第36話 ~ウィルと共に……。~
ここがゲームの中の世界と知った百合は精神は不安定であるが、成り行きであるがウィルと行動を共にしはじめた。
竜の背で風を強く感じるも、自然と息が出来、居心地はよかった。晴れ渡る青空の下に見える景色はのどかと言うには程遠い。
「なんだか、本当、瓦礫の山ですね……」
「そうだな。だけど魔王を倒した今、女神は活躍できるから」
「女神?」
「女神は癒やしの力があるから、魔王によって奪われてしまったもの全てを復活させられるんだ」
周りの状況も、ウィルの言葉も何が何なのか全く把握できないが、とりあえずこれからは平和になる、ということなのだろうと百合は捉えた。
空から見る景色が瓦礫という瓦礫から、ようやく建物らしき町並みへと移り変わる。
そして、城だと思える巨大な建物が近づいてくると百合達を乗せた竜は城の頂点へと上昇し、ゆっくりと減速しつつ着地した。
「着いたぜ。ここが俺たちの城、ヴァンガルド城だ」
「なんだか、映画並のスケールの大きさですね」
ヴァンガルド城の頂上から見る景色は、竜の背にのって居た時の景色よりも上空に感じる。
「ここには、女神も降臨するから。祭壇もここにあるんだよ」
「祭壇?」
「ああ。ここがその祭壇」
ウィルに言われ、頂上の周りを見渡してみると、数々の光り輝く宝石と紋章が描かれた置物がいくつもこの場所を取り囲むかのように置かれていた。
“おかえりなさい、ウィル”
突如した、頭に響き渡った声に驚いて、手を頭に当てた百合。
「お! ティナ、よかった、もう復活できたんだな」
“がんばりましたね。あなた達のお陰で、力を取り戻す事ができました”
「ああ。いろいろあったよ、本当に……」
ウィルは瞳を閉じて胸に手を当てる。
すると、ウィルの胸元に光が集まり、それがだんだんウィルが胸元に当てた手と重なる手の形となり、身体の形を創り上げていく。
「ウィル……。全部視えましたよ。アレスの事……大変でしたね」
声がはっきりとウィルや百合の耳にも届いた時は、銀髪が腰まで伸びた髪と肌が白い事を印象に受けた女性が立っていた。
「ティナ……!」
ウィルが熱いものがこみ上げてくるものから、瞳に涙が溜まっていく。
「ほらもう、泣かないでくださいウィル。私はもう大丈夫ですから」
ティナが、「ね?」と言いながら微笑むと、ウィルは涙を腕で拭う。
「あぁ」
涙を拭いながら軽く頷いていたウィル。
その姿をあたたかい気持ちで見守っていたティナは周囲に視線を向け始め、そこで百合と自然に目が合った。
「あなた……」
ティナは驚いたように百合の側へ駆け寄る。白い彼女のドレスが風をふくんで綺麗に、ゆったりとはためく。
その姿に見とれていた百合は、自分の目の前に彼女が来た時、更に緊張と彼女の綺麗さから、鼓動が高まった。
「懐かしい……。あなたから、アレスの、香りがするわ……どう、して?」
ティナは驚いてウィルを見つめたその瞳には、少し不安の色が見えた。
ティナはアレスが男性だということは知っている。
それなのに、何故女性になっているのかと不可解の様子だった。
「俺も、魔王を倒した時にアレスが姿を現すかと思ってたんだけど……。どういうわけか、彼女が現れたんだ」
「なんてこと……。そしてあなたからは、“生命”を感じるわ」
「“生命”? どういう、ことなんだ?」
ウィルとティナが二人して驚く中、百合だけが更に困惑していく。
「えっと……えーっと……」
「あっ、ごめんなさい。あなたは、“ここの世界”の人間ではありませんね?」
ティナにズバリ言い当てられ、百合は言葉が出ずそのまま何度も頷いた。
「そうでしたか、それは大変でしたね……。でも、どういうことかしら……」
ティナは自分だけでなく、百合の不安も取れるようにと、手をそっと握っていた。
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