第15話 ~運動会にだって手作りの小道具が必須~
園長室では主任の飯田と共に運動会のプログラムを見直している最中だった。
それぞれの担任の運動会の種目の案が書かれたプリントに目を通した園長は、掛けていた老眼を外し、プリントを綺麗に整えた。
「“百合先生”よねー……」
「そうですね、“百合先生”が抜けた今回の運動会はかなり厳しいです」
「彼女、本当先輩後輩関係なく引っ張って行ってくれたものね……」
二人は園長の机に置かれてあった、職員の集合写真を眺めた。
百合の笑顔はどこか凛としていた。
「百合先生が居るのにどうして出ないのだろうとか、保護者の方は思ったりしないかしら……」
園長は口元に手を当てて低く唸った。
「百合先生をそのまま出すわけには……だって、全然性格が違いすぎますよ?」
「そうね……。急がないといけないけれど。飯田先生、浮かばない時は仕方が無いわ。ここは一旦考えておくことにしましょう」
「そう……ですね」
「失礼します」
「じゃまするぜ」
園長室に、麻里とアレスがやってきた。
「あら、ごめんなさいね百合先生、麻里先生。私を探してた?」
「あ、はい。あのすみません、飯田先生、私達に頼みたいことって」
「ソウジは嫌むぐっ」
麻里は即座にアレスの口を抑えた。
「なぁに?」
「いいえ何でもないです」
「ふふ、そう。あ、そうだわ、ちょっと倉庫までついてきてくれる?」
・・・・・・
「なぁ麻里、俺は何故一体こんなことを」
「なんだか凄く可愛らしいことになりましたね、アレスさん」
通常通りの勤務が終わった後のたんぽぽ組には、アレスと麻里の二人きりだった。いつもと違うといえば、運動会前の準備期間ということで勤務後でもクラスで残って作業をするということと、アレスの腕にはビニールテープが無造作に巻きつけられている。
られている、といっても誰かにされたのではなくアレス自身の慣れない作業でそうなってしまっていた。
飯田に頼まれた仕事内容は運動会で使用される、子どもたちのポンポンだった。ダンスの競技の小物として使うらしい。
「あ゛ー、め゛ーん゛ーどーぐーぜー」
「アレスさん……なんだかもう、今は大きな小学生にしかみえません」
「あ゛? 何だよしょーがなんとかって」
「い、いいです。アレスさんはまだ可愛らしいってことですよ」
麻里は説明が面倒になって可愛いという言葉をもってきたが、アレスはその意味だけははっきりとわかったのか
「ふっ。麻里はまだまだだな。俺は魔王だぜ。可愛いわけがねぇだろ」
どうだまいったかという顔で返すものだから更にこみ上げてくる微笑ましい気持ちをぐっと押さえるのだった。
「しっかしよ、どうしてこんなことばっかりやってんだよ下民は」
「ア、アレスさん本当言葉が怖いですから。いつ聴かれるか……! せめてここでは“先生達”って言ってくださいよ」
「俺に指図かよ麻里。仕方ねぇな。せんせーだな」
ふぅ、とため息をつくアレス。
「まぁでも、そうですね……。行事前は、本当に休む暇が無いっていいますけど……」
大きくあくびをする麻里。アレスはそんな麻里を見て自分の口が自然と開くのがわかった。
「ふぁぁ……。本当、人間の身体はこんななのによ。どうしてお前ら人間同士はキツいことばっかりさせるんだろうな」
「わ、私に言われても……。私は休みたい方なんで、困ります」
「だよな。麻里はそうであってくれよ」
もつれたビニールテープをうっとおしく解こうとしてはいたが、先程のアレスの表情は魔王というよりか、一人の心配する人間に見えて不思議な気持ちになる麻里だった。
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