第356射:酒場は出会いの場
酒場は出会いの場
Side:タダノリ・タナカ
トントントン……。
と、ペンで机をたたく音が響く。
現在ゼランとの話し合いを終えた俺は自分の拠点に戻って先ほど渡された地図を確認している。
「ほかに見落としはないか? いや、この程度の地図で見落としもクソもないか」
俺は落書きレベルの地図を見て苦笑いするしかない。
確かに主要街道が分かってそこでの防衛戦が繰り広げられているのは理解したが、抜け道とかも記載されていないので何も予測ができない。
魔族はわざとあの場所で戦っているぐらいだ。
「意外と実力不足で抜けないっていうのが事実だったら楽なんだけどな。そりゃないか」
そんなのが事実であれば連合軍の指揮官が気付いてすぐにとは言わなくてももう攻勢にでて押し込んでいるはずだ。
つまりこの状況を作り上げているのはどちらかというと魔族側か?
いや、これも憶測でしかないな。
「あー、情報が足らなすぎる。お姫さんたちハブエクブ王国側が持つ情報と、冒険者ギルドが持つ情報があれば多少は確度を上げられるんだけどな」
俺はペンをテーブルに転がして窓の外を眺める。
政治が絡む以上ハブエクブ王国を出るのはもっと時間が掛かるだろう。
その間に俺はぼーっとするつもりはないが情報がないのはどうしようもない。
かといって聞き込みをするわけにもいかないしな……。
「……聞き込みね。もう一度酒場に行って見るか?」
気がつけば日は落ちてきて、飲み屋が繁盛する時間帯になっている。
このまま俺はここで待機するよりも確かに多少はマシかもしれない。
お姫さんたちの安全も一応王国が方針を見せたことで多少は落ち着いているし、俺が即時対応状態になっている必要はないからな。
そう思って俺は外に出ることにする。
相変わらず、こういう馬鹿が集まっている場所は昼だろうが夜だろうが辛気臭いもんだ。
座っている連中は生きている者もいれば死んでいる者もいる。
日本じゃありえない光景だが、意外と外国ではこういうのは珍しくないし、名の知れた国であっても郊外の道で死体が打ち捨てられているなんてことはよくある。
何度も思ったが結局のところ異世界であろうが、現実とそこらへんなんにも変わらないのがファンタジーって気がしないんだよな。
俺にとって、外国なんざ戦地の一つだからな。
昔の城塞跡を防衛陣地として利用するなんてのも普通にある。
まあ防御力は……銃撃ぐらいならいいが重砲となると意味がないからあくまでも腰掛程度ではあるが。
そんなことを考えながら絡んできそうな奴にはガンを飛ばしながらそのまま酒場に到着する。
カランカラン……。
扉を開けた音が響き、飲んでいる連中の視線が俺に集まるが、すぐに視線を背ける。
見ない顔もいるが、関係しない方がいいと判断したんだろう。
この酒場を使っている時点で、無駄に他人と絡むのはトラブルのもとでしかないからな。
「よう、友人」
マスターはコップを拭きながらそう声をかけてくる。
俺はカウンターの席に座って。
「今日のお勧めで」
そう言って金貨をポンを渡す。
「おう? お代は嬢ちゃんからもらってるぜ?」
「マスターの腕にほれ込んでるから俺が金をだしてるだけだ。そっちの金はそっちで受け取っとけ」
「そういうことならもらっておく。待ってろ」
マスターは素直に金貨を受け取って素直にお酒の準備を始める。
その間に隣に座った男がいる。
「マスター。俺も同じものを」
同じように金貨を出して注文をする。
「おう、お前さんもか。わかった」
マスターはそのまま準備を続けて男はそのままカウンターに向かったまま沈黙を貫いている。
さて、俺はどうしたもんかと思ったがここに座っている時点で俺に用事だというのは分かっているから、こっちから先に話しかけるべきだな。
「で、ハブエクブ王国の冒険者ギルドの長が何の用だ」
そう、俺の横に座ったのは結城君たちが世話になっているルクエルギルド長だったからだ。
「話があってきたに決まってるだろう。とはいえ、こんな簡単に会えると思っては無かったけどな」
「通ってたのかよ。それなら連絡しろ」
「いや、あの子たちに直接言うと警戒しそうでね」
「ま、確かにそうだな。とはいえ、情報はシャノンからだろう? そこを説明すれば納得すると思うがな」
「疑ってかかっているからな。鵜呑みにするわけにもいかないよ」
確かにそうか。
ルクエルからすれば俺たちは敵か味方かわからない相手だ。
迂闊に話を聞くこともできないか。
「とはいえ、私のことも知っているとはね」
「そりゃ、こっちにも伝手があるんでね」
「直接顔を見せたことはないと思っているが?」
「そりゃ絵の上手い友人がいてね」
「それは得難い存在だ」
その名をドローンのカメラという。
こっちじゃカメラなんてものは存在しないからな。
そこまで話していると、準備を終えたマスターが酒を出してくれる。
「知り合いだったとはな。ま、喧嘩はやめてくれよ。ここら一帯が吹き飛びかねないからな」
「それは隣次第だな」
「私も同じ意見ですね」
とりあえず、出された酒を飲む。
うん。微妙だ。
今日はワインだが、熟成が足らないし温度が微妙だ。
まあ、冷蔵庫なんぞあるわけがないし、こんなもんだろうと思うしかない。
「おや、お気に召さなかいのですか? ここは意外と美味い酒を出すんですがね? 美味しいですよ?」
ルクエルは少し驚いたように俺を見ながら美味そうにお酒を飲んでいる。
「いや、ここら辺だと十分に美味い。悪いなマスター」
「気にするな。友人は色々回っていそうだからな美味い産地を知っていてもおかしくないさ。ほれ、今日のつまみはこれだ」
そう言ってマスターが出したのは小さいフライパンでジュウジュウ言っている焼いた肉だ。
「ほう。オークの肉ですか、しかもいいものと見ました」
「卸してくれたはそっちでしょう。知ってて当然ですよ」
「商業ギルドを通してないのか?」
「通すときもあるし、直接渡すときもあります。まあ、ここに出入りしている冒険者はそれなりにいるんですよ」
「ああ」
ただ単にマスターと懇意の冒険者が仕事で手に入れた肉を売ってくれたってことだろう。
となると、俺もマスターに出しておくか。
とりあえず俺の好きな銘柄のワインを10本ほどドンとテーブルに置く。
「じゃ、これは俺からな」
「見事な瓶ですね。これはどこで?」
「俺の出身知って言ってるか?」
「ああ、あちらの。あの兵器といい、ものすごいですね」
「えーと、友人。これはいいのか?」
「ああ、お前なら十分わかるはずだ」
俺はそう言って一つ開けて空いている木のコップをとってもらって2人に注ぐ。
そして2人は何も言わずにコップを手にとり飲む。
「……ほぅ。これはこれは」
「美味い。……美味い」
2人ともそれ以上言葉を出すことなくワインを楽しむ。
が、そこで話は終わるわけではない。
「楽しんでいるところ悪いが、ルクエルの方はなんで俺に?」
「ああ、そうでした。あまりに美味しいワインだったので。すっかり、これ1本もらっても?」
「もうマスターに上げたものだからな」
「金貨3枚でどうだ?」
おいおい、多少高い物ではあるが、せいぜい1万前後のものだぞ?
金貨3枚って100万近くになっているんだが?
「買いました」
だが迷うことなくルクエルは金貨を6枚出して2本確保する。
「思ったより安かったもので。いいですよね?」
「別にいいですよ。あとで融通させてくださいね」
「ええ。いいものを卸すように知り合いに頼んでおきましょう。さて、それであなた、タナカ殿と呼んでも?」
「ああ、構わない」
「意外と話ができるのですねギナスと対等に話していたと聞いていましたが?」
「別にギナスだって交渉事はするだろう?」
「確かに。それで、タナカ殿は何を考えているんだ?」
「なにをって、俺はお姫さんの護衛だよ。こっちがここに上陸してからの扱い知ってるだろう?」
「……」
なぜか沈黙してこちらの様子を伺ってくる。
まあ、疑いたくなる気持ちはわかるけどな。
「あれだけ戦力を持っていてなぜってところか?」
「ええ。アキラ君たちからは話は聞いていますが、どうも彼らは若すぎる。世の中善意だけで回っているわけではない」
「確かにな。とはいえ、逆に考えてみろ。遠方の土地。来るのはまあ多少時間はかかるが問題ないとしても統治となるとどれだけ人数を送る必要がある? そしてそれができるぐらいなら……」
「すでに軍が送り込まれているってことですか」
「そういうことだ。こっちとしても魔族が乗り込んできたからの対処だ。海の向こうに国があってもそこをどうにかする理由も今はない」
「今はですか」
「未来のことなんて誰にも分らないからな。まあ、無理に敵を増やす理由もないのも事実だが」
本当に未来のことなんてわからない。
戦争なんて些細なことが理由で起こるからな。
とはいえ、俺がこの兵器を持ってこの国を亡ぼすような判断ってどれぐらいのことをされれば起こるのか正直わからん。
結城君たちが皆殺しにされる?
いや、この程度だとな~。本人たちの実力不足だし。
お姫さんの命令っていうのもあり得ない。
ジョシーが死ぬ? 両手で相手に拍手してやるね。
いや、改めて俺って人でなしだな。
そう思っていると、ルクエルは納得がいったのか。
「わかりました。あなたを信用しましょう」
「あっさり信用するんだな?」
「未来のことはわかりませんが今のところは敵ではないとわかりましたので」
「ああ、そういう返しか。ま、当然だな。じゃ敵対するまでよろしく」
「ええ。その時までよろしくお願いします。それで、さっそく聞きたいことはありませんか? ワインのお礼でもあります」
「なら……」
ということで、俺はさっそくマスターを交えて今の戦況について話を聞くことにした。
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