第54話 ~振り絞る力~
薫の近くで膝をついて、薫にまつわる記憶の映像を強制的に見せられた後に。
アレスの頬からは次々と涙が溢れてきており、
「あ……あ゛!? なんじゃこりゃ!!」と、涙を拭っては驚くばかりでいた。
「こいつ……俺の嫌いなエネルギー混ぜてんじゃねぇよ、クソッ」
アレスがそう地面を蹴りつつ立ち上がろうとした時だった。
ぎゅ――。
アレスの後ろから温かい体温が訪れ、気配に気がつくことが出来なかった自分に舌を打ちながら身を振り切ろうとした。
が、その主が怪我で瀕死状態のはずの虎太郎であると知ると、更に混乱が増していく。
「は!? あ゛!? お前頭大丈夫かよ!?」
「泣かないで……欲しいっす……」
「だぁぁぁわぁったから、これは俺様の涙じゃねぇんだよ、だから離れろよ!」
「申し訳ないんすけど……こんな弱った人、放っておけないっすよ。百合戦線は強がりなんすね」
へへへと力なく笑う虎太郎。
その笑顔がどことなく、コイツは誰かに似ているような、とアレスはひまわり保育園の人間を思い出す。
アレスがどんなに悪態をつこうとも、それでも純粋無垢でキラキラした瞳で「ゆりせんせー!」と話してくるアイツ。
「あー……。お前、輝みてぇな奴だな」
「え……ヒカル…‥? 誰っすか!? 男っすか!?」
「ああ。アイツは男だな」
「えええええええ!!!」
虎太郎はアレスには既に彼氏が居たと思い込み、ショックのあまりそのまま後ろに倒れ込む。
「おい!?」
そして近くにあった手の平程あるであろう石に頭をぶつけ、そのまま意識を失ってしまった。
「お、おい焼きそばパン野郎……訳分かんねぇとこはアイツには似てねぇけどな……」
仕方ねぇ奴だなと、アレスが虎太郎がぶつけたまま敷いている石を何気なく取るとまた虎太郎の頭部に衝撃が走るが、生命エネルギーのわかるアレスには、もう関係の無いことだった。
「あ、キンムに戻んねぇとな。俺様は忙しいんだからよ」
と、アレスが立ち上がると、既に観衆に囲まれており、それまでは全く気が付くことができなかった。
アレス達をパラパラと取り囲む人。
それぞれ「何があったんだ」と倒れた薫や、爆愛皇飛のメンバー達を見ては、「撮影?」「いや、俺怖くて警察呼んじゃったよ」など聞こえてくる。
「……あ゛? お前らなに見て……」
アレスが野次馬に向かって一嵐巻き起こそうとすると、アレス達の目の前に、一台のパトカーがサイレンを鳴らしながら現れる。そして、それは一台にとどまらず、数台やってきていた。
「うるせぇなでけぇ音だしてよ! お前らなんなんだ!」
アレスが喚くと、パトカーから降りてきた警察は、アレスを見て安堵している様子で「女性一名、無事確保です」と、言いアレスに対して事情聴取をしようとする。
もちろん人間の警察の言っていることはさっぱりわからないでいるアレスである。
「あ゛? 知らねぇよ」「うるせぇなどっかいけよ、俺様はキンムチューなんだ」等しか答えることができず、警察もしどろもどろになるのだった。
警察達は薫、そして虎太郎や爆愛皇飛のメンバーの意識を確認して回るが、全員気絶していたため急いで救急車を呼ぶのだった。
・・・・・
「外に出たはいいけれど……」
「は、はい……」
飯田の息子の元へ行きたくとも、飯田と麻里はどこへ向かえばいいのかとおろおろしていた時だった。
「あれ……? 飯田先生、警察、ですかね」
遠い場所からいくつものサイレンが二人の耳に聞こえてくる。
「本当……なんだか今日はいろいろある日ね……」
うちの息子じゃないといいんだけど、冗談めいてぼやいた時、弾かれたように二人は顔を見合わせた。
「「ま、まさか!?」」
息もピッタリとなった二人の予感はもう他に行く宛もなく、やっと行き先が決まったと、サイレンの鳴る方向へとひたすら走るのだった。
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