第17話 ~宣戦布告 やってやろうじゃねぇの~ ①


「あんた達、作業任されてるんじゃないの? なにサボってるの」


 野河は鋭い視線をアレスと麻里に送る。


「は、はいすみません、ちょっと道具を探していたもので……」

「ごまかさない!」

「はぃぃ!」


「麻里、なにビビってんだよ。たかがこんなやつに」

「は? たかが……? ちょっといい気になってんじゃないよ」

「あ゛? 本当の事言って何がワリィんだよ」


 アレスはさも当たり前の様に言うが、麻里は蒼白にならざるを得なかった。まだ怒られている方がいいようにも感じた瞬間だった。


・・・・


「久々の雨ね……。野河先生のことだから練習はしてるんでしょうけど……。張り切りすぎてもよくないわよねー……」


 飯田は百合を運動会での位置をどうするかを頭の片隅に置きつつも、年長クラスの状況を見に行く。

 年長クラスに近づいた時、アレスが野河と言い合っている姿を目にした。麻里はアレスの隣に居るが、萎縮した様子だった。

 何事かと飯田は小走りで向かう。


「ゆりせんせーすごいー」

「もううんどうかいのれんしゅうつかれたもん」

「いっつもいっつもおんなじれんしゅう、あきた!」


 野河が驚いて子どもたちを見た。


「ま、そういうこった。俺の手下になりたいってよ?」

「何を馬鹿な事言ってるの!」

「ほ、本当にそうですよねー! も、もう百合先生ったら何言ってるんだかなぁあー! し、失礼しました! も、もう行きますよ!」

「あ゛!? 離せよ麻里! 折角いいとこだったのによ!」

「なーにーも! よくありません!!」


 麻里は引きつった笑顔でアレスの腕を強引に引いて元居た場所へと歩き出そうとしたが凍りついた。


「い、飯田先生……!」


 麻里の裏返った発音に、弾いた様に飯田を見たのは野河だった。


「飯田先生……。この人、ちょっとどうにかしてくれませんか」


 飯田と野河の歳は近く、飯田のほうが若干年上だ。


「ちょっと、何があったっていうの?」


「こいつら見てみろよ。小さい生身の人間なのに休む暇なくてよ。表情暗ぇしおかしくなってるぜ」


「ぢょっど!」

「はぁ!?」


 麻里と野河は同時に声を上げた。


「おれ ゆりせんせいとうんどうかいのれんしゅうしたいー」

「つかれたー」


「ほら、あいつらやっぱり手下になりたいってよぉ?」

「ゆーりーせーんーせー! 誰も何もそんな事言ってませんから!」

「本当、馬鹿じゃないの。今のあんたなんかにこの子達をまとめられるわけないわ」



「ふむ、それはどうかしら」


 意外な言葉を発したのは飯田だった。その場の先生達は驚いて飯田を見た。


「野河先生と、百合先生……そうね、そう! よし、ひらめいた! 野河先生、百合先生、麻里先生。放課後、園長室に集まってくれないかしら。そうだわ、あと若菜先生も呼ばなくちゃ」


 飯田の明るい声に、それぞれ困惑した様子であった。

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