第51話 ~電話の主はテメェか~ ①
飯田は喜びに溢れ、信じられないといった表情でスマートフォンの画面とアレス達とを交互に見る。
「で、出ましょう、飯田先生!」
麻里は歓喜あふれる飯田につられるように気持ちが舞い上がる。
そうねと飯田は深呼吸しつつ、震える指で電話に出る。
「もしもし、虎太郎!? あんた今どこに――」
『虎太郎がいつも世話になってんな。俺だよ、薫だ』
喜びの飯田の気持ちとは裏腹なる、電話口から聞こえて来た声。
電話口からでもわかる、禍々しいエネルギー。
アレスの瞳が一気に見開かれた。
麻里は飯田を向いたまま固まってしまっている。
気づかなかった、こんなにもつよい魔力を使う奴がいたとは。
そして、そういう俺の好きなものを持ってる奴がやることは一つ。
焼きそば野郎――!!
「あなた、薫くん……挨拶してくれたの、覚えてるわ、虎太郎がいつもお世話になってるわね」
『こいつはどうだっていいんだよ、それより香菜……センセイか、お前のところにいるだろ』
麻里は弾かれたように我に返り、アレスになんとかできないかと、問おうとしたときだった。
「あ、れ……?」
同じ場所に居たはずのアレスはおらず。
ただただ子どもたちが眠る薄暗い部屋に、外からの陽に照らされたカーテンが風で柔らかく揺れていた。
「アレスさん……。私も一緒に、行きたかったです」
無理だということが、わかっていても。
彼の居ない間、どういった理由にしようかと、苦笑する麻里だった。
・・・・・
嗚呼――。俺、なんて情けないんだよ――。
目が霞み、薫との激戦であたりに砂埃が舞っているのも重なり、尚の事自分の身体さえどうなっているのかわからない。
ババア……。
って言ったら、クソジジイからも一発来そうだな。もう、かなり殴られまくったから今ならもう痛くねぇかなぁ……。
はは、久しぶりの電話が、よりによってこれかよ。
しかも俺じゃねぇし。
虎太郎は高らかに笑う薫を見ながら瞳を閉じる。
そして、神様も仏様も普段は全く縁の無い虎太郎であるが。
――誰か、薫さんを止めてくれ――……!
神様でも幽霊でもなんでもいい――……!
――頼む――……!
生まれて初めてであろう彼は願った。
そんなのいるわけないかと、また虎太郎の瞳から一筋の涙が血にまじり、零れ落ちた時。
ヴァッ―――――――!!
今まで砂埃で覆われた世界から一変し、空気が晴れ渡った。
虎太郎は何事かと、かろうじて開いた片目だけであたりを見ようとする――と。
足の細い影が、もう虎太郎の目の前にあった。
「おい……! 大丈夫かよ焼きそば野郎」
なんということであろうか。
待ち焦がれた声に、死んだのだろうかと確かめたかったが、ちゃんと生きているようで痛む身体を意識で確認できる他、術がない。
「
嗚呼、惚れちまったんだよなこれって。
そんな
心の中のもう一人の虎太郎が悔しいと地面を叩く。死にかけた自分の元に会いに来てくれたなんてやっぱり百合戦線はまるで天使っすねと、虎太郎は力なく笑った。
「天使……だ……」
「あ゛!!? 何言ってんだよ焼きそば野郎!! 血だらけじゃねぇかよ! だから頭おかしくなるんだろうが!」
「てんし……さん……」
「だめだなコイツ」
アレスはうなだれ、虎太郎の生命エネルギーを見る。
そんなに時間はかけられねぇと、電話の主を視界に捉えた。
薫はようやっと香菜と会えることに関して酔いしれているのであろうか、それとも彼が音もなく現れたからか。
アレスにはまだ気づいていない。
「ったく。いい度胸してんな。俺様のことに気づけよ、あ゛?」
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