第156射:行動開始

行動開始



Side:タダノリ・タナカ



「……ということで、ノールタルさんたちが全面的な協力をしてくれると約束を取り付けられました」


いきなり大和君とルクセン君がやってきたと思ったら、そんなことを言った。


「……はやくね?」


結城君の意見に同意だ。

まさか、彼女たちの状態でこんなに早く協力を取り付けられるとは思わなかった。

だが、俺たちの驚きをよそに、大和君はそのまま話を続ける。


「その際にわかったことですが、彼女たちはドローンと言ったモノを全く見たことがないといいました」

「そうか。これで楽、ある程度安心して偵察できるな」

「え? どういうことですか?」

「結城君。大和君が言っているのは、その手の上空偵察がないという証拠というわけだ」

「あ、なるほど」

「まあ、今までの監視でこちらへの動きがみられないから、おそらくそうだとは思っていたが、確認が取れたのはかなりいい情報だ」


となると、あの痴女の魔族はかなり警戒度を上げるか、優先的にドローンでの攻撃でさっさと消しておく方がよさそうだな。

あれには邪魔されたからな。

俺たちの行動の障害になる確率は高い。

と、そういうことも含めてこれから要検討だな。


「というか、早く作っててよかったな」

「ええ。本当にすぐでしたよ」


少しでも後回しにしてたら、開発に手が回らなくなってたな。


「えーと、その様子からすると、音声を伝えるのは完成した感じ?」

「いや、それはあの時話した時点で完成している。今完成しているのは……」

「タブレットでの映像会話ができるやつだよ」

「おおー。すごいね」

「それなら、今すぐにでも連絡が可能というわけですね」

「そうだ。というか、タブレットでの映像会話はできるようにノールタルの方にも渡しておくか。何かあった時のためにも」


協力を約束してくれたんだ。

今以上に彼女たちの安全を確保することは大事なことになる。

こういう連絡手段は安全を守るために必須だ。

ということで、スキルで作り出したタブレットを設定して、ルクセン君に渡す。


「ありがとう。あと、セイールたちにお菓子とかご飯も用意してくれない? 美味しかったっていうんだ」

「それぐらいはお安い御用だ」


お菓子ぐらいで好意的な協力を得られるのなら、どこの尋問室も用意する。

しかし、こっちの世界において地球のお菓子は強力なワイロとなりえるな。

安く済んで何よりだ。

さて、ここから一気に忙しくなるな。

そう思っていると、クォレンが部屋へ入ってくる。


「タナカ殿。魔族の拠点を詳しく調べた結果だが……。あとがいいか?」

「いや、この場で話してくれていい」


これから本格的に動き出すからな。

何か他に情報があるなら事前に聞いておいたほうがいい。


「わかった。こっちに来てから、魔族の拠点だった場所を詳しく調べて面白いことが出てきた」

「なんだ?」

「これだ」


そう言って、クォレンがボロボロになった紙を差し出す。

それを受け取って目を通すと……。


「……宰相宛ての手紙か?」


そこには焼け焦げてはいるが、フォアマンと名前が書いてある。

あのクソ宰相。

ここまで手を回していたか。

戦争にする気満々だったじゃねえか。


「おそらくな。フォアマンという名前で思い当たるのは宰相ぐらいだ。まあ、別人って可能性もあるにはあるが」

「この状況で宰相以外というのは調べられんから除外だ。しかし、アスタリ子爵の名前は書いてないな。どこまで絡んでいるか読み辛いな」

「……そこはわからんな。しかしながら、あのアスタリ子爵が自分の町でいろいろ動かれていて気が付かないものか?」

「とはいえ、アスタリ子爵が冒険者ギルドの動きについて、この前のあいさつで言及してくることはなかった。こっちを追い詰めるにも使えるし、魔族との戦争を望んでいた宰相からすればまたとない機会だ。それで動きがないとすれば、知らないとみるべきだな」

「確かに、状況から考えるとそうだな」


まあ、アスタリ子爵の動きはないとお互い共通の意見が取れたのはいいが……。

肝心の手紙の内容は魔族のデキラという者に宛てて、勇者がアスタリの町に訪れるという話だ。

明らかに、狙えという話だな。

その内容をこの場の全員にいうと……。


「えーと、僕たちが手を打たなかったら、もう魔族のほうに連絡が言ってたってこと?」

「そうだな。俺たちが向かうって言った後に、手紙でも出したんだろう。伝書鳩はいるみたいだしな」


ルクセン君の言う通りだと、俺が言うと、大和君や結城君は不機嫌になり……。


「……全く最低ですわね」

「あの人は本当にあきらめてないよな……」


苦笑いしながらそう言う。

まあ、あの手合いが一度二度しくじったからと言って、あきらめるわけないがな。

何が何でも勇者を使いたいって感じだったしな。

今度こそ首を落としてやるか?


「とはいえ、こうして宰相と魔族の連絡網はつぶした。これで向こうは何もできん。監視もしているからな」

「ドローンで監視していてよかったですわね。というか、光さんが見つけなければ危なかったですわね」

「だよな。あの連絡員がこの手紙をもって帰る可能性があったんだから。あれ? でもよく考えると、あの動きがあったから、俺たちは魔族の動きをしれたから、宰相さんがわざとですか?」

「いや、結城君それは考えすぎだ。定期連絡だろうからな。しかも森の方へ向かっているわけじゃなく、アスタリの町の方へと向かうところだったしな」

「あ、そうか」


そんな感じで、結城君を納得させていると、次は大和君が口を開く。


「待ってください。ということは、定期連絡が途切れたということですか?」

「気が付いたか。なかなか鋭くなったな」


俺はそう言ってぱちぱちと拍手をするが大和君は全然嬉しそうな表情はせず……。


「……そうなると、本当に時間がありませんわね。最初からこれがわかっていたから、彼女たちに早く話を聞けと言っていたのですね」

「ああ。定期連絡が途切れたとなると、何かあったと思うのは当然。いずれ魔族はこちらの動きに気が付くだろうな」


結局のところ、俺たちがこのアスタリの町に来た時点で、制限時間が出てきたわけだ。

まあ、人生遅いか早いかだけといわれるとそれまでなんだがな。


「で、俺からの情報は以上だが、そっちもそっちで色々やっているみたいだが、これからどうするんだ?」

「これからね……。クォレンはギルドとしてはこれからどう動くつもりだ? このままずっと、俺たちの手伝いをしているってわけにもいかないだろう?」

「まあな。アスタリ子爵とある程度和解が出来たからな。さっさと冒険者をこのアスタリに送り込んで戦力の底上げをする予定だ。それぐらいの資金はアスタリと国に請求しても問題ないだろう」

「だな。理由としては、俺たち、いや、結城君たちが魔王と戦う決心をしたとでも言っておけば、あの宰相あたりは喜んで金を出すんじゃないか?」

「ありそうだな。それでいて、タナカ殿たちはそのまま、ドローンで和平をやるってことか」

「それが一番いいだろう。宰相には散々迷惑を掛けられているんだ。これぐらい迷惑料の一部だよ」

「確かに」


と、いかんな。俺とクォレンだけ話しても仕方がない。


「結城君たちは何か質問とかはあるか?」

「えと、俺たちは具体的にどう動くんですか?」

「だね。どう動いていいかわかんないや」

「ですわね。色々田中さんのところでは動いているようにみえます。どれから手を付ければよいのでしょうか?」

「そうだな。まずは、ノールタルたちに会おう。そして俺からも詳しく話を聞く。その際にはお姫さんも一緒だといいんだが。そこらへんはどう思う?」

「うーん。特に僕は問題ないと思うけどな。撫子はどう思う?」

「私も問題はないと思います。ですが、いきなりというわけではなく、一度確認を取った方がいいかとは思います」

「確かにな。じゃ、ルクセン君と大和君はノールタルたちに説明を頼む。結城君はソアラたちに。俺がお姫さんたちに説明に行く。クォレンは冒険者ギルドの動きは任せた」

「おう」


ということで、俺たちはさっそく行動を開始する。

まあ、俺が行動するって言っても隣の部屋だけどな。


「よお、元気にやってるか?」


俺がそういってお姫さんの部屋に入ると、最初の頃にあった警戒する声も、無礼だと怒る声もなく……。


「……元気に見えるのでしたら、その目、ヒカリ様に治してもらってください」

「……あれから、姫様、私、リカルド殿の3人で監視を続けていることをお忘れではないでしょうか?」


ああ、そういえばそうだったな。


「そのリカルドはどうした?」

「……すでにダウンしています」


そう言ってお姫さんはベッドを見る。

俺もベッドを見ると、そこにはリカルドがベッドに突っ伏して動いていなかった。

ああ、なるほど。お前が一番頑張ったんだな。

うん、殴って蹴ってと遠慮なくやってきたが、こういう頑張りを見せるところは同情できる。

そして起こそうという気はない。


「……さぼっているわけではございません。今までリカルド殿が頑張っていてくれましたから」

「そのようだな。で、疲れている所悪いが、話を聞く余裕はあるか?」


とはいえ、先ほど決まったことを話さずにいるのはあれだし、一応聞いておこうと思う俺は良心にあふれているだろう。


「……その様子ですと、何か進展があったのですね?」

「ああ、かなり事態が動きそうだ。これから忙しくなる」

「……わかりました。聞かせてください」

「姫様。ご無理は……」

「大した話でないのなら、話を聞いている途中で寝てしまえばいいのです。ですが、大事な話の場合は後でというには遅すぎる可能性もあります」

「……そういうのであれば」

「話がまとまったようで何よりだ。で、お姫さんやリカルドに監視を任せていた甲斐があったって話だ」

「どういうことでしょうか?」

「あれからな……」


ということで、簡潔に説明をする。

魔族の女性たちの協力を取り付けられたおかげで、本格的に融和派の連中と対話が出来そうだということ。

最終的には融和派の代表である魔族の女王との交渉もあり得るかもしれない。

そして、その対話の相手を今から探していくことになるわけだということ伝えた。


「なるほど。一気に道が見えてきましたね。しかし、宰相はそこまで手を回していたとは……」

「ま、宰相の件はそこまで心配はいらない。ドローンの偵察のお陰で連絡はいまだに行っていないはずだ」

「しかし、それではいずれ連絡がないことに気が付くのでは?」

「ああ、カチュアの言う通りだ。結局の所、じっとしているわけにもいかない。ということで、さっそくルクセン君たちが動き出して、結果を出してくれたってことだ。で、ついてくるか?」


俺がそう言うと、お姫さんは先ほどの疲れた様子は一切見せず……。


「行きます」


と、言ったので、俺たちは一同地下に向かうのであった。

あ、リカルドは寝かせたままな。





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