第340射:戦いはまだ遠い王都

戦いはまだ遠い王都



Side:タダノリ・タナカ



『明日、スラムが無事だといいな』

『あっはっは! そんなことがあれば残骸しか残りませんって』


イヤホンからそんな声が聞こえてくる。

全く人を何だと思っているんだか。


「俺はジョシーみたいな見境なしじゃないぞ」


そう呟いてタバコをとって口から煙を吐こうとすると……。


『随分な言いぐさだね。あれかい? 今すぐこのお城を吹き飛ばしてもいいってことかい?』

「ばか。自分の行動を振り返ってみろってんだ。それで、お姫さんは無事か? こうして話しかけてくるってことは、話合いはおわったのか?」

『問題ありません。今は用意された部屋でのんびりしているところです。話し合いに関してはまだ明日ということになっています』

「あれだけの戦車を並べてもか」

『それも関係しているようだよ。性能を見せてくれってことで時間が掛かっているようだ』

「的は城か?」

『馬鹿なことは言わないでください。ちゃんと用意するそうです』


用意ねー。

どんな的を用意しても吹き飛ぶだけだろう。

まあ、それだけ相手の度肝を抜けるってことか。

それはそれでいいだろう。


『ま、明日はドローンで観察してるといいさ。というか、操作はダストだが大丈夫か?』

「普通にこのイヤホンから連絡くれればいいだけだからな。問題ない。間違っても観客にぶち込むことはないな」


まあ、意図的に打ち込むことはできるが。

いや遠隔操作って便利だな。

損失するのは物資だけで済む。

とはいえそんなことをしては俺たちは魔族側に立つか、別の勢力として戦うことになる。

拠点防衛はともかく手数が少なすぎてこっちから攻め込むのは不可能だ。

敵を攻略して配下にすれば可能だが、そんな面倒なことをするわけない。

最終手段として、ICBMや航空戦力から敵の急所に攻撃を仕掛けて敵はどうにかなるだろうが、その後の俺たちの立場を考えるとこちらも面倒だから真面目にやるつもりはない。

つまりは、このハウブエク王国とは仲良くやっておくにこしたことはないわけだ。


『はい。明日はよろしくお願いいたします。それで、スラムの方はどうでしょうか?』

『ああ、そうそう。一応荒くれの連中がいるところだろう? そっちはどうだい?』

「まだこっちに到着して時間が経ってないから特に何ともな。まあ、感覚としては南米のボリ○アよりはマシだな。こっちに銃器もないからな」


死体は転がっているが、そういうのは治安の悪いところでは特に珍しいことではない。

特に戦場では死体なんてよく見るものだ。


『なんだ。つまらないね』

「俺は助かる。相手が銃器持ちだと拠点の確保も大変だからな」


相手が銃器所持だと本当に拠点の確保に困るからな。

手榴弾とか投げてこられるとどうしようもないし、物量で来られても困る。

だから総じてこの世界は都合がいい。

相手が俺たちと同じ武器を持っていないから。


『ふん。まあいいさ。ほかに気になったことは?』

「それはこれからだな。飯を買いに行くついでに話でも聞いてくるさ。ちょうど、友達もできたことだからな」

『へー、なるほど。じゃ、友達によろしく』


イヤホンの向こうでジョシーが笑っているように見えるのは気のせいじゃないだろう。

俺たちのいう友達なんてのは、そういう意味だからな。

さて、報告も終わったし俺も俺で仕事を始めるとしよう。

俺は一度今いる部屋を確認する。

ここはスラムにある木造三階建てのアパートのようなものだ。

スラムだからといって平屋の今にも崩れそうな家というわけでもないのが、俺にとっては意外だった。

まあ、建築方式としてはこういう高い建物は昔から存在していたようだが、実際に歩いているといつ倒れるかと怖くなるというのはある。

あと、よく燃えそうだ。

と、そこはいいとして部屋の中はなんと一室だけの部屋。

本当に物置みたいな場所だ。

トイレの概念も存在していないところだからこれが当たり前なのか。

スラムだからっていうのもあるだろうが、人が済むには環境はよろしくない。


「だが、俺にとってはやりやすい限りだな」


部屋が一室だけならこっちで色々やりやすい、仕切りでも作れば部屋も複数作れる。

何だろうな。どこかのギャングの貸倉庫みたいなところだろう。

とりあえずこの場所の利点は高いことだ。

狙撃とか周りを偵察するには多少便利だろう。

まあ、この程度の高さの建物は周りにあるからそこまでっていうのもあるんだけどな。

飛び降りることも問題ない。隣の建物に逃げることもできる。

いやー、素晴らしい街並みだよ。


「さて、あとは間取りを決めるだけだな」


俺はそう言って部屋の仕切りを考える。

倉庫みたいなそれなりに部屋であるがゆえに、自由に配置を決められる。

いきなり扉越しに攻撃されて吹き飛ぶのは面倒だから、ドア付近にはコンクリートの壁を置いて防御に使うべきだな。

友達は快く貸してくれたが、外によく思わない奴がいても何も不思議じゃない。

一時的な拠点ではあるが、住み心地はよくしておきたいからな。

と、そんなことを考えて部屋を改装。

ああ、もちろん俺のスキルでやっているから撤退時にはすぐに処分できる。

なんとも便利な力だよな。

部屋にある物資から相手を追うってことが一切できないし、俺はこの部屋を出ずにもすむ。

食料を買いに出る必要もないからな。

とはいえ、情報収集はしないといけないので外には出る。


「思った以上に、簡単に改装が終わったんだな」


俺は外に出て空を眺めている。

まだ日は高く、町も人であふれている。

いや、スラム街はそうでもないがな。

路地では常にうずくまっているやつはいるし、死体になっているやつもいる。

こういう世界だ。

とりあえず、友達に会いに酒場へと訪れる。

そこはやはりスラムにあるにふさわしい酒場で、荒くれものばかりだ。

こっちをにらみつけてくるが、こっちが視線を向けるとすぐに顔をそむける。


「おいおい、友人やめてやれよ。おびえてるじゃねえか」

「ん? いや、視線を向けただけなんだがな」

「はっ。友人の視線はそれだけで怖いもんさ。わかるやつばっかりで良いと思わないか?」

「そうだな。面倒な殺しはいらん。後片付けも大変だからな」

「その通りだ。ということで、お前ら覚えておけよ。この人は俺の友人だ。部屋を貸している。場所を教えてもいいが命は無くなると思え」


マスターがそういうと飲んでいる連中ががくがくと顔を上下にふる。


「意外と物分かりがいいな。もっと馬鹿かとおもったぞ。今日の一番で」


俺はカウンターに座り金を出しながらそういう。


「ありがとよ。ほれ、今日は葡萄酒だな。エールは味が悪かった。で、馬鹿な奴はここまでたどり付けねえんだよ」

「ああ、そういうことか」

「馬鹿な奴は入り口近くですぐに剥かれて死体さ」

「なんかそういう所は冒険者ギルドよりいいんだな」

「そりゃ、敵は魔物じゃなくて人だしな。あとあんな命知らず共と一緒にするな。ガキの世話をして使えるようにするとかこっちは甘くないんだよ」

「甘い犯罪者とか笑えるな」

「だろ? とはいえ、冒険者の上位の奴は化け物だがな。しかし、そういうやつはこっちのことも知っている」

「そういうのはどこでもつながっているってことだな」

「ああ。だが、友人のような繋がりはなかなかないぜ? あの嬢ちゃんがよこしたのが友人とか冷や汗噴き出したぜ。ちょっと試そうとか思ってた俺が馬鹿だったよ」


そう言ってマスターは苦笑いしながら、つまみはいるかといわれて頼むと干し肉がでてくる。

ジャーキーというか塩漬けの肉だな。


「相手を見極めるのは大事だからな。別に間違ってないだろう?」

「はは、それは命があればな。友人と遣り合っていればこっちがあっという間に死んじまう。で、どうだい部屋は?」

「ああ、問題ない。あんな部屋貸してもらってよかったのか?」

「かまわないさ。どうせ嬢ちゃんから任されていた空き部屋だ。商品を隠すのに便利なだけだ。ほかにも部屋はある」

「ああ、やっぱりあいつはそういう所もしっかりしているんだな」

「というより親父さんがだ。あいつは船ばっかりだからな。まあ、最近の戦争で連絡がつくのは嬢ちゃんだけだからな」

「親父さんはいまだ連絡が取れないか」


ゼランの親父はゼランとは別行動をしていて、今だ連絡は取れていない。

ゼラン海運会社をメインだが、親父さんは陸路も含めて運営をしていて今はどこにいるのかわからないというのが状況だ。

無事に生きていればいい情報源だとは思う。


「あの人のことだ。魔族の勢力圏でも生きているだろうさ」

「ああ、そこで聞きたい。今のハウブエク王国の状況と、日用品を買うにはどこがいいかな」

「ああ、そういえば何もなかったな。よし、雑談ついでに聞いていけ」


ということで、俺はマスターからこの王国の状況を聞くことになる。

ハウブエク王国はこの大陸の中では大国でもなく小国でもなく中間ぐらいの国らしい。

まあ中の国なんて言い方はしないし、そういうもんだろう。

そして、肝心の魔族との戦いだが、戦地は面していないようでほかの国に支援をしているという状況らしい。

だからこそのほほんとして空気なんだろうな。

それはシャノウの時にも聞いていた話だ。

事態は動いていないようだ。

一体何が要因なんだろうか。


「……ということでまだ内陸に進むのはお勧めしないな。魔族との戦争がいつ終わるかわかってない」

「見通しができてないわけか」

「みたいだ。で、日用品に関しては嬢ちゃんの知り合いだしこっちで用意させてもいいが?」

「いや、俺の足で散歩も兼ねるんでな」

「なるほどな。友人の腕なら心配はないだろうが、面倒があれば言ってこい。俺としては借りを作れるならありがたいからな」

「ああ、その時は頼む。で、いい場所は?」

「そうだなー。とりあえず市に行くのが一番だな。場所は……」


こうして俺はスラム街を抜けて買い物に出るのであった。

しかし、まだここの連中にジョシーたちの話は来ていないようだな。

まあ、何かと認識できないからな。

とりあえず、何か美味いものでもあればいいが。


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