるようだ。
「どんな人と一緒に評価されるんだろ?」
そんなことを思いながら、私は試験会場の控え室に入る。
「失礼します!」
控え室には1人の試験官と数人の面接希望者が座りながら待っていた。
「あぁ、どうもこんにちは。受験番号を教えてください」
試験官が私を見て、声をかける。
「0042番です」
「……はい。分かりました。それでは、あそこの席におかけください」
私は試験官の指示に従い、指定された席に向かう。
その席の隣にはすでに面接希望者が座っていた。その希望者は男の子で、自分の手帳を読んでいる。私は男の子の横に腰かけた。
「隣、失礼しますね」
「……」
その男の子は私をチラリと見て、すぐに視線を自分の手元にある手帳へ戻した。
ダルそうな顔をした男で、なんか印象が悪い……。
「あなたもこの会社の就職希望者なんでしょ? よろしくね?」
「……何がよろしくなんです?」
は?
受験者同士の会話に慣れた私は、相手も『こちらこそよろしく』と返事をしてくると思っていた。しかし、彼はそうではなかったのだ。
私は明るく話しかけたつもりなのに、鬱陶しそうな声のトーンで返してきた。しかも、私に視線すら向けて来ない。
「いえ……だから『お互い面接を頑張りましょうね』っていう意味なんだけど……」
「……そうですか」
そいつは興味なさそうな声で返事をする。まるで、私のことなんか見えていないように……。
「……用はそれだけですか?」
「うん……」
「……くだらないですね……」
はぁっ!?
何なのよ、こいつ!
* * *
これが例のアイツとの出会いだった。
そいつはとてもダルそうで、冷徹な印象があったと思う。
* * *
やがて、その会社の面接が始まった。
その集団面接に私と一緒に呼ばれたのは、隣に座ったダルそうな男だった。
「それでは、0041番、0042番の方、面接室へどうぞ」
私たちは試験官に呼ばれ、面接室へ入る。
「失礼します!」
先に入室したのは私。明るい挨拶で面接官に良い印象を植えつける。
そして、次にその男の子が入室した。
「……失礼します」
すごくダルそうな声だった。予想はしてたけど。声も張ってないし、全くやる気を感じられない。
この人、本当に就職する気があるのかなぁ……。
「どうぞ、そこにおかけください」
面接官は会場の中央に置かれた椅子に座るよう、私たちに指示をする。
「失礼します!」
「……失礼します」
「うーん……」
面接官たちは男の子を睨んでいた。
「あのさぁ……えっと、0041番の人なんだけど」
「……僕ですか?」
「君、やる気あるのかね?」
高齢の面接官が彼へと質問した。その表情には怒りすら見える。
「いえ……特に……」
そこ……正直に言っちゃうんだ……。
この人、絶対に就職する気ないでしょ……。
面接官を馬鹿にしに来ているのかな……?
「何だね、君は! 表情も挨拶もやる気なさそうだし、ふざけているのか!」
ほら、面接官が怒っちゃった。
「ふざけてないですよ」
「もういい! 君は帰りなさい!」
「……じゃあ、失礼します」
そいつは席を立ち、部屋を出て行った。
就職面接で「出ていけ」と言われる人を初めて見た気がする。私は呆れて、ポカンと口を開けながらその様子を眺めていた。
「……全く、何なんだ、あいつは!」
「うーん、筆記試験の成績も所有資格も優秀だったんですけどね……」
「しかし、あんなんじゃ話にならんよ!」
面接官たちは私のことを置いてきぼりにして、相談を始めている。
こんな経験は初めてだ。
ほんと、アイツは何だったのだろうか……。
「あ、あの……」
「あぁ、すまんすまん! 面接中だったことをすっかり忘れてしまったよ!」
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