第10話 ~ただの人間なら魔術は使えない~ ①
頭を規則的に何かに打ち付けられるような痛みと、震えがとまらない異常な寒気が麻里を襲う。
麻里は園庭にある、子ども用の小さな腰掛けについに座り込んでしまった。
子ども達が麻里に掛けより、麻里の顔を覗き込んでいる。
「まりせんせいー! だいじょうぶ? ぐあいわるいの?」
「かぜひいちゃったの?」
「皆、ありがとう、大丈夫よ……」
「おい麻里、しっかりしろって……」
心配したアレスが麻里の肩を少し揺さぶると、麻里は苦しそうに声を上げた。
「アレ……百合先生、揺らさないでください……!」
「あっ」
「あー! ゆりせんせい、いけないんだー!」
「やさしくしなきゃいけないのに、いけないんだー!」
「ごめんなさいしないとだめっ!」
アレスは一斉に子どもたちからの非難を浴びた。
「そ、そんな顔すんなよ
ぽつりとアレスが言うと、「なにかいった?」と大人びた台詞が帰ってきてまた驚いたのだった。
「わるかった、麻里、だいじょうぶか?」
「百合先生……すみません、ちょっと……飯田先生の所へ行きたいです……」
「お、おう!」
行きたい、と麻里は言うものの、なかなか動くことが出来ない。
それほど、麻里は辛そうだ。
どうして、そこまでしてこんな所に居るんだと眉間にしわを寄せたアレス。
「おい……。俺だったらこんな訳の分からない女や
「もー! なにやってるのさ、ゆりせんせい!」
「な、なんだよ、ヒカル」
「いーだせんせいのこともわすれちゃったんでしょ! ぼくがつれていってあげる! まりせんせい、ここでまっててね」
「うん……輝くん、ありがとう……」
輝は半ば必死にアレスの手を引いて園庭から室内へと連れて行った。アレスも室内と外を何度か行き来しているうち、靴の扱いにやっと慣れてきたようだった。
職員室の前まで輝がアレスを引くのを止めた。なんだとアレスが思っていると、輝はドアを引いて開け、こじんまりとした硬そうな机にいた飯田に声をかけた。
「いーだせんせー! まりせんせいがたいへんだよー!」
「あら、輝くん。麻里先生がどうかしたの?」
「あいつ、動けねぇみてぇなんだ」
「百合先生、そうなのね。教えてくれてありがとう。麻里先生は今どこ?」
「おそとだよー! おそとのイスにいる!」
「わかったわ」
飯田はすぐに立ち上がると、すぐさま先に走って外へと出て行った。
「人間って不思議だよな。人を怒ってみたり、あんな走って行ってみたりよぉ」
わっかんねぇと、輝が見上げた時に声を出していたアレス。
「そっかぁ。にんげんは、ふしぎなんだね」
訳がわかっているのかどうなのか、輝は納得したように走っていく飯田を見つめていた。
「麻里先生! 大丈夫なの!?」
園庭の椅子にうずくまるようにして座っていた麻里に駆けつけた飯田。
「あ……飯田先生すみません、頭がガンガンして……」
「分かったわ、それにしても、こんな短時間でひどくなるものなのかしら……」
不思議そうに麻里を見ていう飯田を見て、アレスはふと魔力を使えるかもしれない人物が、自分の他にも居るかもしれないという事を思い出した。
リヴィア――。
アレスが心の中で呪文を唱え、瞳に魔力を込める。
思わず、麻里の名前を叫びそうになったアレス。そこには、視覚的にはっきりと見えるぐらいの大蛇の形をしたエネルギーが麻里を包み込んでいた。
エネルギーというよりもう、大蛇の霊体にも見えかねない程のリアルさになっていた。大蛇は、麻里の頭を押さえつけるようにしていた。次第に、強く、強く。
「誰だ!? 麻里に何してやがる!!」
アレスはついに声に出し、周囲を注意深く探した。
「ちょっと、百合先生どうしたっていうの! 冷静になって!」
突然のアレスの大声に、飯田はびっくりして百合に落ち着くように接する。
「お前、分かんねぇだろうから引っ込んでろよ!」
「ちょ、まったくあなたはもう……!」
飯田は半ばあきれながらアレスを見つめる。
一方、魔力を感じる所を必死に探すアレス。
五感を頼りに探っていると、じゃり、という音が耳に入り、音がした方を見た。
「――!? 待ちやがれ!!!」
一人の女が木陰に隠れつつ走って行っているのが見え、アレスはそのまま追いかけていく。
「ちょっと! 百合先生!? まったく……麻里先生、大丈夫? そうね、まずは職員室へ行きましょう、少しでも休まるように」
「すみません……」
「まったく……百合先生ったらどこへ行ったんだか……」
「え!? アレスは何処かへ行ってしまったんですか……!?」
「アレス?」
「いえ……ごめんなさい、百合先生です……」
「ああ、よく分からないけど、何かを見つけたみたいで走って行ってしまったの」
「そう……ですか……」
行かなきゃ、と思いつつもなかなか思うように動けない麻里。
「ほら、麻里先生、今は歩くことに専念して」
「…………はい……」
気が気でなかったが、身体が思うように動けない。苦しい、寒い、頭が割れそうに痛く、働かない――。仕方なく麻里は、今は飯田の話を聴くことにした。
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