第41話 ~すがりたい、手~

 アレスが香菜のクラスを後にし、残された麻里は震える香菜の背中をひたすらさすっていた。


「香菜先生……。一体どうしちゃったんですか……!」

「ごめん……なさい」

「え?」

「私が、私が……」


 香菜はすがるように麻里へ手を伸ばしたため、しっかりと握る。


「だい、じょうぶですよ、そう! 大丈夫です!」

「ごめんなさい……!」


 麻里はその後も震える香菜へ必死に大丈夫ですと声をかけた。何と言えばいいのか分からなかったようだが、ひたすら、香菜を安心させられればと思いついたのもあってその言葉を繰り返していた。

 すると、次第に香菜の震えが治まり、息遣いは肩が上下するほど荒かったものから、小さくなっていった。


「かなせんせい……」


 子ども達もその様子に安堵して香菜へ抱きつく。それを見た子ども達は次々と押し寄せて、香菜の頭をよしよしとなで始めていた。


「あ……皆……」


 瞳に輝きを取り戻した香菜に、麻里は安堵のため息を付いた。


「麻里先生、ごめんなさい、私……」

「いえ、そんないいんです。それより、あの……もし、困ってることとかあったらその、力になりたいので……いつでも、言ってください」


 麻里の言葉に思わず涙がこぼれる香菜。


「ありがとう……。今は子ども達が居るから……また、後でお願いしていいかな……?」

「はいっ!」


 麻里は強く頷いた。香菜のただごとではない症状。こちらには、あのアレスがついている。


・・・


 アレスは、園庭に出るとすかさず瞳にエネルギーを集めた。うっすらうごめくものが視界中をあちこちしている。

 踏み出すにも、狙うエネルギー体があちこちに移動されるため地団駄を踏むような姿になるアレス。


「おい! じっとしろてめぇ!」

「わ、何かありましたか!?」


 園庭に駆けてきた麻里に振り返るアレス。その紅く染まった瞳にはまだ慣れず、目が合って「わ゛っ」とするのはお約束。


「ああ。“居る”んだよ。ただ、あちこち動き回っててうざってぇんだよ」

「そうですか……」


 麻里と会話しつつも追っていたアレスだが、急に反応がなくなってしまい、舌を打つ。


「チッ……ったくよ。胡散臭えな今回は」

「そうなんですか……。何だか、胡散臭いというより、私は怖いですけど……」

「あ? ったく、麻里は心配する必要ねぇよ」

「わっ」


 麻里は背中を軽く叩かれ、少しだけバランスを崩す。アレスは口元を釣り上げた。


「力に関しては俺様とは桁が違うからな」

「そ、そうですね、そうでした」


 アレスに小突かれたお陰でそちらに気が向いて心臓が軽く跳ね上がり、落ち着くと力なく笑う麻里。


「ま、じっくりでも俺のもんにするだけだからな。いいだろう。麻里、香菜はどうなった」

「その、香菜先生が……震えた後に“ごめんなさい”って言い出して……。あれは私じゃなくて、誰かに“ごめんなさい”って言っている感じでした」

「ほう」

「それから、こう、助けを求めるように、私の方へ手を伸ばされたので握り返しました。そしたら、少ししたら落ち着きました」


 麻里が右手をアレスに向かって手を伸ばし、それを自身の左手でぎゅっと握りしめて再現した。


「……そうか。それが一番だろ。まぁ、ここの人間の魔力じゃそんくらいの短時間のレベルだろうしな。よかったぜ」

「はい……でも、怖いですね……」


 香菜の様子によほど緊迫感があったのだろう。麻里の言葉に頭をかくアレス。


「ん゛ー……俺様の立場としちゃ何とも言えねぇけど。それが魔力だからな。とりあえず、後で香菜に話でも聴いてみようぜ。そのエネルギーを手に入れるチャンスでもあるからな」

「はいっ。香菜先生も、話してくれそうなので」


 麻里が嬉しそうに声を出す様子を見て、アレスの口元は緩んだ。

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