第38話 ~役割・負けられない戦いは先生達にだってある・完結~
真っ白な世界。上を見ても、下を見ても、見渡す限り真っ白である。
百合の意識だけがはっきりしていて、不思議な感覚に包まれながら辺りを見回した。
「ここは……どこ?」
「こんにちわ。迷惑をかけてすみません、佐奈田先生」
真っ白な空間に、男性の声がした。
「えっ、あの……どこ、ですか?」
「僕たちの身体は今はここには存在しません。今は、そうですね……真っ白い部屋で、テレパシーのようなもので話している、ということでご理解いただければ」
「は、はぁ……」
どこか明るく感じる男性の声に、少々不気味なものを感じはじめる百合。
「この度は、アレスくんのわがままに付き合ってもらってすみません」
「アレス……わが、まま?」
「彼は、生きてみたいと願ったもので、ちょっと連れていってみたくなったんです。人間の世界に」
「はぁ……。あの、意味がわからないのですが……」
「でしょうね。すみません。こちらの一方通行になってしまって」
「いえ……」
「アレスは、真のエンディングを創り出せるかもしれないですから、もう少し、あなたの身体を貸していただけないでしょうか」
男性の言葉にますます混乱している百合。
「それって……」
「彼を通して、人間の世界が見えてこちらも助かるんです。佐奈田先生は、
「休憩……そんな、私そんなことしてる場合じゃ……!」
「佐奈田先生、いろんな世界も楽しんでみてください。それでは……」
「え! ちょっと!」
意識だけの世界から、どこかへ吸い込まれていく感覚がして、それからぷつりと途絶えた。
「……リ、ユリ?」
目を覚ますと、高い天井と、ウィルの姿が目に入った。
「ウィルさん……」
「大丈夫か? うなされてたからさ……」
「そうですか……。ここは?」
「ここは、城の中の部屋だよ」
ウィルの言い方からすると、いくつもある個室のようにも聴こえたが、室内の高値のつきそうな置物や灯に、百合にとっては豪華なホテルの一室に感じられた。
見慣れない、魅力ある室内に一通り周囲を見回すと、そんな場合ではなかったと、はっと我に返った百合。
「あの、ウィルさん、私……私……」
百合の表情が次第に真剣になり、そしてウィルの瞳を見つめた。
「ユ、ユリ……?」
ウィルはその表情に心拍数があがるのを感じながらゴクリと固唾を呑み、しっかりと聴く体勢をとった。
「私……」
「ああ……」
「ティナさんの所へ行きたいんですが……!」
ガクッと思わず身体のバランスが崩れたウィルは、まぁそうだよなと言葉がこぼれ気を取り直して姿勢を正す。
「じゃ、行くか。無理はしないでくれよ?」
「はいっ」
ウィルはベッドから立ち上がろうとする百合を支えようと手を差し伸べる。
「……すみません、ありがとうございます」
百合はウィルの親切心に答えようとそっと手をとった。ウィルは心があたたかくなることを感じながら、守りたいという気持ちも込めて握り返した。
ティナは、城の最上階にある祭壇から外の風景を慈しむように眺めていた。やわらかい日差しや風をうけ、瞳をとじる。
瓦礫が広がる世界であっても、必ずどこかに希望の光は注がれている。
「ティナ」
ウィルの凛とした声にティナは瞳をあけた。そこにはウィルと、困惑した表情の百合が立っていた。
「ユリ! もう大丈夫なのですか?」
「はい、体の方は、なんとか……」
「よかったです。まだ休んでいたほうがいいでしょうに、どうしたのですか?」
百合が何かを言わんと察したティナは、柔らかい笑顔を浮かべた。
「あの……。どうして私がここにこなければならなかったんでしょうか……」
「ユリ。そうですね……。意味がないことは、ないはずだと私は信じています」
「そう、でしょうけど……分からなくて、怖くて……」
「そうでしょうね……。でも、大丈夫です。生命は、希望や奇跡を生み出しますから。一緒に、見つけましょう。ほら、ウィルもいますし寂しくないですよ」
百合を安心させようと笑顔を向けたティナ。
「あぁ。俺はいつでも側にいるから、さ」
ティナと百合に視線を向けられ、照れくさそうに頬をかくウィルだった。
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