第346射:どういう契約にするか

どういう契約にするか



Side:タダノリ・タナカ



俺は送られてきた契約書の内容を読んで、結城君たちと契約内容について話し合いをしている。


「意外とまともだな」

『ですよねー。自分の立場をわきまえているって感じです。まあ、あの演習を見て取れる方法なんて限られてきますけど』

『ヨフィア、あまり失礼な態度をとっていないでしょうね?』

『大丈夫ですよカチュア様。私はパーフェクトメイドなんですから』


この軽い口調で心配になるが、ヨフィア自体はちゃんと裏の仕事もこなしてきた人物で、俺やジョシーもそれなりに信頼している。

場数でいうと俺たち2人に次いでだから、そういう判断力はあるだろう。


「俺としては、契約内容、範囲、期間、そして報酬に関して特に問題はないが、お姫さんたちやゼランはどう思う?」

『そうですわね……。確かに条件はいいとは言えますが……』

『これを先に提示されて何も変更なしというのはのう』

『ま、相手に与しやすいと思われるだろうな。何かこちらから条件を付けくわえた方がいいと思う』

『だな、これを基礎にしてくるんだ。ある程度吊り上げは可能だと思うが……。こっちのほうが強いっていうのも根底にある。下手をすると向こうがキレるかもしれない。ああ、言い方が違うな対話ができないと判断されるかもな』


お姫さん、爺さん、ゼランのいうことは分かるが、ジョシーの言うよりに相手を怒らせる可能性もある。

問題なのは向こうはこちらの意見を受け入れるしかないという状態なんだよな。

フェアではないから、要求を相手は断るのは難しいということになる。


『でも、何かを要求していいのかも僕たちにはわからないよ? こっちの状況なんてわからないんだし、こういう異文化って何が地雷になるかわからないよ』


ルクセン君の言う通り、何が相手にとって地雷になるかわからない。

それはお姫さんたちにも言えるが、まあ国と国の交渉をやっているんだから多少の認識のズレはどうにでもするだろう。

なにせ向こうは戦車砲が向けられている状態だからな、下手なこちらの落ち度で喧嘩を売るような真似はしないだろう。多分。


『だよなー。元々ただの紙きれと言えばそうなんだし、俺たちの良心をみるためのものでしょう?』

『……でしたら、田中さん。ギルドからこちらに出向者を求めてはどうでしょうか? 私たちが知らない常識や交渉を請け負ってくれるのでは?』

「確かに案の一つとしてはいいが……」

『そういう連中は小細工をするのが当たり前だしなー』


ジョシーがいうようにそういうのは基本的に内在的な敵対者として注意しないといけないのは面倒だ。

仲良くなってからだと結城君たちが始末するのは嫌がるだろうしな。


『いいのではないですか? 下手をすれば始末すると契約書をもらっておけば。証拠はこちらでは揃えられるでしょう。映像という形で』

「まあな。だが、証拠をそろえて始末しても反発する奴は出てくる。そういうのが狙いなのもあるだろう」

『あるね。始末させるようなことをして信頼できないというやつは世の中にごまんといる。そういうのは正しさじゃないんだよ。こっちを殴る理由ができればいいんだ』


本当にそういう理由だけで、生贄をポイッと渡す奴は多い。

切っ掛けを作りたいだけだからな。

とはいえ……。


「俺たちと敵対したくない奴らがそれをするかって疑問もあるがな」

『逆ってことだよ。私たちとギルドが手を取り合うのを嫌がる連中もいるだろうさ。そういうのと手を組む。今だと魔族側が有力だな』

「そういう可能性もあるが……。まあ、結局どこも同じような手はとってくるだろうから、そこらへんを踏まえて話して迎え入れるのも手だな」

『確かにな。そういうことも考えていないような馬鹿とは思えないしな。それぐらいの馬鹿なら組む理由もない』

『では、案内人、サポート役を要求するということにしましょう。ああ、アキラたちは相手がどのような方を出してきても素直に受けれいてください。容姿の良い悪い、頭の良い悪い、性格の良い悪い関係なくです』

『姫様そこはヨフィアに任せましょう。いいですね? 理由はわかりますね?』

『それはもちろん。相手が私たちに対してどのような印象を持っているのかわかりますからねー。試そうとして馬鹿をよこすならそれはそれでいいですってことでいいでしょうか?』

『ええ。それはそれで冒険者ギルドの底が見えますから。タナカ様もよろしいでしょうか?』

「いいと思うぞ。ギルドがどういう対応をするのかを見るのはいいことだ」


俺たちの希望の要求にどんな人材を回してくるのかというのも楽しみだ。

もちろん裏は取るけどな。


『ま、何か裏でつながっているならこっちとしてはそっちのルートもたどれるからいいことづくめか』


その通り、派遣された馬鹿がギルド以外とつながっているならそれはそれで好都合ってわけだ。

相手の情報が勝手に集まってくると思えばそれでいい。

リスクを考えて動く当然の話だ。


『わかったよー。じゃ、明日に話伝えてくるよ』

「ああ、それでいい。今日は宿でゆっくりしてろ。相手が動いているかもしれないからな」


俺はそう言いながらルクセン君たちが泊まっている宿上空に展開しているドローンに映像を確認する。

大通りの名のある宿のようで人の通行は多いし出入りもそれなりにある。

誰が怪しいかとかはさっぱりわからん……というわけでもない。


『露骨に宿の周囲から動かないアホがいるね』

「いるな」

『えっ? どれ?』

『本当ですか』

『どちらに?』

『あははー。いますよねー』


ルクセン君たちは驚いているが、ヨフィアはさも当然と言う感じで笑って流している。

まあ、当然か。


「落ち着け。結城君たちを監視ているとは限らない。そこはいいところの宿だからな。ほかの連中を監視しているってこともあるだろう」

『ああ、そっかー。じゃ、心配はいらない?』

「今の所はな。夜になっても残るやつは目立つから注意してみてみるが、そっちもそっちで警戒していろよ」

『りょーかーい』


のんきの返事が返ってくるが、まあこれでいいだろう。

さて、冒険者ギルドの方はいいが……。


「で、お姫さんの方は相変わらず動きは無しか」

『ええ。まだ会議のようですわ』

『ま、あれだけの力を見せつけたのじゃから慎重に話合っているのじゃろう』


城の方は特に動きがなしと。

いや、会議はずっと続いているから、向こう側は大変だろうな。


「実力行使の気配はないか?」

『ないね。つまらないの一言だよ。というか、むしろ恐れているって感じだね。こっちの実力がわかったとはいえ、怖がるっていうのは命がけで国を守っている連中とは思えないんだが』

「いやー、まあお前に喧嘩を売るよりは正しい判断だとは思うけどな」


なにせ喧嘩を売れば城ごと吹き飛ぶしかないからな。

怖がって当然だろう。

まあ、暗殺とかそういうのがないとは言わないが。


『私たちのほうはいいとして、そっちはどうなんだよ。なんか覇気がないって言ってなかったか?』

「ああ、その件な。まだ夜じゃないからあとでだ。とはいえ、それはお前も感じているんじゃないか?」

『そりゃな。この城の兵士たちといいあまり戦争って感じはしないな』

「俺たちの感覚がずれているのかって思うよな」

『意外とそれもあるかもな。こっちじゃ魔物があちこち、盗賊もでる。ちょっとした小競り合いなんて完全な当事者でもなければ別の世界の話かもしれないね』

『ああ、私もそのことに関してなのですが、前に会議で話したこの国の重臣たちも、王もあまり当事者という感じはしませんでしたね。そうですね、爺』

『はい。そうでしたな。あれでしょう、連合が負けるわけないと。その証拠にこの国にはそこまで負担がないとかですな』


なるほどな。

そういう見方もできるか。


「確かに隣国が戦争しているのに、飛び火はないって安心している国は多いからな」

『実際飛び火はあっちじゃまずありえない。文字通り世界各国が敵になるからな。あくまでも内戦で済ませないといけない』


だな。

地球の戦争はもうすでに国対国の戦争はほぼ起こりえない。

内戦というしかない状況だ。

そうしないと情報伝達が早い世界だから、道理のない侵略戦争を起こす国を世界が放っておかない。

文字通り大義名分があるからな。

それを考えると魔族という存在をあまり認識してないこの国が連合が押さえているなんて話を聞いてもあまり実感がわかないのは当然なのかもしれない。


「そっちの情報感謝する。とりあえず俺も俺のほうで情報は集めてみる」

『おう。馬鹿共がどういう風にとらえているかで考えるのがいい。あいつらは馬鹿は本物の馬鹿だが、上の奴はしっかりしている。危険があればすぐに逃げるからな。そうでもないとすぐに死ぬから』

「だといいな。ま、そろそろ日が傾いてきたから飯を食うついでに聞いてくるさ」


俺はそう返しながら、窓から覗いている空が茜色になっているのを眺めていた。

今日は何を食べるかな。

美味いものがあればいいんだが。


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