第44話 ~園? 縁? 漢字ってめんどくねぇか~ ①
「ふんっ!! ったく!! んだよ!!」
アレスはダン、ダン! と、先程の良治と同じように地を踏みつける歩き方をしていた。その隣を、通勤バックを肩に掛けていた麻里がまぁまぁと制していた。
香菜の様子からして多分、相談者というのはきっと……。
「はぁぁ……。なんだかなぁ。やっぱり、人の想いっていうのはなかなか……難しく思います」
「はん! 分けわかんねぇ。人間っつうのはな、好き、嫌いできっちりはっきり動いとけっての! 面倒くせぇ!!」
「複雑なのは俺様達で十分だ!」と、麻里の前ではすっかり元のアレスとなっていた。
「あの、ちょっと、アレスさん達だけで十分って、一体何の話なん……」
「お前達には関係ねえよ!」
一括された麻里は、苦笑するしかなかった。
今になって“お前達には関係ない”は無いんじゃないかなぁ。それは、魔王と人間とじゃ事情は違うんだろうけど……。と、視線をアレスからずらしてひっそりため息を漏らすのだった。
ブロロロロロ――――
寮までもう少し、という狭い裏道で、一台のバイクがこちらに向かって走ってきた。
バイクのハンドルの部分には買い物袋だろうか、白い袋が風によって大きく揺さぶられていた。
その狭い裏道は、両側から木々が生い茂っているせいもあって、人が二人通ることでもやっとの広さだった。
それにもかかわらず、バイクは猛スピードで向かってくる。
こんなところでバイク乗り回すなんて。非常識だなぁもう。麻里がそんなことを思いながら出来る限り道の端へと寄る。
「ねぇ、アレスさん」
ふとアレスを見ると、まだ乗り物の危険をあまりわかっていないのか、これでもかというくらい腕や足を外側へ向けるように堂々と地を踏みつけて歩いている。
「ちょっと、アレスさん、危ないですよ――!」
麻里がアレスの腕に触れた時だった。
バイクがアレスを避け、スリップし倒れそうになるも体勢を立て直して走り抜けていった。
それと同時に、麻里がバッグを持っていた方の手から、何か強い力で引っ張られる感覚があったかと思うと、そのまま勢いよく倒れてしまった。
何だよと麻里へと機嫌悪く振り返ってしまう前に、アレスの顔が蒼白しはじめる。
「う、わっ!? おい!? 麻里!?」
「いったたた……」
「だ、大丈夫かよ!? おい血が出てるぞ!」
なんとか身体を起こした麻里だったが、麻里の膝へと、ぽた、という感触があった。
「あー……本当ですね」
額から血がでちゃってる、と麻里はズボンからティッシュを取り出そうとするが見当たらず、バッグの中を探そうとしたその時だった。
「ティッシュ……あれ、私の荷物!?」
ない。前も後ろも、見渡す限り目を皿のようにして探すが、それなりの大きさをしていたバッグがないということは、ないのだ。
きっと、さっきのバイクに乗った人に奪われたんだ。
体中はズキズキした感覚に襲われている。
奪われた荷物の中にも財布やスマートフォン、そのほかにもいろんな貴重品が入っていたのに。
「あーあ……」
麻里が「ついてなかったなぁ」と、苦笑した時だった。
ダン――――――――――!!!!
これまでにない程の風圧と、殺気を感じ、何が起きたのかと思えば。
瞳がギラギラと、全てのものを貫くように紅く光ったアレスの、立ち上がった姿がそこにあった。
「麻里。そいつのモノは感じとった。ここで待ってろ」
「えっ、ちょ、私は大丈夫――」
言葉を言い切るや否や、もうそこには、アレスの姿は無かった。
・・・
「急がねえと、急がねえと!!!」
男は、アクセルをこれでもかというくらい回していた。
アジトへの近道とはいえ、狭い道を飛ばすということは人としてどうなのかと自分自身に問いかけてはいたのだが。
せっかくコンビニで温めてもらった焼きそばパンが総長にヌルいって言われるだろうがよぉおお!!!
そう、男がハンドルを握りしめつつ心の叫びを上げたときだった。
急に、今まで快適に走っていたバイクの動きが、無理やり何らかのちからで止められたかのように、ピタリと止まってしまった。
男の身体はその奇妙な止まり方についていけず、そのまま宙へと放り出されてしまった。
「いってぇ……」
くらくらとする視界。
次第に戻ってきた意識でヘルメットを外すと、何があったのかと辺りを見回す。
明るい金色の短い髪が、緊張感を走らせるようにつんつんと立っていた。
驚きのあまり呼吸が乱れた男の視界に入ったのは、倒れたバイクと、破れて無残にも飛び散ってしまった幾つもの焼きそばパン。
そして、近くに見知らぬバッグが焼きそばを浴びて倒れていた。
「なんだ、あれ……。って、うぁああやべぇええええ!! 焼きそばパンぐぁあああ!!!!」
この世の終わりだと言わんばかりに男が頭を抱えていると、大地を引き裂くような地鳴りと風圧が彼の元へと襲い掛かってきた。
「な、なんだ!!??」
パニックを起こしてうずくまった彼へと、一人の女性が男の前で歩みを止め、ギロリと睨んで言葉を放った。
「おい人間。麻里のバッグ返せよ」
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