第42話 ~ナツマツリってなんだ?~
香菜の話が一段落したとき、廊下に足音が響く。この体重が掛かった足音はきっと彼女だろう。
「あ、いたいた、皆。園長先生が夏祭りについて話し合おうってさ。香菜先生は、後で百合先生達と交代して、職員室まで来てもらっていい?」
野河がアレス達にそれぞれ視線を向けると、集合をかけた。
「あ、はい!」
「はい」
麻里と香菜が返事をすると、アレスがまた二人を見る。
「あ? 何だ何だ? ナツマツリって何だよ麻里」
「えっと、子ども達とお母さんやお父さん、あと、地域の人たちも参加できるお祭りを、ここでやるんですよ」
「へー、ヤりあうのか。そりゃ楽しみだな」
口元を緩く上げたアレス。彼の楽しそうな表情といえば決まって人間にとって命のかかる負な事柄ばかりである。ものすごく勘違いをしているであろうアレスに人差し指を立てる麻里。
「百合先生、だからそのヤるって絶対命掛かってますよねやめてください」
「え、違うのかよ」
「ち! が! い! ま! す! まったくもう……。楽しいことするんです!」
「はぁ、そりゃ絶望的に退屈そうだな」
その言葉に思わず肩をぐったりと落とす麻里だった。
「百合先生、記憶を失ってからキャラ違いすぎてびっくりだな……。と、とりあえず二人とも職員室に行ってきなよ、後で交代してね」
「はい」
「おう」
香菜に促され、麻里が教室から出るとアレスもその後をついて出ていった。
廊下を歩く最中、麻里の表情は先程の香菜のストーカー被害について聴いた後から、明らかに歪んでいた。
「おい大丈夫かよ、麻里」
「は、はい……。でも、怖いなって思って……」
「……そのすとぉかあって俺様より怖いのかよ。ありえねぇ」
「アレスさんは……怖く、ないですよ」
「はぁ!?」
アレスの瞳をまっすぐ見て感想を言う麻里に、アレスはガニ股になると素っ頓狂な声をあげた。
「俺様が怖くないとか、いよいよおかしくなったか麻里」
「いやその、わかりますよ。アレスさんは元魔王ですし、怖いのが当たり前なんですけど……。その、アレスさんは素直じゃないですか。だからかも」
「わけ分かんねぇな。今度そのすとぉかあをとっちめて、俺様の方が怖いって思わせてやるからな絶対」
「……それも何だか怖いですね」
「だろ? 分かったか」
口元を釣り上げて満足気に笑うアレスだった。そんなアレスに、やっぱり素直じゃないかと頬が緩む麻里だった。
職員室に着いた二人は扉を開ける。
「失礼します」
職員室には園長、主任である飯田と他の職員も集まり、自然と円になるような形で立って待機していた。
「百合先生も、麻里先生も来たわね。先生たちもこれ以上は揃いにくいかしらね」
「そうですね、園長先生。このメンバーで話し合い、始めましょう」
園長と飯田が軽く頷き合うと職員たちはそれぞれ姿勢を正した。
「えーと……。皆、忙しい中で集まってくれてありがとう。もう皆も知ってるとは思うけど、夏祭りの時期がやってきたわ。今年もスイカ割り大会や、小さいけど……花火大会もできたらと思うから、よろしくね」
「はい!」
職員たちが一斉に声を出し返事をした。
「それで、夏祭りでの係を決めていきたいと思うんだけど、出店係、舞台係、花火係とまずは大まかに決めたいと思うの」
園長の言葉に職員達がそれぞれ頷き合う中で、隣に立っていた飯田が職員たちにプリントを配りだす。
麻里やアレスもそれを受け取り、プリントに視線を落とす。そこには、大まかな夏祭りについての時間の振り分けや、係決めの欄等が記されていた。
「……なんだこれ新たな呪文か?」
「しっ!! お願いですから今は静かにしてて下さい」
職員の視線が一気にアレスに注がれる中、今の“百合先生”がジョークを言う先生というキャラクターにもはまりつつあるということもあり、すぐにまたそれぞれの視線がアレスからプリントに戻った。
その視線を見て麻里も安堵してプリントに視線を戻すのだった。
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