~練習試合も真剣勝負~ ②


 灼熱の太陽の下、帽子、アームカバーというUV対策をしっかりと行う保育士達。

 運動場には、若菜が4歳児クラスの子ども達を笛を吹いて整列させていた。


「はい、並んだら座るのよ」


「はぁい」

「はーい」


 若菜の言葉に次々と座っていく子ども達。



「いつも思うけどよ、これ視界わりぃぞ」

「そう言わない! 百合先生の身体なんですからね。ちゃんと丁寧に扱ってください」

「ったくめんどくせぇな。麻里も人間の身体もよぉ」


 アレスも練習の度に麻里に無理やりつばの広い帽子と、麻里のアームカバーを装着されていた。


「以前の百合先生なら肌は大切にねって言ってたのにねー」


 若菜は不思議そうに、しかしどこか楽しそうにアレスと麻里を見つめていた。


「あ、ほら来ましたよ」


 麻里が指を示した方向から、少しずつ大きな足音が近づいてきたと思えば、野河率いる5歳児クラスである“ほし組”だった。子ども達は列を乱すことなく足並みを揃え野河の後をついて来る。


「うっわー、やっぱり凄いわ、ほし組のまとまり方」

「本当ですね、子どもって感じがしません」


 若菜と麻里は驚きと尊敬の眼差しでほし組の子ども達を見つめた。

「それほど怖ぇからな。野河の奴」

「ちょっと! もう!」

「だって人間相手にあれは怖ぇだろ」

「あっははは、本当はっきり言いますよね百合先生。スッキリするー」



「止まる!」


 野河の言葉の後に、子ども達の行進していた足音は「いっち、に!」の掛け声と共に揃って辺りが静かになった。


 野河の持つ雰囲気はアレス達の朗らかな雰囲気を一気に整える。


「なんか血が騒ぐなぁおい」

「え、何言ってんですか百合先生、そんな性格でしたっけ」



「無駄話しない!」


 野河の声で更に辺りは静まる。


「うっせぇないちい、んぐっ!」

「しーっ!!」


 麻里はたまらずアレスの口に手を押さえる。


「……これは練習でも、本番同様にいくからね。ちゃんと責任もってやるの。わかった?」


「はいっ」

「はいっ」


 麻里と若菜は声を揃える。アレスを除いて。

 それから野河の指示で4歳、5歳クラスをそれぞれ二手のチームに分けた。


「はい、じゃあこれから二手に別れてまた並んで」


 野河の一声に子ども達は顔を見合わせ、並ばなきゃと目配せしつつ、5歳児が4歳児をここだよ、隣に並んでと教えながら並ばせていく。

 この姿は野河にとっては当たり前だが、5歳児とは感じない能力にただただ驚くばかりの若菜と麻里。アレスは気に食わない表情で見つめていた。


「じゃあ、ここのチーム、帽子を裏返して」


 子ども達が被っている帽子の色は、それぞれのクラスで色が別れている。片方のチームに帽子を裏返えさせ、白色にして被らせた。


 那奈は裏返した帽子を深くかぶりつつ、5歳児の隣に整列する。


「今、帽子が白くなってるチームが白チーム。若菜先生と百合先生チームね。帽子がそのままになってるチームは赤チーム。あたしのチームだから。ちゃんと覚えておいて」


「はいっ」

「はいっ」


「じゃあ、それぞれのチームに別れて足に風船付けてきて」


 野河が子ども達へといくつか持ってきた大きなダンボールの中に入っていたのは水風船用の大きさのものではなく、本番で使う大きさの、一般の風船であった。那奈はそれを見て逃げ出したくなり、後ずさる。


「あちゃー……」


 若菜は風船を手にとり、額に手を当てる。


「そうだよね、やっぱり練習とは言え本番と一緒の大きさ……。那奈ちゃん、大丈夫かなぁ……水風船でさえ割れないのに」

「まぁ、アイツ戦争放棄するかもな」

「え、な、なんですかその戦争放棄って」


 若菜とアレスの話に着いていけず、オロオロとする麻里。


「あいつな、フーセン戦争、絶対やらねぇんだよ」

「あー……なるほどですね……怖いですもんね」


「ナナちゃん、はい」


 若菜は那奈に風船を差し出すが、案の定受け取ろうとしない。他の子どもへ先に渡し、そしてまた那奈の元へ戻るが、那奈は手を後ろに力強く組んでいる。


その姿を見かねた野河は若菜から風船を奪い取る。


「那奈。皆待ってるの、さっさと受け取る」


 野河から風船を受け取れと差し出された那奈は腕を一度後ろへ引くが、野河に圧倒され、それを阻まれる。震える手で風船を受け取る那奈。


「どうしたの? だいじょうぶ?」


 年長の子どもに話しかけられるが、那奈は首を横に振った。

 既に、他の子ども達は風船を取り付け準備は整っているのを見て、那奈は震える手で焦るばかりだ。


「なぁ麻里」

「はい?」

「お前フーセン持ってるか?」

「あ、はい。部屋へ戻れば……持ってますけど?」

「後で一つくれよ」

「……わかりました」


 麻里はなんだろうと思いつつも、いつもと違うアレスの表情を見つめるのだった。


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