第31話 ~入場門へは早めに集まりましょう(by招集係さん達より)~

 招集係により、風船割り合戦のための招集は掛けられた。


 那奈は、とうとう来てしまった競技に対し、明らかに恐怖が増してきていた。何かにすがりつきたいような、そんな気持ちになる。上手とは言えないモンパンマンの絵を施したアレスの姿を探すが見当たらず、尚更心がふさぎ込み初めているのが分かる。


「那奈ちゃん……」


 若菜は風船割り合戦のきっかけを思い出しつつ、一人の小さな子どもにここまでも影響が出てしまうものなのかと、ただただ見守っていた。


「若菜先生!」


 麻里とアレスが運動場へ戻り、若菜の元へ。


「麻里先生、百合先生、野河先生は大丈夫なの?」

「はい、先程意識が回復して、あそこに……」


 麻里は放送席の方を指した。そこには野河が飯田と園長にお詫びを申し出ていた。


「本当だ。よかった、ね。って、衣装着ないとじゃん!」


 若菜の言葉に麻里もそうだったと慌て、衣装を運動会の道具置き場へと走る。


「ほらアレスさんも!」


 アレスは何だ何だと言ってるうちに、麻里に引っ張られていった。そしてそれぞれが衣装を着だし、アレスは麻里に着せてもらう。


「これが俺様の格好だと!? ふざけんなよ! こんな気持ちの悪い!」


 着終わった後、アレスは麻里に叫ぶが、麻里も若菜もその姿を見て似合うと一言。今のアレスの格好は傍から見れば大きなマントを翻し、ブーツを履いた白い騎士のような(麻里の手製であるためところどころ歪なところもあるが)、品のある格好であった。


「はいはい、大丈夫ですから。いきますよー」


 麻里は退いていくアレスを強引に入場門へと引きずっていた。




「野河先生、本当に大丈夫なの?」


 飯田は数年前の出来事を思い出し、蒼白せずにはいられないでいた。


「大丈夫。あたし、この種目には何がなんでもちゃんとでないと、一生後悔する気がするからさ」


 飯田は目と耳を疑った。懐かしい。先程の野河と態度が一変しているからだ。何が起きたのかと、目線を彷徨わせる中、一点に止まった。


「まさか……ね」


 何が起きたかは分からないまま、飯田は衣装を着て暴れているアレスをみてふっと笑みをこぼした。

 野河は、大丈夫だからと言葉を残し、入場門へ駆けて行った。


「さて。本番よ、“百合先生”」


 未だ麻里や若菜に何かしらを叫ぶアレスをみた後、隣に座る園長へ視線を移す。園長は懇願するように手を合わせていた。


「きっと、彼女なら大丈夫だと思いますよ。、いろんなことがいい方向に変わってきていますから」

「ええ、ええ……そう信じたいわ……」


 園長はなんとか作った笑みを見せつつ、頷いた。


 入場門にアレス達がたどり着くと、では、白い帽子をかぶったチームの子ども達が嬉しそうにアレスをみていた。


「わぁー!」

「ゆりせんせいモンパンマンみたいー! マントがあるー!」

「ユリセンセイパンマンだー! あっははっ」


「うるせぇバカにすんじゃねぇよ!!」


 アレスは顔を真っ赤にして子ども達へ怒鳴る。


「似合ってますってば本当」

「全っ然! 似合っても嬉しくねぇぞ麻里!!」

「百合先生、別にそんなキレなくったっていいじゃないですか。いつも子ども達のヒーローみたいなものだし?」

「あ゛!? 若菜、お前やっぱり意味わかんねぇ、願い下げだっ!」


 

『次の競技は、4、5歳児による風船割り合戦です』


 アナウンスが流れ出し、若菜の表情に気合が入る。


「あ゛!」


 急に衣装を引っ張られた感覚がし、アレスは声を上げて驚くように下を見ると、うつむいた那奈が。


「何だよ、那奈か。大丈夫かよ」

「……。あんたいま、モンパンマンなんだから。ちゃんとしてよね」

「はっ。約束できねーけど。那奈こそがんばれよ」


 アレスが口元を上げると、那奈も真似をするように一緒に口元を上げた。






▶▶次回は1/22 pm8:00!

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