第132射:極秘任務

極秘任務



Side:タダノリ・タナカ



ドローンの練習を開始して約1か月。

ついにこの日が来た。


「「「……」」」


意外と緊張しているのか、全員沈黙している。

なんでこんなにお姫さんを含めて緊張しているのかというと……。


「もうすぐ、予定の2200だ。作戦の変更はなし。本日の天候は曇り。絶好の機会だが、操作を誤りやすいから、その点は注意しておけよ」


本日、ドローンによる作戦行動を開始するのだ。

目標のモノがある場所は魔族の城。


そう、魔王がいる城。

敵の本拠地への強行偵察。


いままで訓練をしてきてはいるので、俺は問題ないと思っているのだが、結城君たちはそうもいかないようだ。

ま、自分じゃなくて、機械を代理に行うものだしな。そういうところで心配もあるんだろうな。

いや、下手すると、戦争勃発かもというのが一番プレッシャーなのはわかっている。

緊張しないわけにはいかないよな。

とはいえ、心配しすぎでもあるんだよな。


「ま、バレたからといって、敵が攻めてくる可能性は低い。なにせ証拠は消せるからな。気楽にいけばいい」


ドローンの消失実験は何度もやった。

撃墜、或いは鹵獲された時は即座に報告して、消すことになっている。

ミスはない。俺が消えろと思った時点で消えるのは確認しているし、墜落したところを他のドローンで確認して消失も映像という第三の視点で確認もしているので、俺たちルーメルが仕掛けたと思うことは不可能にちかい。

そもそもドローンと言う物が何かもわかっていないだろうからな。


「「「……はい」」」


だが、そう言っても結城君たちの表情は硬い。

緊張するなといって、緊張がほどけるならだれも苦労はしないか。


「ま、パンツを取りに行く作業だ。そう思えばいい」

「「「ぶっ!?」」」


俺がそう言うと、結城君たちが噴き出した。


「ちょっと田中さん、緊張してたのにやめてよー」

「その言い方はやめてください。私たちはあくまでも平和のために動くんです」

「……ただの変態になっちゃいますよ」

「そうは言うがな。作戦は干しっぱなしにしてある洗濯から魔王の下着を取ってくる。ってだけの話だからな」


一応、仰々しく作戦などとは言ってはいたが、やることは本当に下着を取ってくるだけの仕事なので、これで緊張するのはどうかと思うわけだ。

すると、今度は黙っていたお姫さんたちが口を開く。


「タナカ殿。言っていることはわかりますが、士気、やる気と言う物があります。確かにやることはアレですが、間違いなく国のため、平和のためになることです」

「姫様の言う通りです。というか、姫様たちもようやく納得してくださったのに、そういう物言いはいかがなものかと」

「そうですね。これは大義あってのことですぞ。タナカ殿。それはご自身がよくわかっているでしょう」

「……えー、その。みんなの言う通りかと」

「最後に残っているキシュアが何も言えなくなっているから、一人当たり喋る量は考えておけよ。ま、手伝うようになっただけましか」


当初は変態の手伝いなどしないって感じだったが、ルクセン君や大和君が楽しく……ではなく厳しい操作訓練をしているの見て、下着を取ってくることを、ごまかし……ではなく有用性を示して、手伝ってくれることとなったわけだ。

まあ、流石に操作はせずにモニター監視要員としているだけだが。

つまり、結城君、ルクセン君、大和君がドローンを操縦して、ほかのメンバーは結城君たちが操作しているドローンのモニターをしっかり見て警戒するということだ。

複数人で同じモニターを見た方が見落としはないからな。


「さて、俺の冗談に笑ったり、抗議できるようになったんだから、緊張はある程度解けただろう」

「「「あ」」」


俺の言葉に、驚くメンバー。

こういうことをしないといけないのが上司の仕事なんだよな。

傭兵団もそれに変わりはない。


「これで、作戦開始前の話合いは終わりだ。全員配置につけ」

「「「はい」」」


俺が改めてそう言うと、今度はしっかりした声で返事をしてモニター前にすわる。

改めてこの現場を見て不思議に思う。

現場は魔族の城なのに、操縦する場所は遥か遠方のルーメル王都なんだからな。

ここが、しっかりした司令室とかならいいんだが、ただの宿屋の一角だからな。

どちらかといえばテロリストのような行動だよな。

いやまて、やることはしょぼいが、影響力を考えると、テロと変わらない気がするな。

向こうから見れば国家を揺るがす事件の一端を起こそうとしているんだからな。


……ただの下着泥にこんな意味合いを持たせる奴もそうそういないだろうが。


「よし、2200まで、あと1分」

「「「……」」」


気が付けば、作戦開始時刻まであと1分。

俺は、カウントダウンを始めて……。


「……5、4、3、2、1、ゼロ。作戦を開始」


そう俺は告げて、さっそく俺は自分が操縦するドローンの移動を開始させる。

魔族の城がどんどん近づいてくる。

そして、いったん停止をして、観測チームの結城君たちに確認を取る。


「異常はないか?」

「A地点異常なし」

「B地点異常なし」

「C地点異常なし」


即座に、返事が返ってくる。

緊張はちゃんとほぐれているようだな。


「何かあればすぐに伝えてくれ。俺はこのまま目標に近づく」

「「「了解」」」


3人の返事を聞いて俺は再びドローンを操作して、作戦目標、下着を干している場所へと近づいていく。

一応辺りの警戒を頼んでいるが、この時間に洗濯物を回収する人物の確認は取れていない。

まあ、たった一か月の観察で完璧なわけないが、あまり時間もかけられない。

どうも、隣国の動きがおかしいのだ。

結局、リテア聖国の方は、聖女ルルアは復帰することなく、未だに内輪揉め中。一か月だけなので、何とも言えないといえば言えないのだが、問題は、ガルツ王国の方だ。

あの後クォレンからさらなる情報をもらったが、どうも、ガルツとロシュールの争いが激化しているらしく、人や物資の消費も上がっているとのこと。

別個に見れば、ただの戦況が動いているとだけにしか思わないが、並べてみると、見事にルーメルが孤立しつつあるわけだ。

とはいえ、幸い魔族にあからさまな動きはいまだないので、差し迫った問題はない。

だが、放っておくわけにもいかなくなった。

魔族が動き出した際に、足止めをできるネタが少しでも、早く欲しくなったということだ。

この状況があったからこそ、下着泥にルクセン君、大和君、お姫さんも協力してくれたという背景もある。

いい加減好き嫌いを言っている場合じゃないとな。


そんなことを考えているうちに、目標まであと100メートルを切り、そこでいったん停止する。

俺も辺りの状況を確認だ。

100メートルだと発見されるのでは思うかもしれないが、それは地表を横に100メートルの場合で、俺が今待機しているのは、目標の洗濯物がある真上の100メートルだ。

山よりは低いが、人工物である城よりは圧倒的に上に位置しているので、気が付かれる心配はない。

それに、本日の天候は曇り。夜の暗闇が俺たちのことを隠してくれている。


「現在、目標まで100メートル。異常なし。観測チームからは異常は確認できるか?」

「A異常なしだよー」

「B異常ありませんわ」

「Cも異常ありません。成功を祈ります」

「了解。今から目標を回収する」


3人からの報告を聞いて、俺はすぐに行動を開始する。

状況なんてのは時間が経てば経つほど変わっていくからな。

即時行動して、目標を達成するに限る。

あの痴女がどこからか現れないとも限らないからな。

ドローンの高度を落として、洗濯物が干してある中庭へと降下する。

長い時間はかけられない。

このドローンには多少の石や砂などを採取する機能があるので、それを利用して、下着を一気につかみ取る。


「よし、目標を確保。離脱する」


モニターにはしっかりと、下着を掴み取った映像がありそれを持って離脱を開始すると……。


「A地点に人影あり」

「「「!?」」」

「距離は?」


宿屋内に緊張が走る。

目撃されたら面倒だ。

俺はとりあえず正確な情報をルクセン君に求めつつ、慌てずドローンの上昇を続ける。


「まだ遠いけど、それでも100はないよ。角の方から迷わずこっちに向かってきてるね」

「了解」


角からなら、まだこちらの姿は確認できないな。

なら、即時離脱だ。

俺は速度を上げて、上昇をしながら目標を落とさないようにモニターで手元を確認していると、必然的に地面を見ていることになるので、接近している人物がモニターに映る。


一瞬の緊張。

相手がこちらを発見しているのかどうかの一瞬だ。

しかしながら、その人物は辺りをみまわしたあと、上を見ることなく洗濯物へと近づいて行く。


よし、ばれていない。

俺はそう確信して、更に上昇し、城の高さを越えて安全圏への離脱に成功する。


「作戦成功。これより帰投する」


俺がそう言うと、皆ホッと息をつく。

ドローンをオートパイロットにして帰投を命じて、俺は席を立つ。

向かったのは、ルクセン君の所。


「で、接近してきた人物は誰だったんだ?」

「ちょっとまって、もうちょっと近づかないと……」


そうルクセン君がいうと、何か洗濯物の所でごそごそやっている人物の姿がはっきりわかって……。


「「「……」」」


俺とルクセン君、お姫さん、カチュアが何も言えない表情になった。

なにせ、洗濯物でごそごそやっている人物は、魔王のパンツを嗅いでいた変態魔族だったからだ。


「ねえ、いい加減。この変態を殺した方が人類のためだと思うんだよねー」

「こういう者は改心などしないと思うのですが?」

「……流石にここまでやっている姿を見ると、女性としては、好ましくありませんね」


その姿を見て、冷たいというか、当然のコメントを残すルクセン君たち。

とはいえ、ここでドローンを使って射殺などはできない。

あの変態を利用するために、この下着を取ってきているのだから。


「落ち着けよ。迂闊なことはしないように」

「……わかってるって。でも、あの変態。また下着を盗って帰ったよ」


そんなに下着を集めても仕方がないだろうに……。

だが、俺たちにとってはチャンスか。


「映像はちゃんと記録に残しておけよ」

「うん。魔族と和解したとしても、あの変態だけは処刑してやるんだから」

「ヒカリ様の言う通りですわね。あの変態だけは、次の平和にはいりません」


なんだろうな。平和の足掛かりのはずである変態魔族にはなぜか未来のない会話がされている。

変態というのは、戦争という罪よりも重いようだ。

……よし。深く考えるのはやめて、まずは戦争回避のための足掛かりを手に入れたことを喜ぼう。


下着というか、ショーツだが。


女魔王は大変だな……。



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