第157射:驚きの展開
驚きの展開
Side:アキラ・ユウキ
俺は今、冒険者ギルドのギルド長室の前にいる。
なんか、偉い人の部屋なのに、最近あまり緊張しなくなってきたのは、こっちの世界に来て変わってきているのか、それとも、田中さんに鍛えられたおかげなのかちょっと考えるよな。
と、そんなことより、まずはソアラさんを呼ばないと。
これから大事な話し合いがあるんだ。その話にこの冒険者ギルドのギルド長を呼びに来たわけだ。
「ま、いつもの通り田中さんが主導だけど」
相変わらず、こういう荒事には慣れているというか、時間がないとはっきりわかっていても特に行動には起こしていないのが救いなのかもしれない。
「とりあえず、今は動かないといけない。あのー、ソアラさんいますか?」
コンコン。
というノックと一緒に、部屋の中へ呼びかけてみると……。
『開いていますわ』
「はい。失礼します」
俺はちゃんと返事を返して、部屋の中へと入ると、ソアラさんが書類整理をしている。
「あら、アキラさんではないですか。何か進展でもありましたか?」
「はい。色々ありました。イーリスさんは今地下で忙しいので、代わりに俺が来ました」
「イーリスが忙しいですか。そういえば、魔族の女性たち全員が目を覚ましたとか」
「ええ。みんな目を覚ましていてよかったです」
「そうですわね。あまりのんびりしていると、タナカがどう動くかわかりませんでしたから」
「あはは……」
ソアラさんはやっぱり田中さんのことは嫌いみたいだ。
まあ、喧嘩を売ったのはソアラさんでも、あれだけぼこぼこにされればそう簡単に許せもしないか。
「で、それから何かあったのですか?」
「はい。ある程度回復したので、話を聞こうということになりまして、全員で話をと」
「なるほど。確かに、私が情報を聞かないわけにはいきませんね。わかりました。いつからやる予定ですか?」
「いまからの予定です。お姫様たちの同席を許してくれるか確認を取っている最中です」
「なるほど。急な話ということですね。イーリスが話を持ってこないわけです」
「はい。急で申し訳ないんですけど。どうされますか? 今は仕事をしているみたいですが?」
「今から行きます。別にこの仕事は後回しでもいいので」
そう言って、ソアラさんは迷うことなく、席を立ち俺と一緒に地下へと向かおうと思ったら……。
「おう。奇遇だな」
「あ、田中さん。そしてお姫様、カチュアさんも」
「アキラ様、ソアラギルド長、お元気な様子……には見えませんわね」
「姫様こそ、疲れているようにみえます。ベッドが合いませんでしたか?」
「そのようなことはございません。ただ、私は私でやるべきことがありまして、寝ていないだけです」
主に、ドローン映像の監視だよね? とは言えない。俺たちが開発に回った分、負担をかけたせいなんだけど。
って、そういえば……。
「あれ? リカルドさんは?」
「彼は今休んでいます。流石に限界でしたから」
「流石の俺も連れてくる気にはなれなかったな。あのまま無理やり起こしてもどうせ頭には入らんだろうしな」
「ああ……」
一番負担をかけたのはリカルドさんだったか。
あとでちゃんとお礼を言っておこう。
「さて、雑談して時間を潰すつもりもないから、さっさと行くぞ」
「あ、はい」
ということで、田中さんと合流して俺は地下へと向かい……。
「お、来た来た」
「来ましたね」
「ソアラも来たか」
扉の前で、光と撫子、イーリスさんが待っていた。
「よお。お姫さんたちを連れてきたぞ。あ、リカルドは監視で疲れていてダウンな」
「あー、なるほど」
「リカルドさんには感謝ですわね」
「監視……ね。アレをずっと見ていたのか」
そういえば、地下にはイーリスさんもいたんだっけ。
だから、ドローンのことだと思っているんだろうな。
まあ、それはいいとして……。
「で、お姫さんたちは一緒に話を聞くことは可能か?」
「あ、うん。ノールタルたちには許可をもらえたよ」
「ですが、あまり無理は言わないようにしてください。負担がかかっていると思われればそれで終わりです」
「わかっている」
「当然です。彼女たちに無理をさせるつもりはありません」
「ならどうぞー」
そう言われて、俺たちは部屋の中へと入ると……。
「おー、これ普通に美味しいな。黒くて変なのかと思ってたけど」
「ノリっていうらしいですよ。海の草を使った食材らしいです」
「おい、しい。このツナがすき」
「それなら、こちらのサンドイッチにもツナが入っているのがありますよ」
……あれ? なんか意外とのんびり昼食をとっている?
そういえば、田中さんがヨフィアさんたちにって、光や撫子にコンビニの袋を渡したんだった。
それで、地球の食べ物を食べているわけか。
でも、あんな風に楽しく昼食をしているヨフィアさんたちに声を掛けるのはためらうよな。
楽しい昼食ぐらい待ってやるべきかなーとか思っていると……。
「楽しい食事中すまないが、やってきたぞ」
「おかえり、タナカ殿。みんな。と失礼たべてしまうよ」
ノールタルさんはそう言って、持っているおにぎりをパクパクと食べてしまい、ペットボトルのお茶を飲み干す。
「ぷはー。グリーンティーはやっぱりいいね」
なんかおっさん臭いよなノールタルさんって。
あ、そういえば実年齢は体に似合わず、それなりの歳だったっけ?
「というか、ノールタルさんの所には、緑茶があったんですね」
「ん? ああ、そう言えばこっちにも似たような飲み物があるんだね。そしてこの容器はとても便利だ」
そう言って、ノールタルさんはペットボトルを指さす。
うん。本当にペットボトルは便利だと思う。
中身が無くなっても、水とか入れれば即席の水筒になるし、液体を運ぶいい容れ物だ。
「と、話が脱線したね。食べ終わったから話をしようか。そのためにタナカ殿たちは集まってくれたんだよね?」
「ああ。ルクセン君や大和君たちからこれからどんな話をするか大方の内容は聞いているか?」
「聞いているよ。どろーんとかいう物を使って、ラスト王都で話が通じる相手を見つけるんだよね」
「そうだな。それが当面の目的だ。まあ、最終的には女王と話をしてみたいが……」
田中さんが最終的な目標を言っていると、ノールタルさんが意外な不思議そうな顔をして……。
「ん? リリアーナとなら最初から話はできるけど……。ああ、まずは理解者を増やそうってことかい」
そう答える。
「「「?」」」
その場にいる大半がノールタルさんの言葉に首を傾げるけど、田中さんは驚いた顔をして……。
「ちょっとまて、リリアーナっていう名前は、会話の流れからすると……」
「……ああ! そう言えば言ってなかったね。リリアーナはラスト国の女王。現女王だよ」
「「「えええーーー!?」」」
あまりな発言に、魔族の女性たちも含めて全員で絶叫する。
ここが地下室の奥でよかった。
地上だったら誰かが気になって見に来ていたかもしれない。
「で、その女王本人とただのパン屋の店主がなんで知り合いなんだ?」
「知り合いも何も、私がリリアーナの姉だからね。まあ、血がつながっているわけじゃないけど」
「どういうことだ? 聞いていいのか?」
「ああ。別に隠すことでもないからね。魔族が生まれるのは突然変異ってのは知っているかい?」
「それは聞いたことがある」
「そうかい。それなら話が早い。私もリリアーナも元は人から変異したものさ。そして、色々あってこのラストに逃げてきたのが大体200年前ぐらいかな」
「「「200年!?」」」
物凄い数字が出てきた。
つまり、ノールタルさんたちは200歳以上!?
「はい。そこの少年。私の年齢に驚くのはいいけど、普通にいい女だからね。よぼよぼのおばあちゃんじゃないから。そういう視線は気を付けるように」
「あ、す、すみません」
「いや、一々結城君をからかうな。まったく」
「あはは、そんなに怖い顔をしなくていいじゃないか。タナカ殿はからかいがいはなさそうだしさ。あれだ、多少本気ならいいんだろう?」
まーた、ノールタルさんが変なことをいう。
俺ってそんなにからかいがいがあるんだろうか?
「はいはーい。私のアキラさんをいじめないでくださいね。分けてほしいのなら私に話を通してください。で、お話の続きをお願いします」
「そうだね。少年を分けるのはあとにして、今はその話だね。まあ、義姉妹みたいなものさ。古株の魔族というか、魔族に変異してラストの国に逃げてきた者たちはそうやって身を守っているのさ。こうでもしないと味方がいる状況でもなかったからね」
生きるために必要だったってことか。
「まあ、こうしてラストの国に逃げてきて生活していくにつれて、リリアーナは魔王を目指して、私はパン職人を目指したわけさ。お互い、頑張ってお店を持って、魔王になった。それだけの話さ。納得してもらえたかな?」
「知り合いなのは納得できたが、それでいて、なんでノールタルが誘拐されているんだよ」
「そりゃ、私と魔王の関係を知っている連中がいないだけだよ。お互い話すこともなかったからね。私を盾に魔王の座をという可能性もあるかなーとは思ったけど、それにしちゃ、扱いが雑だろう?」
「まあな」
確かに、ノールタルさんが魔王さんと知り合いというのを知っていればもっといい使い道があったはずだ。
それをしていないってことは魔王さんとの関係を知らないということだろう。
「ということで、私が話をすれば、リリアーナと話はできると思う。私としてもデキラのやつらは許すつもりはないからね。さっさと潰すべきだと思っているよ」
ノールタルさんがそう言うと、セイールさんたちも一緒に頷く。
本当に人望がないよなデキラってやつ。
まあ、女性にこんなことをしているんだから、人気なんてあるわけないか。
「正直、ここまでの話が出てくるとは思ってなかったな。魔王の知り合いではなく、城に出入りしている使用人ぐらいがせいぜいだとは思っていたが……」
「私の顔の広さに驚きだろう?」
「ああ、まさか姉とはな。だが、その姉の誘拐にも気が付かない状況っていうのは国内の治安はかなり悪いってことか」
「まあ、私とリリアーナは別に連絡取り合っているわけでもないからね。気が付かなくても仕方ないけど、誘拐が起こっている現状は治安は悪いだろうねー。というか、デキラが悪いんだけど」
「そんな目にあって、魔王を責めないというのも珍しいな。デキラとかいった好戦派を押さえられなかったのは失態ではあるんだぞ?」
「それはわかるよ。お偉いさんの責任ってやつだね。でも、私は姉だからね。妹は守るもんさ。そして、その機会をタナカ殿がくれるんだろう?」
そう言って、ノールタルさんは笑う。
「協力してくれるのなら、こっちとしても助かるからな」
こうして、俺たちとノールタルさんたちの共同作戦が動き出すのであった。
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