第37話 ~身体が……!?~

「そう、か……通りでありえないことが起きてるわけだ……」


 ウィルは腕を組み、眉間にしわを寄せた。


「ありえないこと……。まあ、確かに私はここの人間じゃない、ですし……」


 その言葉に、ティナは百合の顔へ自身の顔もぐっと近づけ、更に瞳を輝かせていた。


「やっぱり、から来てしまったのですね!?」

「はい……こんなお城とか、私の世界にはランド系にしかないですし」

「らんどけい?」

「えと……すみません、大人や子どもが遊ぶ場所とかそういう意味です」

「そうなのですね、私には、到底想像できないです」


 興味津々に言うティナに、今度はウィルが困惑の色を見せ始めていた。


「なぁ……そしたら、この国の王の継承者は誰になるんだ……」

「ええ……。私もそのことについてはなんとも言えなくなります……」


 ウィルとティナの言葉に百合はただただ頭にクエスチョンマークを増やすばかりだ。


「ウィルさん? あの、状況がつかめないんですけど……」

「あっ、ユリ、ごめん……。ユリにはまだ話してなかったね……」


 ウィルは「どこからどう話そうかな」と、頭をかく。


「えっと……。ユリが現れる前、実は俺たちは魔王と戦っていたんだ。最悪で最凶の」

「はい……」


 ゆっくりと、頷く百合。


「だから、その……今はユリの姿をしているけど、その前のユリの姿は、魔王だったんだ……」

「え……!?」


 何が起きているのかと後ずさる百合。つい先程まで仕事の現場にいたというのに。とんでもない状況でこちらに来たのではと推測を始めた。

 混乱から、次第に涙をうかべた百合にウィルは驚いて両手を振った。


「ちょっと、待ってくれ! ユリを泣かせるつもりなんてないんだ」

「ごめんなさい、混乱しちゃって……」

「いや、俺の方こそごめん……。あ! もしかして誤解してるかもしれないけど、俺たちが戦っていたのは確かにアレスだったんだよ」

「え……?」

「おかしいなって気がついたのは、アイツが俺たちの最後の攻撃を受ける直前だった。様子が、変だったんだよ」

「そう、なんですか……?」


 ウィルは百合に話している最中、戦いの状況が脳裏に浮かんでいた。

 そう。倒される直前、魔王アレスの様子がからだ。


 プログラムになかったはずのものが、動き出していた。


「だから、ユリは悪くない」

「そう……なんでしょうか……」

「ああ! 悪いのはアイツだから」

「……ふふっ」


 ウィルが腰に手をあてて自信をもって言う姿に、百合は笑みがこぼれ、それまで溢れていた涙を拭った。

 ウィルがその姿に一瞬瞳を奪われたのは、彼女が美貌であるという理由だけではなかった。


「ウィルさん、そこまで言うんですか」

「……ああ、ああ! アイツは元魔王だしな」

「ふふ、元魔王って。今はどうなっているんでしょうね……」

「ほんとだな。案外元気にやってるかもしれないな。どこかで」


「アレスは……もしかして、ユリの生命の元にいるのでは……」

「え……!?」


 おもむろに口を開いたティナの言葉に、感覚的に一番しっくりきていたのは百合だった。


「私の、身体……!?」

「おぉ!? ……っと!」


 気を失ってふらりと倒れていく百合の身体を、ウィルは反射的にしっかりと支えたのだった。


「ったくアイツは……! どこまで自由なんだよ!」


 ウィルはかつての記憶にあるアレスに向かって叫ぶのだった。


 そのときのウィルの記憶の中にいたアレスはまだ幼く、強気で、笑顔のたえない少年だった――。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る