第34話 ~風船割り合戦、終了~
那奈は、勢い良く男児の風船を踏んでそのまま足が地面についた時の、音と共に驚いた。
「わっ……!」
那奈に分かったことは、目の前の男児が驚いたまま固まっていること、膝の辺りはズキズキと痛み、血が出ている。そして靴の下には、ぺしゃんこになってしまった風船があった。
那奈の風船は、風に揺られて優雅に揺れている。
「う、そ……あたし……」
ふうせん、われた――。
那奈の姿が、同じ白組の他の子ども達もわかると、やったと声を出し始め、そしてすぐに歓声が広がった。
「やったぁ!! ななちゃん、やったぁ!!」
「な、何それ、嘘でしょ……。那奈ちゃん、出来た……!」
若菜は半ば放心状態で那奈を見つめていた。
「那奈――!」
ハラハラした後の、那奈の怒りのシーンへの展開ではあったが、那奈の母親は娘が頑張った姿をきちんとビデオに捉えていたことの喜びで震えそうになっていた。
那奈の母親は、微笑みながら、ビデオカメラをゆっくりと閉じた。
そこに、那奈の父親が息を切らして那奈の母親の元へ。
「ご、ごめんな!」
「あら、あなた。あと一歩で凄いシーンが見れたのに」
「え、え!? 那奈の競技はいつだ!?」
「ふふ、もう今終わろうとしてるわ」
「なんだって……!」
「後で、一緒に見ましょう」
那奈の母親はビデオカメラを指して言った。那奈の父親は膝に手を当て息を切らしていた。
那奈はその姿二人の姿を見て、呆けていた表情から笑顔に変わった。
「おかあさーん! おとうさーん! あたし、やったよぉお!」
那奈はピースサインを両親に見せていた。
その姿を見ていた若菜は、会場が和んでいるのに気が付き、司会者である麻里に駆け寄った。
「ほ、ほら! 麻里先生、締め、締め!」
『あ゛、あ、失礼しました! 最後の三回戦目は、白組さんの勝ち! そして。一回戦は赤組さんの勝ち、二回戦、三回戦は白組さんの勝ちということで! 風船割り合戦は、白組さんの勝ちです!!』
「いやったぁあああ!!」
「かったぁああ!!」
「うぉー!!」
白組の子ども達はそれぞれ立ち上がってジャンプをしたり、帽子を空へ飛ばす等して歓喜の声を上げた。
アレスはその子ども達を見て、腕を組んで見つめていた。
「やったじゃねぇかよ」
「うぉー!!」
「ゆりせんせー!!」
そして、アレスは子ども達に一斉に抱きつかれ、バランスを崩しそうになる。
「う! おわ! 離せって!」
「せんせいやったよぉお!!」
「おれたちがんばったよぉ!」
「あ、ああ、そうだな、だから離せって!」
那奈は、少し離れた位置からアレスを見ている。
「なにやってんだか。まぁ……。いいやつだとは、みとめてあげる」
言葉とは裏腹に、那奈は爽やかな笑みを子ども達の波によたついているアレスへ、聴こえない程度ではあるが言葉を贈った。
今回の運動会、たったひとつではあるが、初めて司会を行うことになった麻里はプログラムが終わったとともに大きくため息を着いていた。
「お、終わったー……!」
「がんばったじゃん、麻里先生」
若菜は麻里の側に寄り、軽く麻里の背中に手を当てる。
「ありがとうございます……!」
「なぁ麻里、俺いつまでこの格好してなきゃなんねぇんだ」
アレスも若菜に続くように麻里の元へ。アレスの格好は王子様であるが、子ども達が喜び抱きついたお陰で砂の汚れが目立っていた。
「ずっと着ときませんか? 似合ってますよ」
「お前な。冗談言えるようになったもんだな。ったく」
アレスはその場で衣装を剥ぐように脱ぎ始めたのだった。その姿に麻里も若菜も大きな声を出して驚いていた。
「えー!!」
「ちょ、百合先生まじそれ大胆過ぎますって!」
「うっせぇ! 俺様は俺様だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます