~ただの人間なら魔術は使えない~ ②


「クソッ、どこまで行くんだアイツ――!!」


 自分と同じ魔力を使うとは、一体何者なのか。興味もあるが、だが今は麻里に掛かっている魔術をどうにかしなければという気持ちの方が強いかもしれない。アレスはそんな気持ちで追いかけていた。


 園の敷地内の駐車場へ出た時、アレスはついにその女の腕を捕まえた。


「きゃっ!」

「やっと捕まえたぜ。おい、お前一体――!」


 アレスは捕まえた女性の顔を見て少し驚いた後、ニヤリと笑う。


「やっぱりお前かよ、植野うの

「……! あんたっ、一体何なのよ、お前かよって、何なのよ!!」


 植野はアレスから力強く腕を振り解く。

 目つきが先程までとは違う。明らかに人間では無い程の鋭さ。


「お前、いい目してんな」


 アレスを見たまま、後ずさる植野。

 以前の“百合”の身体からは発せられなかった、凄まじい威圧感に圧倒される。


「お前は何故麻里にこだわるんだ?」

「何故って……だってアイツ、ふざけてるじゃない」


 アレスからの威圧での恐怖なのか、半ばあざ笑うかのような表情を浮かべた植野。


「何をだ」

「全然仕事できてないし、あたしたちの話だって聴きやしないんだもの」

「それが、何だよ」

「何だよ、って……!」

「できない、ない、何だそれ。そんなしょうもねぇことで、アイツを半ば殺したわけだな」

「は!? 殺した? 大袈裟すぎじゃないそれ。真実でしょう!?」


 植野が両手で空をたたきつけるような怒りを表現し始める。


「人間は生す、殺す言葉に敏感だな。これだから困るんだよ人間は。言葉はな、呪文なんだよ。当たり前だろ」

「あなた何言って……」

「麻里にずっと、長い間呪文をお前がぶつけて来たんだろ。あれは立派な攻撃呪文に侵された姿だったぜ。生身の人間によぉ、大したもんだぜ」

「そんなつもりじゃ……」

「嫌いじゃないぜ、その魔術の使い方」


「は……!? あたしはただの人間……!」


 ただの人間、という言葉に大きくため息をつくアレス。


「どうみても違うだろ。どうしてお前は魔力が使える」

「魔力……って? 知らないわよ! そんなの!!」


 声を荒げた植野へ、アレスは左手をすっとあげ、向けた。


「……俺様の魔力で聴きだしたっていいんだぜ」

「ねぇ、百合先生、あなたそんな事ができるわけ」

「出来るんだよ、それがな。お前の言う、“百合先生”じゃないからな」

「え……本当に、あなた、何言って……」


「わが呪文に従い正体を表わせ。リヴィア――!」


 アレスが呪文を唱え、瞳が赤く光った瞬間。植野が途端にうめき声を上げた。


「う゛ぁああああああ!!」


 植野の身体に重なるように、そして、植野の身長を遥かに超えた大蛇の形をしたエネルギー体が現れた。大蛇の近くには園の木々が生えていたが、それよりも遥かに高い。


 高い場所からアレスを、大蛇の瞳がじろりと見た。


 植野の瞳は赤々と鋭く光り、口からは人間とは思えない、耳に入れればおぞましく震え上がるような音声を出していた。


『何故 私の姿が 見える』

「麻里の首に絡みついてたろ。見せてもらったぜ」

『お前は 何を 言っている』

「ふん、俺は最強の魔王だぜ? お前みたいなエネルギーが俺は欲しかったんだよ。見つかったのが運の尽きだったな」

『何を 言っている!! お前こそ 人々が苦しむ事を 見ることが 嬉しかっただろう』


 分かるぜ、当たり前だろと、その言葉に口元を吊り上げるアレス。


「うっせえな。今は俺様の事で手一杯なんだよ」

『お前、何を……!?』


 以前は膨大な力をもっていた魔王であったのに、今は、その力がほぼないということに等しい。

 アレスにとって失った魔力を取り戻すことは絶対にしなくてはならないことだった。

 アレスは力を取り戻すという決意を拳とともに噛みしめる。


「あのな……俺様に見つかったってことは、もう俺様のモノになるしかねぇんだぜ」


 文句あるかよ。そう吐き捨てたアレス。アレスの口元が明らかに釣り上がり、悦ぶ。


『ふざけるな!!』

「ふざけるな、だ? お前、麻里にも絡みつきやがって。麻里は俺様の手下なんだ。手出すんじゃねぇよ」


『ウォオオオオオオ!!!』


 大蛇は大きく尾を振る。アレスは待ってましたと言わんばかりに尾を


『何故だ! 何故!! 受け止められる!?』

「俺様の大好物なエネルギーでダメージ受けるわけねぇだろ。馬鹿かテメェ」

『……!!』


「もっと楽しませて欲しかったが……じゃあな」


 アレスは左手に力を込めた。


「我が身の一部となれ。ボイド――!」


『グァアアアアアアア!!!』


 アレスの左手が力いっぱい開くと、エネルギー体を勢いよく吸い込み始めた。

 大蛇は取り込まれる恐怖を抱きながらもアレスの左手に吸い込まれていく。


 大蛇が叫び声を上げながら消えて行くと植野だけが残り、意識を失って倒れた。

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