第158射:順調ではあるが……

順調ではあるが……



Side:タダノリ・タナカ



「こうかい?」


そう言ってタブレットを持つのは、現魔王リリアーナの姉ノールタルだ。

まあ、どこまで本当かはわからない。

だが、結局の所、これ以上やりようがないのは事実。

ノールタルたちが俺たちを嵌めようとするのならそれはそれでいい。

結城君たちも覚悟を決めるだろう。

俺としても、ドローンによる神風を遠慮なくやれるので、こっちとしては楽なんだよな。

そんな物騒なことを考えているうちに、こちらが持っているタブレットに着信の画面が出てくる。

それをノールタルに見せつつ……。


「こういう画面がでてきて、下の真ん中あたりにある、このマークを触ると……」

「おおっ!? タナカ殿の姿が映ったよ!!」

「すご、い」


タブレットをみんなで見つめる魔族の女性たち。

言葉は失語症なのか3人は喋れていないが、首の上下や表情が変わるのでコミュニケーション事態にそこまで不便は感じない。

まあ、いつか治るといいな。

その時に俺たちが傍にいるかはわからんが。


「まあ、こうして離れていても会話ができるってわけだ」

『おおー!? この板から声も聞こえる。便利なものだね』

「何かあった時はそれで連絡するといい。そして、これをあのドローンに乗せて魔王と会話を試みる予定だ」

『なるほどね。これなら怪しむことはあるだろうけど、私の姿が映るから信じる可能性は高いね』


しかしながら、今は普通に操作しているノールタルだが、ここまで来るのにはかなりの時間がかかった。

老人に機械の使い方を教えるが如くの労力だ。

まあ、実際200歳いっているみたいだから、老人以上だ。そういう意味では苦労して当然か。


『なにか、不穏なことを考えなかったかい?』

「特には、ようやく覚えてくれて一安心だって所だ。よく異世界の技術を受け入れられたな」

『異世界ね。まさか、説明の過程でタナカ殿たちが勇者だと聞かされた時は驚いたよ』


そう、ノールタルたちと共同戦線を張るうえで、俺たちを信頼してもらうために勇者であることを明かした。


「ま、俺は勇者じゃなくてオマケだけどな」

『大層なオマケが付いてきたもんだね。ま、私たちとしてはありがたい話だけどね』

「それならなによりだ。と、いったん切るぞ。そっちから今度はかけてみてくれ」

『わかったよ』


そう言って、俺は一旦通話を切る。

あとは、画面を消したあとに起動して、アイコンをタップして、自分から通話できれば完璧なんだが……。


ブー、ブー……。


とすぐにバイブ音がなる。

着信はノールタル。

それをすぐに取る。


『もしもし、聞こえるかい、見えるかい?』

「おう。こちらは確認できるな。そっちからはこっちが見えるか?」

『ばっちり見えるよ』

「よし、これで基本操作は完璧だな。あとはドローンを使った本番ってところだな」


だが、流石に今すぐやるわけじゃない。

ちゃんとドローンを対象の前で固定して画面を向けるという難易度の高いことをマスターしなければいけない。

まあ、この操作は俺や結城君の仕事で、他のメンバーは……。


「……とりあえず、まずは女王様の動きを知らないといけませんわね」

「なんか、僕たちがストーカーみたいだけど、考えない方がましだよね。で、女王様ってどこの部屋にいるかってわかる?」

「流石にそこまではわからないよ。さっきも言った様に姉妹といっても最近は全然連絡を取っていなかったからね」


横で、そんな話をしながら、魔族の城を監視しているドローンを操ってリリアーナ女王の部屋というか、行動パターンを探っている。

どこをどう見ても間違いなく、一般人から見ればストーカー行為なのは間違いない。

軍事的、政治的には目標の行動監視だけどな。

さて、隣の行動はいいとして、俺たちのドローン訓練だが……。


「意外といけますね」

「まあ、滞空させるだけだからな。ドローンの視界は合わせづらいが、大事なのはタブレットの視界だからな」

「ですね。こうして、タブレットの映像に相手が映る位置で固定すればいいだけですから」

「まあ、ドローンは飛行機のように推進力を使って空を飛んでいるわけじゃないからな。上のプロペラを使って滞空しているから、原理としてはヘリコプターだな。そして、小さい分風の影響はそこまで受けないし、制御もしやすいってことだ」


意外とドローンの性能が高いおかげで、そう訓練することなく、相手の前で滞空することに成功した。


「じゃ、俺たちは訓練はここまでにして、部屋に戻るか」

「え? いいんですか?」

「手伝いたいなら手伝っていいぞ。おーい、ルクセン君たち。結城君が魔王の行動監視を手伝いたいって言ってるぞ」

「あ!?」


俺がそう呼びかけたことで、自分が何をいったのか自覚した結城君だがもう遅い。

その言葉を聞いたルクセン君と大和君は変態を見るような目つきで結城君を見つめて……。


「晃。流石に女性の私生活を監視したいとか、ドン引きだよ……」

「光さんの言う通りですわね。まあ、その様子から、そういう意味になるとは思っていなかったようですが、相手のことを考えて言葉は口にしてください」

「……すみませんでした」

「まあまあ、少年。アキラは気を使ってくれたんだろうから、そこまで言わなくてもいいじゃないか」


2人の辛辣な意見からかばうようにノールタルがそう言う。


「ノールタルさん、ありがとうございます」

「気にしなくていいんだよ。アキラは若いんだから、女性の裸とかに興味津々なんだよな?」

「ちっがーう!?」

「はいはい。結城君で遊んでないで、仕事してくれ。俺たちはお姫さんの視察に同行できそうだからそっちの方に行ってくる」

「そういえば、そんなことがありましたわね」

「でも、その視察に付き合う必要ってあるのかな?」

「必要だな。こっちの交渉が失敗すれば、このアスタリで迎撃することになるからな。防衛施設の把握は必要だ」

「「「……」」」


そう言うと、その場の全員が沈黙する。

この様子だと、戦争になるって考えが抜け落ちているな。

ここは今一度しっかり現実を言っておくとするかね。


「まだ、和平がまとまると決まったわけじゃないからな。しかも制限時間付きだ。まだ余裕はあるとはいえ、そこら辺油断していると、気が付けば戦場だってことになるからな。そして、頑張ったからといって成功するわけでもない。戦争になった際に困らないようにしておく」


俺はそう言って、部屋を出ていくと遅れて結城君が部屋を出てきて後を追いかけてきた。


「すいません。なんか浮かれてました」

「ま、彼女たちと打ち解けたんだから、前進していることには間違いない。そこを喜ぶのはいい。だけど結城君の言うように浮かれて、先を忘れるのは良くない。まだ、終わっていないんだ」

「はい」


結城君は正気に戻ったようだ。

他のみんなもあの言葉で正気に戻っていることを祈ろう。

あのまま能天気のままじゃ、戦闘になれば死ぬからな。

そして、そんな能天気を助けるために命を賭ける理由もない。

まあ、そこは本人たちの資質次第だろう。とはいえ、今まで修羅場を抜けてきたんだ。どうにかするとは思っているけどな。

そんなことを考えつつ、俺はお姫さんの部屋に到着する。


「あら、タナカ殿ではないですか。何かまたございましたか?」

「いや、こっちの調整が意外と早く終わったからな。そっちの視察に付き合うことにした」

「そうですか。それなら……リカルド。貴方は休みなさい」


お姫さんは横で目の下にクマを蓄えているリカルドにそう告げる。

そうだな。どう見ても休みが必要だ。


「しかしっ」

「タナカ殿が護衛に就くのです。心配はいらないでしょう。監視はキシュアとヨフィアに任せています。貴方は体力の回復に努めなさい。夜はどうしても代わってもらう必要があるでしょうから」


そうお姫さんが言うと……。


「はっ! 休ませてもらいます!!」


素直に言うことを聞いた。

まあ、あの状態で昼の仕事と夜のモニターを見つめる監視なんてこなせるわけないよな。

本人もそれがわかっていたから休むといったわけだ。

で、リカルドが休む反面、現在も監視をしているヨフィアとキシュアは……。


「うあー。アキラさん私を護衛に連れて行きませんかー?」

「……ヨフィア。つらいのわかりますが、我慢してください。それとも私だけに全部押し付ける気じゃないでしょうね?」


モニターを見つめながらそんなやり取りをしている。


「ヨフィア。あなたが頑張ったのは知っていますが、その間私たちもモニターの監視をしていたのです。大人しく頑張りなさい。キシュアさんの邪魔にならないように」

「そうですよね。邪魔になったらだめですよね!! じゃ……」

「邪魔にならないように私たちについてくるなどというバカげたことを言うつもりではないですよね?」

「気合を入れて、キシュアと監視任務に就きます!!」

「よろしい」


しかしながら、ヨフィアはカチュアになんでここまで弱いのかよくわからん。

血まみれ小娘とまでフクロウに呼ばれていて、言葉遣いも荒々しいものだった。

それがメイドになったからといってここまでになるモノかね?


と、そんなことは今はどうでもいい。

今は、アスタリ子爵の防衛構想を聞いて、俺たちも戦争になった時の立ち回りをきめないといけない。

あとは、アスタリ子爵がどの程度こちらや宰相の動きを知っているかも調べないといけない。

当初は何も知らないという判断を下したが、その判断で正しいのかの見極めも必要だ。下手をすると、俺たちの命に関わるからな。

とはいえ、今までの動きのなさを見ると、そこまで心配はいらないとは思っているけどな。


そんなことを考えていると、気が付けば子爵の屋敷前まで来ていて、門の前にはアスタリ子爵が俺たちのことを待っていた。


「ようこそお待ちしておりました」

「子爵自ら出迎えありがとうございます」

「いえ、現状仕方がないとはいえ、姫様や勇者様たちに不便を強いているのです。せめてこれぐらいはしなくては面目が立ちません」


まあ、そうだろうな。

一応、王命に逆らっている王女様をかばうわけにもいかん。

だが、ほったらかしにしていても、他の貴族からは後ろ指をさされる。

だから、これがどちらの意見も抑えたぎりぎりの方法ではあるな。

とはいえ、このアスタリ子爵がどこまで事態を把握しているかで変わってくるんだけどな。


「では、お約束通り、アスタリの防衛に関しての詳しい説明を行わせて頂きます。まずは、こちらへどうぞ……」


そう言って、俺たちは再び子爵の屋敷へと足を踏み入れる。

俺はアスタリ子爵の後ろについていきながら、子爵に宰相の話を説明してこちらに引き込むべきか、それとも敵対する可能性を考慮して、何も伝えないべきか……。

さて、俺たちにとってはいったいどれが最適な選択になるのかね?

まあ、そういう判断をするためにも、アスタリ子爵が行っている防衛計画、構想を聞かないとな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る