第30話 ~やっと手に入れたエネルギーの味はたまらない~

 アレスは一部始終の映像を見終わった。


「……。とんでもねぇやつがいたんだな」

「えっ? えっ、一体何があったんですか、アレスさん」


 麻里は何の事か全く分からないまま神妙な顔をしたアレスを見つめた。


「お前、あの時熱で倒れてたから知らねぇんだったな」

「あの時って……植野先生の時ですか? は、はい……」

「俺は、取り込んだエネルギーの記憶を見ちまうみたいなんだ。面倒くさいだろ」

「えー……と、うーん……」


 麻里はピンと来ていないようだったが、アレスは話を続けた。


「まぁ、麻里は分からなくていいんじゃねぇか。大体しか話せねぇけど野河は……あいつは昔、あいつに似た奴と一緒に居た」


 その言葉を聴くと、麻里にもなんとなくではあるが想像が着きはじめ、納得という顔で口元に手を当てた。


「エネルギーをまとえる要素たっぷりだったってこった。後悔の気持ちってやつか。異常だぜ。俺様の大好物なほどに膨れ上がってた」

「そんな……」

「それが、アイツになってたんだろうな」


 アイツとは、化け狸を指すのであろう。



「う……」


 アレス達の元で横になっていた野河の意識が戻ったようだ。


「の、野河先生、大丈夫ですか!?」


 麻里はすぐさま、体を起こそうとしていた野河を支える。


「っ……! 私は、一体……」


植野のエネルギーを回収した時と同じだと、アレスはすぐに感じ取った。


「……お前、記憶あるか?」


 お前という言葉に青ざめた麻里が慌てて立ち上がり、アレスの口を塞ぎ兼ねない勢いだったが、その二人を見た野河は、あろうことか微笑んでいた。


「ん……! 全然、ないなぁ。私はどうしてここに居るの?」


「え……!」


 一番驚いていたのは麻里であった。


「ちょっと、アレスさん何したんですか!」

「何ってエネルギー返してもらっただけだろ」


 麻里が血相を変えてアレスに近づくが、アレスの言葉には何処か納得が行く様で勢いを無くし、黙る。


「ねぇ、どうしたの?」

「えと、えとですね。運動会中に野河先生が倒れてしまったのですが、もう少ししたら風船割り合戦があって……野河先生は……出ないほうがいいかもしれない……ですよね……」


 麻里はしどろもどろになりながらも、人が変わった様になってしまった野河に現状を説明し始めた。


「部分的には思い出してきてるから。心配ないよ。出れるから」


 野河がゆっくり立ち上がると、麻里へ微笑んだ。麻里はまだ、野河の変貌ぶりには戸惑いを隠せない。


「で、でもっ」

「大丈夫。何年振りかな、気絶だなんてね」


 野河は深呼吸していた。


「なぁ」

「何?」


「守れなくてすまなかったって、アイツは言ってたぜ」

「え?」


「何でもねぇ」


 アレスは舌打ちをすると、そのまま顔を野河から反らした。


「……。そう、ありがとう」


 野河はそう言って、本部席へと歩き出して行った。

 心なしか。麻里には野河が頬の辺りを手で拭ったような、そんな仕草を、野河の後ろ姿から感じ取った。


 野河を見送った後、麻里もアレスと共に野河の意識の回復を伝えるため本部席へと走り出した。




「瑞希ちゃん、ありがとう。がんばるから」


 そこ言葉は誰にも聞かれることはない。自分に言い聞かせるように、野河は胸に手を当てた。


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