第48話 〜心の叫び〜
総長である薫の異変には虎太郎含め、仲間も前々から気づいていた。
スマートフォンを見る時間が以前にも増してかなり長いといってもいいし、堂々とした行動が生き様といってもよかった薫が、あの女性と別れてしまってから陰湿なものに変わりつつあり、そして爪を噛みすぎている。
喧嘩でさえ欠けることのなかった爪が、今やボロボロに欠けてしまっていた。
「総長……! すいやせんでした……!!」
目の前の光景に、静かに怯えながら佇む爆愛皇飛の男達。
総長、どうしちまったんすか。
その一言さえも放つことを禁じられた、張り詰められた空間。
「虎太郎さんは……!?」
「虎太郎さんに連絡……!」
薫に気が付かれないようにと静かに言葉を交わす者もいた。
昼間の爆愛皇飛の巣には、幾人もの血を流した人間が転がっていた。
「ざけてんのか!? 情報が足りねぇんだよ、何のためにお前ら俺がひきとってやってると思ってんだ!」
「すいやせ……! なんせ保育園っすから……!」
「あぁ!!?」
「ひぃっ! ち、近づけないんすよ……! 女どもが目を光らせてるっていうか……!!」
バゴッ――!!!
もう、仲間が殴られる姿を見ていられない。
声にも出せず、総長を止める力もない自分達の非力さに涙を流す者も居た。
「虎太郎さん……! 頼む、出てくれ……!」
スマートフォンを持つ手が震える音でさえこの場に響いているのではないかと思うほどで、バレてないよなと視線を巡らせては固唾を飲んだ。
・・・・・
虎太郎にとって懐かしい映像が、目の前で繰り広げられていた。後に夢だとき気がつくのだろうが、見ている最中は夢だと気が付きにくい。
「薫……先輩……!」
「大丈夫かよ、虎太郎」
「はい……!」
痛みが鮮明に記憶に残っているおかげで、リアリティあふれる夢だった。
視界がかなり狭く、口は普通に開閉出来ないほどの違和感があった。
相手に顔中を殴られたせいで視界がわるかったのだ。
次のシーンでは、床に転がされた自分の視界と、薫の広くて大きな背中が見えていた。
脱ぎ捨てられた学ランに、シャツ。
鍛え上げられた上半身に傷跡はたえないように見えたが、いっそ清々しく見えた。
「ったく、弱えぇと痛い目ばっかり見るっつってんだろうがよ」
そしてこの台詞が、この夢と出くわした時の、目覚めの合図となるのだった。
「あ……また、か……」
見慣れた自分の部屋を見回して、ため息をついた。
「いっそ、あれが今起きてることだったらよかったのに……」
虎太郎は重い体を起こすとスマートフォンを取り出し、画像ファイルを指定した。
そこには、薫率いる爆愛皇飛の仲間との笑顔いっぱいの写真にあふれていた。
その中で虎太郎がいつも目に止めてしまう写真があった。
薫は「あいつはあいつの道を進むって言ったんだ。応援しねぇのは男じゃねぇよ。あいつが困って、またすがりたくなった時は……また迎えりゃいい話しなだけだ」と清々しい笑顔で言っていた姿が、脳裏に焼き付いて離れないでいた。
あの笑顔は本物だったっていうことぐらい、長年の付き合いになる虎太郎には分かりきっていた。
愛する人がどういう形であれ離れていくということは、絶対、辛かっただろうに。
虎太郎が次に画面いっぱいに映し出した写真は、こちらへ向かってピースをした女性と、薫が女性の顔に寄り添ってカメラに向かって笑顔を見せていた。
「すっげぇ、仲良かったのに……。香菜さん、何でだよ……!」
香菜の笑顔は薫だけでなく虎太郎や、爆愛皇飛全員の活気さえも与えていた。
それからすぐ、虎太郎の持っていたスマートフォンが着信を受けたため一気に現実へと引き戻された。
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