第2話 ~光~ ①
「午後からは雷雨となるでしょう。皆様、どうかお気をつけ……うわぁ雷雨!?」
「ちょっと、若菜先生、今は勤務中でしょう」
びくっと全身を震わせた、若菜と呼ばれた20代前半の女性はスマートフォンから顔を上げる。
「わっ、びっくりした、百合先生かぁ……よかったー……! だって、今日の活動の前に見ておきたいじゃないですかぁ、天気予報」
「まったく、子どもから目を離さない! そういうのはもっと前から情報収集しておくのっ」
「はぁい」
バレちゃったぁ、厳しいな、と若菜は百合に聞こえるこえるように独り言を残し、その場を後にする。
残された百合は、今のやり取りを思い出し深くため息をついた。百合も20代とは言え、若菜よりはいくつか年と経験が上になる。
天気予報ぐらいとも思う。厳しいとは分かっていても、立場上、こういったことも指導しなければならない。
よく、ドラマで保育士が仕事中にスマートフォンでSNSに触れているシーンを見るけれど、実際あんなことが勤務中に出来ることが不思議だ。してもいけない。
まず、目をはなせる余裕がないのだ。
せいぜい、少ない時間を取れるとするならトイレと昼食ぐらいだろう。
もちろん、昼食は子ども達と共に「ご飯、かみかみね~」というような華やかな妄想の世界はなく、この業界の多くの現状は子どもたちへ食事を数人ずつ与えていくことがほとんどと言えるかもしれない。
同時に、絶え間なく活動する子どもたちを見守りながら先生は食べ物を胃に流し込む、または飲み込むように食べることがほとんどで、食事の時間で合計15分もとれれば、ぜいたくな方であろう。
「ちょっと、アイツまだ食べてるんだけど」
「食べてる間に何かあったらほんとウチらの責任になるんだからさ」
こういった保育士同士の陰口は日常茶飯事である。食べることが遅いという理由で職員間で軽く女性特有のトラブルが起きることも珍しくはない。
ランチに行きましょう、食堂へどうかしらという世界がとてもブルジョアな世界に思えるほどだ。
園によって様々であろうが、それほど保育士という仕事は休憩という休憩がない状況である。
一瞬目を離すだけで、膨大な数の恐ろしい可能性が起きる状況の仕事でもある。
モンスターペアレンツと呼ばれる人種が出てくる時代が来るまでは、もう少し、温かい仕事であったであろうに。
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