~園? 縁? 漢字ってめんどくねぇか~ ②

 男の身体は瞬時に宇宙へと投げ出され、背中を強打した。


 ――ってぇ!?


 確かに平坦な砂利道を走っていたはずだったのが、急な視界の反転。そして体中の激痛に一体何が起きたのかと、やっとの力で起き上がり、わけがわからないと頭を抱えた。

 目の前には無残にも散らかった焼きそばパンと、砂埃をかぶった見知らぬ人のバッグ、そして。


「おい人間。麻里のバッグ返せよ」


 明らかに初対面の女性――。しかも眼球が真紅に見える、化物にも見えかねないその眼光を放つ女性から、とてつもない殺気を向けられている。


 耳がおかしくなければ、この女性の声の奥底から恐怖にも感じる声も混じり、二重に聴こえていた。


 やべぇ、この女、ただもんじゃねぇ――――!!


 一瞬、脳裏にこの恐怖の塊と見える女性と同じ波長にあたりそうな、怒髪天を衝く総長を走らせてみる。

 自身の名前を怒鳴るように呼ぶ、唾を掛けるように放つあの声が自然と再生される。「虎太郎こたろうテメェどんだけ焼きそばパン待ってたと思ってんだよ!! 一秒一分待たせるタァ、腹くくる覚悟あんだよなァ?」と。


 既にバイクに身を任せていた時から出ていた冷や汗が更に吹き出す感覚がし、首筋を伝った。

 虎太郎が運んだいくつもの焼きそばパンは全て地に落ち、無残にも原型があるものないもの、沢山のものが飛散されている。

 ありとあらゆる危険な出来事が、彼に直面しようとしていた。

 それでも圧倒的に虎太郎の目の前に立つ女性の殺気に思わず息をすることを忘れてしまっていた。


 虎太郎の腕や足は一見細く見えるかもしれないが、無駄な贅肉は皆無だった。身体の引き締まった筋肉が、どんな奴らだってこの身体で蹴散らしてきた、女の腕ぐらい指一本で抑えられる自信だってある――と語る。

 だが――。

 彼自身、震えや冷や汗がとめどなく続く異常事態に、どうしようもできない程の殺気を感じていた。


 ここまでか……。総長、すまねぇ。こうすることを、どうか許してくれ――!


 虎太郎は震える手を抑えるように強く拳を握り、固く目を瞑った。


「おい、黙ってんじゃねぇよ。麻里のバッグどこだって聞いてんだよヤるぞテメェ」


 砂利地を蹴散らし、乾いた空気に砂埃が舞い上がり、彼を包む。彼女の瞳が驚くや否や、それを知るや知らぬや。男は足を踏みしめ、前傾姿勢をとった。



「っっっっんんもおぉううしわけございやせぇぇん!!!!」

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