~晴れ渡る空の下で~ ③
子ども達の歓声が湧き上がる風船合戦の第2回戦は、1回戦とは明らかに試合の様子が違っていた。
1回戦で負けた白組の子ども達は、悔しさをバネにするため、そしてアレスの言葉を実行するため、気合を入れて赤組のつけた風船を割っていく。同士討ちが多発しており、子ども達の保護者もやきもきしていた。
「那奈……」
頑張って――!
その中で、那奈の母親もビデオカメラを片手に見守っていた。1回戦の那奈が集中攻撃を受けた様子は見てもいられない光景で、録画停止ボタンを止めそうになった程だ。
そして、アレスが那奈のチームに近づいて何かを話した後、子ども達が燃え上がるように声を上げたのを那奈の母親は見て驚いていた。
「百合先生……凄い……」
「おい! お前らもっと割れー!!」
子ども達はアレスの言葉に元気をもらうように風船を割ろうと頑張る。
「ちょ、百合先生“お前等”はやめてくださいってば」
「うっせぇ若菜! 今あいつら本気で頑張ってんだよ! おい那奈ー! 守られてばっかじゃなくて攻めろー!」
「あー……もー……」
「あーも……」
若菜と同じ言葉が出ているのは那奈。そして、アイツうるさいという言葉を付け加えていた。
守られながら、足元の風船は揺られている。
割られること、あの割れる音が怖い。ましてや、割るだなんて。
「負けないでー! ほら、ほらもっと割って!」
その時、聞きなれない声に誰だと若菜は辺りを見回し、声の主が分かったとたんに驚いた。
「野河先生……嘘、でしょ……」
いつもなら眉間に皺の寄る野河が、今は皺が寄るどころか、子ども達をただただ見て応援している。
練習の時は、あんなに威圧的だったのに。子ども達は恐怖の表情でしかなかったのに、今はむしろ、楽しそうでさえある。
野河も子ども達も、競技に夢中になっている、そんな表情を見せている。
「ね、ちょっと……さっき、ホントに何があったの……?」
若菜は野河が気絶してる間に何が起きたのかと、驚いた表情のままアレスを見ていた。
“パン! パン!”
麻里がピストルで2回戦終わりの合図を鳴らす。砂埃さえ舞っていた運動場に、静けさが訪れた。
那奈は足元を見ると、砂埃をかぶった風船が揺れていた。皆が守ってくれた、汚れた風船。
『さぁ、赤組と白組の風船はどちらが多く残っているでしょうか!』
麻里はまずは赤組さんからと、1個ずつ数え、マイクで会場に伝える。2回戦目になると、スムーズにここまでの司会を進めることが出来ていた。
『赤組さんは、12個残っていました! では、白組さんはどうでしょう。ここで個数が足りないと、赤組さんが勝ちということになります』
白組の子ども達は呼吸が浅いまま、麻里の話を聴いている。
『では、いーち、にーい』
アレスはその様子を腕組みしてみている。
麻里が数えていくうちに、口元がつり上がっていた。
『白組、14個残っていました! 2回戦、白組さんの勝ち! 皆さん、拍手をお願いします!』
会場に、拍手が起こる。白組の子ども達の保護者はそれぞれ安堵や、嬉しそうな表情を見せている。
風船割り合戦の2回戦は、2個の差で白組が勝った。
次回こそ、最終決戦である。アレスと麻里は白組へ、野河は赤組の子ども達へと駆けて行く。
「次勝てば、俺たちの勝利だ。そして、那奈――」
「なによ」
「……一つだけでいい。割ってみせろ」
「……」
那奈は、同じ白組の子ども達を見つめる。子ども達は、にこやかに那奈を見ている。
「いっしょに、がんばろ!」
「おれ、ななちゃんまもるから、あんしんしてよっ」
那奈は年長児の言葉が、身体や、心にしみていくのが分かった。そのまま、那奈は母親が何処に居るかを探した。
カメラ越しの母親を見つけ、見つめる。那奈と視線があったと分かった母親は、カメラを一度下げ、那奈へ顔を見せた。
「那奈、頑張ってー!」
那奈の母親は、笑顔で手を振っていた。
那奈は母親の笑顔と応援に、湧き上がるものを感じ、拳を握るのだった。
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