~あの“シャンプー”っていうのはもう置かないでくれ~ ②
「麻里、さっきのエネルギーが臭ったことが気になってしょうがねぇ。ちょっとじっとしてろ。今だと存分に出来そうだ」
「は、はい……!」
麻里は今から起こることが全く想像できずに、なんとなく恐怖の気持ちが沸き上がってくる。アレスの真剣な目を見てごくりと生唾を飲んだ。
アレスは目を閉じる。力がこもったと思えば、次に開いたときの、その瞳の色に麻里は驚いた。
元は黒目がちであった百合の瞳が、深紅の、アレス特有の瞳となった――。
アレスが魔王なのだと、やはり改めて思い知らされる。
アレスは麻里の体中を眺め始めた。真剣な表情での行為に、麻里は次第に恐怖を感じずにはいられなかった。
不意に、首元へ視線がしばらくの間止まったと思ったときだった。急に誰かに首を絞められたかのように呼吸が苦しくなり、麻里は思わず手を首にやる。
時間がたつほど苦しくなる首元へ、もがくように手を動かすが、触れられる物体は何もなかった。
「ぐ……る、しぃ……っ!」
「麻里、ちょっとじっとしてろ」
「え……う、ん……!」
アレスの手が麻里の首元に伸びて、触れた。
「わが呪文に従い正体を表わせ。リヴィア――!」
アレスの瞳の深紅が、眩しく光った。あまりの眩しさと恐ろしさに、思わず、目を力強く閉じる麻里。
「ほぉ……ほんの少しだがやはり俺様の力は回復している。おい麻里、見てみろよ」
アレスの興味津々な声に、麻里が瞳を開く。そこには、驚いたことに麻里の首を大きく締め付けていたものがはっきりと見えていたのだ。
それはまがまがしく、うようよとうごめく暗黒のエネルギーでできた心底気持ちの悪い首輪のようなものが見えた。
「え……! え……! やだ、何これ……!!!」
首にまるで大蛇のように巻きついてうごめいているエネルギーの首輪を、必死に外そうと手をかける。
そもそもエネルギー体のため、手で触れることができず、空をかすめるばかりだった。
触れられない首輪に、さらに焦ってしまう麻里。
「動くな。黙ってじっとしてろ」
「ぐっ……ぅっ」
アレスは息を吸う。
「我が呪文に従い、鎖をはずせ。アンチェイド――!」
麻里の首元がカッと熱くなり、うごめくエネルギー体は動きを止め
首元から、明らかに重たい首輪が外れる感覚がしたと思えば、そのままアレスの手へと吸い込まれていった。
「ほう……旨いエネルギーだ。これは……面白いことになってきたぜ。ふふっ、こうでなきゃな」
「アレス?」
「麻里、お前は
アレスはいかにも魔王のような笑顔を浮かべていた。百合の顔で。
「
「ああ。呪いみたいなもんだ」
「呪い……それにしてもどうして私が生贄に……」
「簡単だ。お前のもつ、最弱者精神にうまくのっとられてる。ほぼ死んだ人間のエネルギーと言ってもいい」
「うぅ……否めません………はっきり言うなぁ」
「なんだ?」
「いえっ。なんでもありません」
麻里は全力で首を横に振る。
「にしてもな……。ここにも魔術を使える奴がいるのか?」
「え……いや、それは無いはずだと……思いますけど……」
「ほう。興味深いものが増えてきやがった」
アレスは魔王だ。しかも、最強であり最凶の。魔王が扱う魔術は、ゲームの中でしか起きないはずだ。この世界で起きてしまったことが、不思議でならない。
決して、彼の見せたものは手品ではない。アレスの他に、普通の人間なら誰も使えないはずだ。
そんな事を考えていた麻里だったが、突然、激しい眠気に誘われた。
「ごめんなさい、アレスさん……あたしもう寝なきゃ、やば……い……で……す」
麻里はそのまま近くに設置してあるベッドへ、バタリと豪快に倒れこんだ。
「おい、麻里どうした……? あ? 寝たのか? おい、なぁっ! 俺は一体どうすればいい……?」
アレスは眠ってしまった麻里を見つめていると、自分の瞳も意志とは反し、次第に閉じようとしていくのが分かった。
「くっ……人間の体はこんなこともあるのか……」
アレスの瞳は、完全に閉ざされた。
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