~野河を追え! ②~
麻里が欠伸をした時、時刻は18時を回っていた。
たんぽぽ組には、麻里、アレス、そして若菜。それぞれ、運動会での小道具、衣装を作っている。作っても作っても、次がある。
「アレスさんは大分ポンポン出来上がって来たんですね」
「ああ、コツってやつがわかりゃぁな。簡単だぜ」
アレスと麻里が喜び合う中、若菜は何かに取り憑かれたようにつぶやきながら、運動会でのそら組の出し物の衣装を縫っている。
「休み……休みが欲しい休み……。野河め……。寝たい……寝たい……」
若菜の目からは明らかに光を失っている。
「ヌイモノってすげぇな。ハリがヌノをヌウなんてな」
アレスが若菜の側で食い入るように見ている。
「はっははは。……百合先生は以前までここの保育園で一番縫い物が上手だったのに……どうしてこんな時に限って記憶喪失なんかに……!! ぐぅぅぅー……!! 悲劇すぎる……! あと10枚、あと10枚……」
「わ、若菜先生、私も手伝いますから」
「本当!? 麻里先生マジありがとう……!」
若菜は目の輝きを取り戻し、麻里に飛びつくように手を握った。
その時、時計に視線を映すと時刻は18時半近くを指していた。
そろそろだ。麻里はアレスに視線を送る。
「っとそんな時間か」
「え? どうしたの?」
若菜がアレスを不思議そうに見つめる。
「あぁー……ちょっとな。外暗くなって来たなって思っただけだ」
言われて若菜は外を見る。
「本当だ。明日も早いからなぁ……。今日は帰ろう。続きは家だぁー……。麻里先生ありがとう、預かるわ」
「あ、はい……だ、大丈夫ですか?
「うん。また、時間があるとき手伝ってくれたら嬉しい」
「そうですか……」
「うん、大丈夫だから。マジ、ありがとね」
若菜は麻里が作っていた分も集めるとそそくさと作りかけの衣装を通勤バッグへ入れ込む。麻里は申し訳ないと思いつつも、また手伝わせてくださいと、言葉を添える。
若菜がアレス達の元から離れると、アレスと麻里は顔を合わせて行動を開始した。
・・・・・・・・・
静まり返った廊下を、麻里とアレスはどことなく雰囲気に飲まれるように、静かに歩いて行く。アレスは、麻里の足音を真似るように歩いているだけなのだが。
野河のクラスの前まで来た時、麻里の足が止まり、アレスが軽くぶつかる。
「って!」
「しー!」
睨んできたアレスを麻里は口元に
指を立てて制した。
そして、麻里がなかなかアレスに行こうと言い出さないため、アレスが腕を組んだ。
「どうしたんだよ麻里。なんか変だぜ」
「えと、その……野河先生の様子がちょっと……」
「あ?」
「元気がその……なさそうというか」
「なんだよ、そりゃあチャンスじゃねぇか、行くぜ!」
「あ! ちょっと、待っ! 待ってください!」
麻里が腕を伸ばしてアレスを止めると、丁度首元がアレスの喉につっかえた。
「ぐぇっ!」
「あれは……何……?」
麻里の視線の先は、クラスの保育士用の机に野河が。手には何かを持ち、見ている様子。その様子は、どこかいつもの野河と違う様子で威厳が無い様にも感じられる。
麻里がアレスへ視線を戻すと、左手を何やら構えていた。
「ちょ、アレスさん!?」
「いい加減くたびれたぜ。今がチャンスだろ」
麻里が止めるや否や。
「わが呪文に従い正体を表わせ。リヴィア――!」
目の前がカッと光り、麻里は思わず手で目を覆う。同時に、大きな呻き声が聴こえる
「う゛ぁああああ!!」
光が治まり、麻里が瞳を開く。
「っ、え……! わ、うわぁ……!」
立ち上がる野河の様子はいつもと様子が違い、見るからに禍々しいエネルギーが野河を大きく包む。その形は、何かしらの生き物の様に見えた。
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