~園長室は狭いし箒とちりとりってなんだよ~ ②
部屋から出た麻里と魔王。麻里は玄関で魔王に靴を履かせると、ほうきとちりとりを持って新たな場所に来ていた。
「ここは何だ」
「園庭ですよ、ここの保育園の、庭です。結構広く感じるでしょう」
ここの園庭には砂場やブランコ、滑り台が設置されている。
魔王のは砂が新鮮なのか、靴で擦るように歩き、じゃりじゃりといわせていた。
「おい、あの石で囲まれたところにも砂が盛られているのは、あれはなんだ、墓か? 小せえな」
「えっ!? 違いますよっ。あれは“砂場”って言って、子どもたちがお山を作ったり、どろだんごを作ったりして遊ぶんです。 ちなみに、砂場の近くにある、高いところからぶら下がっているあの遊具はブランコって言って、もう少しはなれたところにあるのが滑り台っていうんですよ」
元居た世界にはなかったものばかりで魔王にはピンとくるはずもなく、麻里の説明のほぼすべてが耳から流れて行っていた。
「そうか。それにしても狭いぜ、ここは。何もかも」
「あはは……そうですかねー……」
結構ここは大きい保育園の方なんですけどねと麻里は補足した。
「そして麻里、なんだこれ」
「さっきも話した、ほうきとちりとりですね。えっと……こうやって、使うんです」
麻里はほうきを動かして、小さなゴミを集めだした。
「ほら、百合先生もっ。園長室から見えますよ、ここ」
「なんだと……」
またあのデカイ声出す老婆に捕まるのはごめんだと、魔王は拳を握る。
この俺様が、とりあえずするしかないのかと、意を決したようにほうきとちりとりを麻里から預かり、握りしめた。
「…………なかなか疲れるな」
「え!? ま、まだそんな時間経ってないですよ!?」
「面倒くせぇ、あと麻里やれよ」
「え!!? ちょ、百合先生っ」
「俺はな、お前と違って、居たくてここに居るんじゃねぇんだよ」
「……私は……」
その瞬間、麻里から懐かしい感覚が、魔王へと伝わってきたことに驚いた。
俺様の大好きな闇の匂いじゃないかと、興味津々に麻里を見つめた。
「ん? お前……?」
「……あ!! そ、そうだ! あのっ、百合先生……」
「あぁ?」
「あの……あの……! やっぱり、あなたはっ、えっと……」
「なんだよちゃんと言えよウゼエな」
「す、すみません! あの、あなたはあの有名なゲーム“ラスト・エレメント”のラスボスである魔王……アレス、ですよね……違い、ますか?」
アレスと聴いて目を見開く魔王。
同時に、彼にとって忘れもしない、主人公の顔を思い出した。
懐かしい気持ちに浸った後、次は驚きに変わった。
“ラスト・エレメント”は魔王の創造主が作ったプログラムだ。そのプログラムの中で、魔王たちは確かに、プログラム通りに生かされていたのだ。
「お前、それをどうして……」
「私、大好きなんです、“ラスト・エレメント”。ラスボス手前でフリーズしちゃったとこで、今は止まってるんですけど……。でも、一度クリアしたんですよ。主人公と魔王の生きていた世界とか、関係性とか……どうして魔王になってしまったとか知った時はもう、たまりませんでした……!!」
「待て、なんだ、それ、俺と主人公の関係?」
「え?」
「そのあたりの記憶がまるで無い。詳しく教えろ」
「あ、は――」
突如、麻里の声が突如聞こえなくなり、魔王の視界が真っ白になった。
何があった、何も聞こえないし、真っ白で見えねえぞとあたりへ声を発して見まわした。
一方、麻里の方では“百合”が倒れたという緊急事態が起きていた。
「え!? 百合先生!? どうしよう、倒れちゃった……!? し、しっかりして下さい!!」
麻里は突然意識を失ってしまった百合をどうすることもできず、そっと寝かせ、他の保育士を呼ぶため急いだ。
・・・・・・・
保育に関するメモ書きをば!
保育士の規定人数についてですが、
0歳児…3人に1一人の保育士(以下略)
1、2歳児…6人に一人
3歳児…20人に一人
4、5歳児…30人に一人とはなっているが、常時2人以上の保育士は必要。
ということには、なっております。
保育士の仕事には、肉体労働と行っても過言ではない清掃も当たり前のように入っているようです。
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