4人目 就職内定式の審査

「それじゃあ、面接を始めましょうか」


 面接官の女性は言った。おそらく、彼女は私と同じくらいの年齢だろう。それなのに、私よりも凛としてかつ妖艶な雰囲気を出している。


「まず、君から」

「……はい」


 彼女は隣の男を指名する。


「君が学生時代に打ち込んだことを話してもらおうかな?」

「僕は資格の取得に精を出してましたね」


 一人称を『僕』とか言う時点で、彼は就職面接のことを分かっていないと思う。やっぱり一人称は『私』の方が、礼儀正しい印象を与えるのだ。


「アルバイトとかはしなかった?」

「してません」

「どうしてしなかった?」

「あちこちで面接は受けたんですけど、全部落とされましたね」


 それ……正直に言っちゃうんだ……。

 この男は自分をアピールするつもりがあるのだろうか。


 私は彼と面接官の会話に、口を開けっ放しにしていたと思う。


「もういいや。次は君に質問をしようか」

「はい!」


 急に私へ質問がぶつけられたが、どうにか対応する。

 結果、この面接では自分の長所をアピールすることができた。手応えはある。


     * * *


 その後も何度か面接があった。その度に自分を最大限にアピールしてきた。

 個人面接なので、他の就職希望者と会うことはほとんどない。

 面接期間中、アイツの顔を見ることはなかった。多分、落選したのだろう。


「やっぱり、アイツは落とされたよねぇ……集団面接とか最悪だったもん」


     * * *


 数日後、自宅に合否通知が届いた。

 結果はもちろん合格だ。


「やった! 内定もらっちゃった!」


 私は自宅のリビングで小さくガッツポーズをした。

 誰もが知る有名な機関で働くことができる。


 内定式は数日後に行われるらしい。そこでこれから一緒に働く仲間の顔を見ることができるのだ。


     * * *


 そして内定式当日。期待に胸を膨らませ、施設へと入る。

 式はゲート施設内の大きな会議室で行われた。内定を貰った就職希望者が壇上に集まる。

 みんな笑顔で内定を喜んでいる。施設関係者も拍手して私たちを祝福した。


「それでは、新人一人ひとり挨拶をしてもらいます」


 式の司会が私にマイクを持たせる。


「水無瀬美帆と申します! 皆さんとはこれから一緒に働くことになりますが、まだまだ未熟者で迷惑をかけるかもしれません。それでも日々精進して仕事を頑張っていきます! よろしくお願いします!」


 パチパチパチ!


 私が頭を下げると、再び施設関係者が盛大に拍手をした。


「では、次の方にマイクを渡してください」


 司会の女性に言われ、私はマイクを隣に立つ人に手渡そうとした。

 しかし、


「え……?」


 私は隣に立っていた人物を見て、氷のように表情が固まる。

 マイクを持つ手も止まった。

 思わず、その人物を凝視してしまう。


 なぜなら、


「……どうしました? 早くマイクをください」


 ダルそうな目つき、ダルそうな声のトーン、凛としていない表情。

 隣に立っていた人物は、だったからだ。


「……どう……して?」

「……は?」

「どうしてアンタが、ここにいるのよ!」


 なぜ?

 どうして?

 何で、内定式にこいつが出席しているの?

 え? まさか、こいつも内定を貰った?

 いや、そんなことありえないわ!

 あんな面接の内容で、合格できるわけがない!


 だって、こんなにダルそうな声とか顔とか、やる気を感じられないアピールで面接官が彼を選ぶとは思えない!


 ……じゃあ、どうして、こいつはここにいるの?


 どういう経緯で、彼はここにいるのだろう……?


 私は頭が真っ白になった。

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