~晴れ渡る空の下で~ ②
「ぎゃぁ!!」
「わられたぁぁ……!」
割られた子ども達の中に、涙ぐむ子どももちらほら。
那奈が戻った後繰り広げられた戦いは、赤組は野河が率いていた子ども達だけあって白組への攻撃はかなり優勢であった。
次々と白組チームの、割られた子ども達が控える待機場所へと集まっていく。
「1回戦は、赤組さんの勝ちでした! 白組さん、頑張って下さい!」
麻里はアレスと那奈のやりとりを冷や冷やしながら見つめてマイクを持っていた。
「ったくよー、狙われてもすぐ返り討ちしろよな」
「那奈ちゃんはそんなことできないですってっ!」
腕組みして機嫌を損ねるアレスに若菜は驚いて返した。
「んー……」
アレスは腕組みをしたまま白組の子ども達へ向かう。そこには、1回戦で負けた時の悔しさと、半分諦めの表情が見える子ども達の姿が。若菜もアレスの行動につられてついてきた。
「お前ら……」
「ゆりせんせいー!」
「いっかいせんまけちゃってくやしい!」
アレスに向かって訴える子ども達。子ども達が立ち上がろうとし、若菜が制する。
「ほらちょっと、皆、座って!」
足元には次の合戦の風船が係の保育士により付けられており、動かれては困る状態だった。
「あのな。お前らこれは戦争だ」
「せんそー…」
子ども達は生唾をごくりと飲み込む。
「ちょ、え!? スケールデカ過ぎでしょ、百合先生」
若菜は驚いて突っ込む。
「やらなきゃやられる。那奈やお前らみてぇにな。このままやられっぱなしでいいのかよ。」
「いやだ!」
「つぎは、わるもん!」
子ども達は悔しさを噛み締めて立ち上がる。
「そうだよな。それでやっと戦いの目つきになったな」
「おぉーう!」
「よし、俺様から命令だ。割られんな。そして割らせんな。割らせないための策をお前等でちゃんと考えろ」
アレスは那奈を見ながら顎で指す。その言葉に驚いたのは若菜だ。
「え!? ちょっと、そんな事この子達にできるわけないですって、百合先生」
「……わかんねぇだろ。お前ら、それぐらい出来ねぇのかよ」
「やる!」
「わかった!!」
子ども達は目を輝かせてアレスを見上げた。
「おっし。じゃ、やれよ。次は勝つぜ」
「おぉおーーーー!!」
子ども達は笑顔で拳を振り上げた。
その光景を、離れた場所で見ていた園長や飯田、そして麻里。
「何だか、盛り上がってるわね……」
園長はあの記憶を失った百合先生がと、意外な出来事に目を丸くしてアレスを見る。
「流石、百合先生……」
飯田は目を輝かせ、微笑みをアレスに向けていた。それは、麻里も同様であった。
「アレスさん……何だか、何だか……!」
魔王というより――。
目を輝かせて見ていた麻里。そして、野河から早く次をという合図が麻里の方へ届けられる。
「わ……!」
会場の皆様を待たせすぎたとマイクをしっかりと握り直す麻里。
『す、すみません! お待たせ致しました、では、2回戦を行います』
その言葉に、子ども達はお互いのチームの風船を割るため一気に構える体勢をとる。睨み合う子ども達。
『では、用意!』
パンッ!!
開始の音と共に一斉にぶつかるように走り出す子ども達。
そして一回戦同様、那奈に集中して赤組の子ども達が集まる。
「ななちゃん! あぶない!」
「きゃ!! こないで!!」
「このやろぉおお!! させるかぁああ!!」
5歳児の男児が思い切り走り、那奈の元へ。その声を聴いた他の子ども達も割らせないという気持ちのスイッチが入り、那奈の元へ駆け寄った。
「わ……!」
那奈は驚いて尻もちを付きそうになるが、なんとかバランスをとって耐えた。那奈を守ろうとする男児や女児の中、那奈はその様子を見ていた。
パン――!!
パァン――!!
「くぁー!! くっそぉお!!」
「いよっしゃー!! わったぞー!!」
那奈を狙う一人の子どもと、守る子どもと同士討ちだった様だ。
那奈の目の前で、同じチームの子どもの割れた風船が視界にはいった。
「どうして……」
どうして自分を守ってくれるのか。
那奈は守られることを不思議に思い、戸惑いつつその光景を見ていた。
そして、那奈の風船を攻撃できなかった赤組の子ども達は先程の白組とは様子が違っていたことに、確実にうろたえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます