第12射:僕たちだけの戦い
僕たちだけの戦い
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「で、今日はどうするんだ?」
そう聞いてくるのは田中さん。
昨日はスライム捕獲っていうブラック仕事を斡旋してくれたので、今度は僕たちがお仕事を探すことになったんだ。
「そうですね。昨日話し合った結果は、一応、ゴブリンとか、ウルフ退治ですかね」
「ええ。魔物退治の方向で探したいと思いますわ」
「うん。それか、薬草探しとかかな? 今後のことも考えて」
昨日話し合った結果を報告する。
「ふーん。ま、いいんじゃないか。今日は俺はサポートに回る。あ、あの森か町での仕事しかまだ駄目だからな?」
「わかってるって」
私がそう答えて、宿を出て、冒険者ギルドへと向かうんだけど……。
「ねえ。なんか、田中さんの反応薄くない?」
僕は先ほどの返事がどうも、僕たちに興味が向いてない気がして、晃たちに聞いてみた。
「んー。どうだろう? 田中さんっていつもあんな感じじゃない?」
「興味がなさそうというか、私たちだけでどこまでできるかを見る為じゃないかしら?」
「あー、撫子のいう通りかな? 晃は鈍感」
「えー」
まあ、晃の言うこともわからないでもないけど、たぶん撫子の言う通りかな。
初めて自分で仕事を選んで、達成するって状態だからね。様子を見ているんだろうね。
そんなことを話しているうちに、冒険者ギルドに到着する。
今日は朝一で来たせいか、人で溢れていた。
多分、僕たちと同じ冒険者の人たちだろう。
お店で見た顔も多数いる。
「結構人多いな」
「ええ。意外ですわね」
「とりあえず、カウンターにいこう。並んでるみたいだし」
「そうだな」
「ええ」
カウンターには多くの冒険者が既に並んでいて、依頼を探しているようで、僕たちもさっさと並ぶことにする。
「俺たちは、邪魔になるから隅でまってるよ」
田中さんたちは、僕たちとは一緒に並ばず、そう言って、ギルドの掲示板を眺めながら待機する。
まあ、本来ならパーティーリーダーだけが受付にいけばいいだけなんだし、僕たち3人は今回初、自分で依頼を探して受けるから、こういうことをしているだけ。
次からはだれか一人でいいと思う。
「人が多いな。今後は、じゃんけんか?」
「それよりも、リーダーを決めませんこと?」
「リーダーが、雑務引き受けるってことだよね?」
「いえ、光さん、そういうことではなく、今日のお仕事では、田中さんは指示しないでしょうし、パーティーリーダーを、指揮官を決めておいた方がいいのでは?」
「あー、そっちか。そうだよな。この列を並ぶ奴を決めるってわけじゃないよな」
「お2人とも……」
「「あははは……」」
撫子がジト目でこちらを見つめてくる。
いや、ついね。
この人が並んでいるとこを見るとね。
「でもさ、それならリーダーは撫子でいいと思うな。ね、晃?」
「ああ。撫子がリーダーでいいと思う」
「なんでまた?」
「リーダーが必要って事実に気が付いたからかな。それに、色々前から気を配っているし」
「うんうん。まあ、別に今日で決まりってわけでもないし、後日俺や、光がリーダーやってみてもいいしさ。今日はとりあえず、撫子ってことで」
「うーん。そう言われるのでしたら。今日は私がリーダーをやらせてもらいますわ」
ある意味言い出しっぺの法則みたいになっちゃったけど、撫子が適任だと思うのは事実だし、気に入らなければ、晃の言うように変わってみたらいいだけの話。
そんなことを話しているうちに、受付の順番が回ってきて、今日は綺麗な受付のお姉さんで、それに晃が見とれてたっていう、スケベなトラブルはあったけど、問題なく、昨日決めていた近場の森のゴブリン退治を受注。
掲示板近くで待っていた田中さんたちと合流して、僕たちは再び昨日の森へと向かうことになった。
「ぐぎゃ!?」
ゴブリンが晃の一撃を受けてひるむ。
「光!!」
「わかってる……よっと!!」
撫子の合図で僕は飛び出して、ひるんでいるゴブリンに対して、胴凪ぎに剣を振るう。
「ぐげっ……」
躱すすべのないゴブリンは僕の剣で、真っ二つになり、地べたに倒れて、血を噴出させる。
剣から伝わる感覚に、やっぱり慣れないなーとは思いつつも、初めての頃よりも素直に、そして鋭く、命をあっさり奪えるようになっている自分がいることに気が付く。
……慣れてるじゃん。
と、自分がこんな簡単に変われることに驚きつつ、悲しかったり、足を引っ張らなくてよかったという、まあ色々な気持ちが織り交ぜになる。
「皆さん。周りの警戒を」
「「……」」
撫子にそう言われて、周りの警戒をする。
……どうやら、追撃はいないようだ。
先ほど、ゴブリンを2匹退治したときは、茂みにもう2匹隠れていて、油断したところを突かれた。
まあ、田中さんたちが、フォローしてくれて事なきを得たんだけどね。
『こういうこともあるから、戦闘が終わっても周りに気を遣え。今みたいに横やりがはいるからな。最悪、すぐにその場から離れることも検討しとけ』
こんな風にありがたい言葉をいただきました。
ゴブリンとかウルフとかヤレルようになったよ!! と思いあがっていた僕たちにはいい教訓だったね。
「よし。いないようですわね。では、今度は私が魔石を回収いたしますわ。2人は周りの警戒を」
「「了解」」
このゴブリン退治の証明は魔石を回収すること。
魔物は魔石、動物は指定部位と決まっている。
まあ、武具や薬の素材になる魔物や動物も多数いるから、魔石だけ取るっていうのは、余程、使い道がないか、素材を回収している暇、もしくは持てないか。
今回は、使い道のないほう。
ゴブリンは、台所に沸くGと同じ認識らしく、しかも女性を襲って孕ませるというGよりも最低の生き物。
慈悲などなく、殲滅が望ましい。と、今日の受付のお姉さんに力説された。
群れたり上位種がいると、依頼ランクが高くなるので、弱い魔物だと思って油断しないようにと、お姉さんにきつく言われた。僕たちが女性だからね。
そんなことを考えているうちに、撫子はゴブリンから魔石を取り出す。
「大丈夫ですわ。死体はこのままで、次を探しましょう」
ということで、僕たちは次なる得物を探して森の中を再び歩き始める。
「ねえ。光」
「何?」
僕は周りを警戒しながら、撫子と会話をする。
「先ほどのゴブリン。わざと真っ二つにしましたか?」
「なんでまた?」
「いえ。胸を割くことなく、魔石を取り出せたので、狙ったのかと」
「あー、それ俺も思った。魔石がある下ぐらいを綺麗にバッサリいってたよな」
晃も会話に入ってくる。
あちゃー、ばれてる。
「できるとは思ってなかったけどね。骨もある肉をバッサリ切るってかなり難しいって聞いたことあるから、僕としては、胸を切って、取り出しやすくってぐらいだったんだ」
「それは聞いたことがありますわね。熟練者でもなければ、刀でも人を真っ二つにするのは至難の業と」
「でも、こっちに来てから力とか軒並みあがっているから、簡単に出来たってことか。まあ、ウルフとか毛並みも一緒に斬れたよな。それを考えるとやれても不思議じゃないか」
晃の言う通り、できても不思議じゃないけど、狙ってできるとは思ってなかったんだよね。
僕としては遊びのようなものだったんだけど、撫子は納得したような感じで……。
「なるほど。狙ってやってみるというのはいいかもしれませんわね。攻撃の精度を上げるという意味で」
「いいなそれ。上手く言えばゴブリン狩りの効率も上がるし」
「ついでに練習もできるってことかー。うん。僕もそれでいいよ。ただ殺すだけじゃ気が滅入るしね。意味があるモノにしたいし」
ただお金の為に殺すって言うのは、まだ僕にはちょっときついものがあるからね。
こういう、技量向上のためって理由も追加であれば、多少は心が軽くなるから、無意識にやってたのかな?
「ま、それはいいとして、予定よりゴブリン回収早いよな」
「そうですわね。もう、予定の半分は超えていますものね」
「15匹中9匹だもんね。あとは6匹。まだ午前中で」
てっきり、この仕事も昨日みたいに日が暮れるギリギリになるかと思っていたけど、そうでもないみたい。
まあ、昨日もゴブリンは見かけたし、結構いるんだろうね。
やはりGと同じなんだろう。
そんな話をしながら、僕たちは昨日よりも森の深くへと分け入っていく。
さっさと終わらせて、今日は店長のお店でごはんでも食べたいなー。
「と、思っていた時期がありましたよ……」
僕はそう呟きながら、茂みから開けた場所を覗くと……。
「ぎぎゃぎゃ?」
「ぐぎゃぎゃ……」
「ぐる……」
やっぱり世の中上手くいかないなーということを実感するのだった。
いや、この場合フラグを建てたのかな?
ま、それはいいとして、森の奥へ入って行くと、ゴブリンの10匹ほどの集団がいて、一匹はウルフに跨って、棍棒や木の槍ではなく、剣を持っていた。
「これでノルマ達成―。って喜べないよな」
「だよね。どうする? 撫子?」
「……私たちで倒せるかなかなか厳しいところですね。田中さんたちは手伝っていただけますか?」
撫子が田中さんたちにそう聞くと、田中さんたちは特に考えることもなく……。
「手伝えというのなら手伝うぞ。別に判断は間違ってるとは思えんからな」
「とはいえ、これは勇者様たちとってはいい経験になると思いますので、まずは独力でやってみてはどうでしょうか?」
「リカルド殿の意見に賛成です。安全を第一にするのであれば、ナデシコ様の判断は間違っておりません。ですが、常に安全に戦えるわけではありません。今回は私たちがいざとなれば助けますので、やってみてはどうでしょう?」
「ええ!? だ、大丈夫でしょうか?」
ビクビクしているヨフィアさんはいいとして、3人はあのゴブリン集団に僕たちだけで喧嘩を売ってくるのがいい経験になると思っているみたい。
まあ、その通りだと思う。
「どういたしますか? 私としては、いい経験になるという話は全くその通りだと思います。なので賛成ですわ」
「俺も賛成。修羅場をどれだけくぐっているかってのは大事だよな」
2人はやる気のようだ。
残るは僕だけど……。
「……うん。やろう」
少し悩んだけど、やることに賛成した。
そのあとは、作戦会議、相手はどうやら、休憩しているようで、見張りを立てて、残りは横になっている。
移動し始めたら厄介だったから、どうしようかと思ってたけど、これでやりやすくなった。
「じゃ、今回は範囲魔術の使用なしで」
「ええ。魔術は最初の単独攻撃のみ。あとは武器で行きましょう」
「おっけー。じゃ、僕は反対側に回ってくるね」
今回の作戦は、僕たちは3か所にわかれて、順番に魔術を撃って相手が混乱している間に、斬り込んで全滅させるって方法。
ちなみに、一番に僕が魔術を撃つので、戦いの狼煙を上げるのは僕の役目だったりする。
小枝を踏まないように、足音を立てないように細心の注意を払いながら、指定の位置まで移動する。
ドクン、ドクン、ドクン……。
ヤバイ、緊張してきた。
相手が今まで経験してきた中で一番多いからね。
そして、僕が最初に仕掛けるから、一番狙われやすい。
つまり、一番危険がある。
「……おちつけ。やるって言ったんだ。うん」
覚悟を決めて、狙いを定める。
まずは、足の速いウルフ。
アレを仕留める。
「……ウィンドカッター」
ヒュパっと風の鎌が飛んでいき、寝ているウルフの首を斬りさく。
それを確認して一気に飛び出す。
それで、敵の視線が僕に集まり……。
「炎槍!!」
「ファイアーボール!!」
撫子と晃も予定通り仕掛けて、敵は混乱しているのが目に見えた。
「いける!!」
僕は、そう確信して、呆然としているゴブリンに剣を振り下ろした……。
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