おまけ編 その1 アナザーエンディング
最終審査【アナザーエンディング】
【※無事に異世界旅行から帰ってきた場合】
* * *
プリーディオやルーシーへの挨拶も済ませ、大聖堂の見学もした。大聖堂はなかなかいい職場だったかもしれない。仕事はそれなりに大変だが、給料はかなり高い。
しかし、僕はその場で決断せず、一度自分の世界に戻ることにした。目的はあくまで『職場見学』であり、『移住』ではないのだ。出界査証でも、1週間以内に戻ることが約束されている。
* * *
僕とロゼットは門が消失する前に、元の世界に帰ってきた。
彼女の手を握りながら、同時に門を潜り抜ける。
「帰ってきちゃいましたね……」
「うん……」
門を潜り抜けた先には、門を囲む巨大な建造物があった。
つまり、僕の職場だ。
自然に囲まれた環境から、一気に人工物に囲まれた空間へと変わった。
「あれ……審査官さん?」
「何……?」
「門が……」
振り向くと、門は消えていた。
かつて門だった遺跡があるだけだ。
どうやら、門は『こっちの世界で生きろ』と言いたかったらしい。
おそらく、こっちの世界の方が将来の『波乱』が多いのだろう。
「それじゃ……審査官さんはこっちの世界で仕事を探すんですね……」
「あのさ、ロゼット?」
「はい?」
「もう門は消えちゃったから、僕はもう『審査官さん』じゃないよ」
「そうでしたね。では……これからは『セイタローさん』で!」
「そうだね……よろしく、ロゼット」
* * *
それからゲート施設は封鎖された。
その数ヵ月後に『異世界交流記念館』として生まれ変わった。
異世界との交流の様子を記録した展示物が置かれ、小学校など教育機関の歴史の授業で利用されている。
記念館の最大の目玉はやはり、かつて門だった遺跡だ。今日も多くの観光客が遺跡の前に訪れている。
* * *
一方、職を失った僕は実家に暮らしながら必死に転職先を探した。しかし、どこも採用してくれない。
そんなとき、先輩の夫である黒川から声がかかった。
「審査官時代の体験談をエッセイにしてみませんか?」
僕の知らないところで、黒川は異世界召喚者として活動していた記録をエッセイとして出版していたらしい。その担当編集者が異世界ものの別のエッセイを出版しようと考えており、審査官を題材にしたものに目をつけた。『エッセイを執筆してくれる元審査官を紹介して欲しい』と黒川に頼んだ。
そして、黒川からその話を聞いた先輩が僕を推薦した。『こいつは審査官として人一倍苦労しているから、書けるネタも多いはずだ』と。
僕はその仕事を引き受けた。僕は昼夜問わずパソコンに向かって執筆し、すぐにエッセイの第1巻を完成させた。
当時、ゲート施設が記念館に改装されたことで異世界ブームが起きていた。そのブームに乗る形で僕のエッセイは発売され、けっこうな数が売れた。その編集者曰く、ヒット作と言える数字らしい。数社のマスコミが僕のところへ取材に来て、僕はそれなりに有名になった。
巨額の印税を入手したが、それでも僕は執筆する手を休めなかった。早くしないと異世界ブームは終わってしまうし、貯金なんてすぐになくなってしまうからだ。僕はさらにエッセイを執筆し続けた。
そんなことをしている間に、ロゼットは子どもを産んだ。元気な女の子だった。
僕はその子を育てながら、さらに執筆を続けた。
エッセイだけでなく、小説にも手を出した。同じ出版社で漫画も描いた。また、その担当者のコネを使い、異世界を研究する大学の非常勤講師も勤めたこともある。
そんな感じで、僕はハードスケジュールな生活を送っていた。
* * *
娘が小学校に上がる頃。
元審査官が集まって同窓会をすることになった。
集合場所はあの記念館だ。
「もうここに来ることはないと思ってたけど……」
夕方、僕は記念館の前で立ち止まる。
その施設の外観は、あのときのままだった。
内部には展示用のパネルが数枚置いてあるだけで、こちらもあまり変化はない。
まるで再び出勤したかのような感覚になる。
「久し振りね……清太郎くん」
私服姿の水無瀬美帆が施設奥から現れた。
彼女に関しては、かなり変わった気がする。何というか、昔よりも落ち着いて綺麗になった……。
現在は彼女も結婚していて、子どももいるらしい。
女の子って変わるなぁ……。
「ほら、遺跡の前でみんな待ってるわよ」
「うん……」
彼女は微笑みながら僕の袖を引っ張り、かつて門だった遺跡の前へ連れて行く。そこには他の元審査官も待っており、審査官時代の思い出話に花を咲かせていた。先輩もそこに来ており、彼女とも久し振りに話した。
* * *
そして時間は過ぎていき、そこを去る時間になった。
「それでは、これから宴会場へ移動します。思い出話の続きはそこでしましょうか」
同窓会の幹事が言った。その言葉を聞いた参加者たちがぞろぞろと記念館を出て行く。
そして、遺跡の前には僕だけが残った。
向こうの世界で生活することを選んでいたら、僕はどういう生活をしていたんだろう……? 今の生活よりも裕福だったのかな……。
今、プリーディオとか、ポナパルトは何をしてるんだろう……?
そんなことを考えながら、遺跡を見つめていたのだ。
「まぁ……考えてもしょうがないか……」
僕は踵を返し、記念館を出ようとした。
そのとき、
「何……この光は?」
僕は立ち止まり、周囲を見渡した。
暗くなった館内に蛍のような光がちらほらと漂っていたのだ。
振り返ると、遺跡の窪みが発光しているのが見える。
「どうして……」
かつて門が形成されていた場所に、館内ではない別の場所の景色が浮かんでいた。
その景色の中に、ゴシックロリータ姿の少女が立っている。
「あの子は……」
見覚えのある少女だった。
彼女も僕を視認したらしく、僕に向かって微笑んだ。
「久し振りね、セイタロー……」
「……こちらこそお久し振りですね。プリーディオさん」
【おしまい】
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