3人目 ゲート施設の審査
数々の有名企業を受けてきた。内定もたくさん貰った。
それでも私には就職試験を受けておきたい職場があった。
それが『ゲート施設』だ。
世界と世界を繋ぐ門。そこを出入りする人間を審査・許可・排除する機関である。ゲートテック社という大企業が管轄しており、異世界料理のチェーン店から異世界観光まで幅広い事業に着手している。
あそこは他の大手企業よりも給料が良いし、福利厚生もしっかりしていると聞く。
仕事内容にはあまり興味はないけれど、他に内定を貰った企業もそこは一緒だった。
そんなわけで、私は『ゲート施設』での就職試験を受けることにした。その施設の採用情報によると、筆記試験、集団面接、個人面接……という流れで人数を絞っていくらしい。
* * *
まず最初の筆記試験はゲート施設内の大会議室で行われる。
試験当日、私は人生で初めてゲート施設へ出かけたのだ。
「ここが、ゲート施設かぁ……広いなぁ」
なかなか大きな施設だ。その外観はまるで空港や巨大な駅を連想させる。施設内には飲食店や治療施設まで存在するらしい。
「うわぁ……小銃を持った人なんて初めて見た……」
施設内には重装備の警備隊員があちこちでパトロールをしており、まるで異国の空港警察を見ているようだった。異世界からどんな危険人物や危険生物が入ってくるか分からない。だから、こうした重装備での警戒が許されているのだろう。
そして異世界人にもすれ違う。さすが世界と世界を繋ぐ施設だ。オークやエルフなど、様々な人種が行き交っている。
こうして試験会場である大会議室に到着するまでの間、私はこの施設のすごさを体感したのだった。
* * *
そして、試験の開始時刻になった。就職希望者は施設の大会議室に集まり、一斉に筆記試験を行う。審査官の採用枠はたった数人分しかないが、その50倍近い人数がその会場にはいただろう。
試験官の「始め!」という合図で、カリカリという鉛筆が紙に擦れる音が会場全体に響く。
異世界との交信の拠点となる機関とだけあって、出題される内容は異世界に関する事柄が中心となっている。
* * *
Q1 数ヶ月前、この世界から武器を密輸出しようとした事件で問題となっている種族と、その族長の名前を答えよ。
Q2 数年前、日本ではサキュバスによる風俗営業が違法となりました。その経緯を説明しなさい。
Q3 『異世界召喚問題』と『異世界転生問題』の違いを説明しなさい。
* * *
こんな問題が数問続いた。
私はその問題を冷静に答えていく。私の場合、予習した内容がそのまま問題になっていた。なかなかいい手応えだと思う。
そして筆記試験の合格通知と面接の日程表が自宅に届いたのは、その数日後のことだった。
* * *
面接試験当日、私は再びゲート施設を訪れた。
施設に到着した私を担当者が案内し、面接の控え室へと通された。すでに私以外にも多くの筆記試験合格者がおり、面接希望者は並べられた椅子に座りながら番号が呼ばれるのを待っている。
「それでは……番号が呼ばれるまで、あの席におかけください」
「はい、ありがとうございます」
私は指定された席へと向かった。指定された座席の隣には、別の合格者が座っている。
「隣、失礼しますね」
私は隣に座る人の顔を見た。
「……え」
私の表情が固まる。
「……え……アンタ……」
「……何です?」
そこに座っていたのは、以前集団面接で帰宅させられた男だったのだ。
コイツも同じ試験を受けていたのか……。
彼は私が顔を見ながらポカンとしているのをチラリと見て、鬱陶しそうに声をかけてくる。
「……人の顔をジロジロ見て、どうしたんです?」
「いや……その、私のこと、覚えてる?」
「……知らないですね」
彼はすぐに視線を元の位置に戻した。まるで、私のことなんか眼中にないかのように。
本当に、印象悪い……。
こいつ、本当に職場の同僚や取引先と仲良くする気があるのだろうか。
一体、どうやったらこんな人間が出来上がるのだろう……。
「……では、41番、42番の方、面接会場にお入りください」
そんなことを考えているうちに、自分の番号が呼ばれてしまった。自分の鞄を持ち、会場前へと向かう。
例の男の子も一緒に、である。
また面接官を怒鳴らせることだけは勘弁して欲しい。
そんな心配事を抱えながら、私と彼は面接室へ入った。
「失礼します!」
「……失礼します」
私が大きな声でハキハキと挨拶する。一方、彼はかなりダルそうなトーンだ。
まあ、予想通りなんだけどさ。
そんな挨拶だと、面接官がまた怒るよ……?
「どうぞ、そこへおかけください」
女性面接官が私たちに指示する。
その女性はスーツの上からでも分かるほど妖艶な体つきをしていて、顔のパーツも整っていた。かなり美人で凛とした雰囲気を出している。
「……まずは『筆記試験合格おめでとう』と言っておこうかな?」
「ありがとうございます!」
「……ありがとうございます」
綺麗な女の人だなぁ……。
この職場にはこんな上司もいるのかぁ……。
ゲート施設での面接は、こんな感じでスタートしたのだった。
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