第211射:第一次アスタリ防衛戦

第一次アスタリ防衛戦



Side:アキラ・ユウキ



「「「ぎゃぎゃががが!!」」」


そんな可愛げのない声をだしながら、アスタリの門を叩く魔物たち。


ドンドンドン!


田中さんが補強してくれているので、門は鉄製。

普通の攻撃で開くような代物ではないけど……。


「うるさいよねー」

「ええ。ご近所迷惑ですわ」

「だな。さっさと片付けよう」


脅威とは別に、騒音被害が酷い。

木製よりもさらに音が響き、アスタリの町の人たちの安眠を害している。

ということで、俺たちが勇者として、手っ取り早く、魔物は排除する。


「今更だが、こうして昼夜問わずこうして魔物を送り込んでくるとなると、こっちの疲弊を狙っているのかもと疑いたくなるんだが……」


田中さんはそう言いながら、殺した魔物が撤去されるのを見ている。

あの襲撃の日から絶えずこんな感じで、魔物がアスタリの町にやってきては門を叩いて死んでいく。

状況だけ見れば、ずっと絶えず俺たちを警戒させて疲れさせるつもりなんだろうけど……。


「それはないね。向こうは隊列を整えているだけで。こっちに来ているのは、森を追われた魔物たちだよ」


ノールタル姉さんの言うように、敵の先発隊は一切兵隊をだしていない。

この魔物たちは、軍隊に住処を追われた魔物たちなんだ。


「移動しつつ、魔物を集めて、言うことを聞かないやつはこっちに逃がすか。ま、嫌がらせにしても中途半端だよな。しかも……」


田中さんの言うように、中途半端だ。

敵は兵力を集めつつ。こっちに疲労を強いていると考えるとすごいんだけど……。

今のところ、問題なく全部無傷で撃破できているので、こっちとしては、籠城用の食糧や武器の素材が手に入って嬉しい限りだ。

しかも見たことのない魔物も含まれているので、アスタリ子爵やソアラさんとかは、もっと色々送り込んでくれると助かると言っているぐらいだ。


「魔物を集めようとしていて、自軍に被害まででていますからね」

「バカだよねー」


そう、撫子と光の言う通り、ただ純粋に戦力を集めているだけならまだ警戒してもよかったんだけど、じつは集めようとした魔物と戦いながらこっちに向かっていて、かなり進軍速度が遅かった。

予定3、4日どころか、既に一週間近く経っている。

そして、戦力は集まるどころか、イーブンぐらいなのでマジで意味がない。

というか、魔物とやりあっているので、魔族の方は疲れていると言ってもいい。

ここまでくると、魔物たちよくやったと言いたくなるぐらいだ。


「とはいえ、監視の連中はここまで来ていたからな。引き込みは上手くいったとみるべきだろう」


田中さんの言うように、ダメダメな進軍ではあったけど、魔物がアスタリを攻めているのを監視している魔族はいたようで、俺たちがアスタリの防壁を頼りに引き籠もっていると思ったらしく、しっかり隊列を組んで、もう目の前に見える森の中に布陣している。


「さて、最後の物資をいただいたところで、こちらも出るぞ。盛大にもてなしてやれ」

「「「おう!!」」」


そして、こっちも田中さんの指示で門を開いて、アスタリ兵士と冒険者が防壁の外へと展開する。

……いまさら、なんで田中さんが指揮を執っているとかは無しだ。

アスタリ子爵、そしてソアラギルド長も田中さんの指示に従うのが当然となっている。


俺たちは防壁の上から魔術の支援だ。

魔術師や長弓兵も同じく高所に陣取って、敵軍を攻撃する予定だ。

だが、そこは本命ではない。

本命は、空堀の間に存在している大砲のついた黒い鉄の塊、戦車だ。

しかも、周りを土で盛り上げて砲塔だけが敵側から見えるようになっていて、万全の状態。

俺たちは、それを抜けてきた敵の後始末。

とはいえ、目の前の森から出てくる魔族の軍勢をみて、のどが渇いていく。

圧倒的に、俺たちの数より多いと分かる。

総勢2万とちょっと。

5千の俺たちの4倍近くの軍勢。


桶狭間の織田信長は確か、3千で今川軍3万を打ち破ったって聞いたけど、あれは臨戦態勢じゃなくて、奇襲による本陣の攻撃で、今川に付き従っていた諸侯軍が撤退したから勝てたって話だ。

今回はそんな奇襲も何もない。

ただ真っ向からのぶつかり合いだ。

数での勝負なら普通は絶対に勝てるはずがない。

その事実を考えると、圧倒的火力があるとは言っても、一つでも作戦が破綻すると、俺たちは全員死ぬということ。手数が圧倒的にちがうから。


圧倒的優位なはずなのに、そんな嫌な予感が頭から離れない。

流れ矢一つ間違って当たっても人は死んでしまう。

そんなことを考え出してしまう自分がいるのだが……。


「敵軍!! 前進を始めました!!」


そんな気持ちとは裏腹に、敵は遠慮なくアスタリの町に向かって進んでくる。


ザッザッ……。


そんな足並みを揃えて向かってくる音が地響きとなって聞こえる。

どんどん敵が迫ってくる状況に俺はどんどん頭が真っ白になっていくが……。


「名乗りも降伏勧告もなしですな」

「話し合いの余地もありませんね。タナカ殿。攻撃は?」

「まだだ。森に逃げ込まれると面倒だからな。もう少し引き寄せる」


子爵やソアラギルド長、そして田中さんは慌てることなく普通に話し合っている。

……こんな命のやり取りが始まろうっていう戦場で、なんでこんなに冷静なんだ?

というか、田中さんはこんなところで、いつも戦っていたのか。

そう思っていると……。


「さて、キルゾーンだ」


田中さんがそうつぶやいて……。


ドンドンドンドン……!!


そんな重低音が響いて……。


ズドドドーン!!


「くっ!?」

「きゃっ!?」

「うわっ!?」


爆音が響き、辺りが煙に包まれる。

試射の時とは比べ物にならない爆音と爆風だ。

あまりのすごさに、知っていた俺たちも思わず声をあげてしまう。

だが、そのあとは……。


ひゅぅぅ……。


ただ風の音だけが響き、全員が沈黙する。

なぜなら……。


「よし。ノールタル。敵本陣の魔族は?」

「あ、ああ。いや、確認している限りはいないよ。魔物の方は多少森の方へ逃げ始めているのもいるけど、ほかは同士討ちを始めたね」

「そうか。魔物は飼い主がいなくなれば、一緒に歩けないか。いい誤算だ。よし、予定通り、向かってくる奴だけを排除。残りは追加の砲撃で片付ける」

「了解しました」

「ええ。伝令!! 予定通り、こっちに一匹も通さないように! 決して前には出るなと言ってください」

「はっ!」


敵の先発隊はたった一度の砲撃で本陣が消し飛んでしまい、魔物たちはいうことを聞かずに混乱に陥った。

そこに、田中さんの追い打ちの砲撃が撃ち込まれて、混乱している敵のほとんどはアスタリの防壁どころか、堀にすらたどり着けず、そのまま死体になってしまう。

そして、運よく何とか生き残っている魔物たちも……。


「魔術、放て!!」

「「「おう!!」」」

「長弓隊放て!!」

「「「おう!!」」」


防壁上からの攻撃で、堀を越えることなく、その場で倒れる。


「……まさか、こんな短時間で、2万の軍勢を完全に殲滅させるとは」

「……よく、私は生きていましたね」

「……だな。ソアラはもっと敵を選んでくれ」


その戦いを見ていた子爵、ギルド長、副ギルド長たちも唖然としている。

まあ、俺たちも同じなんだけど。

まさか、ここまでうまくいくとは思っていなかったし、ここまで現代兵器が圧倒的だとは思っていなかった。

現代兵器がいかに、敵を殺すことに特化したものかを理解していなかったってことだ。

この威力を知っているからこそ……。


「さて、第一陣は片付けたな。子爵、ソアラ、イーリスこの間に、敵の残骸確保だ。赤字になりたくないだろう?」

「うむ。呆けている暇はないですな。援軍が到着するまで何としても耐えねばなりませんからな。そして、復興の費用も必要ですからな」

「子爵の言う通りですね。冒険者ギルドもこうしてここに拘束されているんですからせめて元は取り返しますわ!」

「二人とも、普通こうした防衛戦は赤字だけどな。ま、プラスになるならいいか。伝令! 魔物の遺体を集めろ!! 敵本陣の回収は選抜隊で向かうから、手を出すな!」

「はっ!!」

「じゃ、俺たちも本陣の魔族たちを確認にいくか」


田中さんはここまで余裕だったんだ。

どうにもならない、覆しようのない、圧倒的な戦力差があるから。

とはいえ、この状況ですぐに冷静に戻って直ちに指示を出せる子爵や、ギルド長たちもすごい。

そんなことを考えながら俺たちは敵の本陣だった場所へと進む。

選抜隊には勇者である俺たちも含まれていて、地獄を進むことになる。


「……これが」

「……戦争」


光と撫子の声が震えているのが分かる。

命のやり取りは経験しているが、戦争はまた別だ。

……無慈悲だ。

魔物だったとはいえ、多くの命だったものがそこらにばらまかれている。

それに誰も涙することもない。

ただ片づけをしている兵士や冒険者の間を抜けて、本陣だと思しき場所にたどり着くと……。


「うっ!?」

「……うぷっ!」

「ぐっ!?」


人型だったものが辺りに散らばっているのを見て、焼けた臭いを嗅いでその場で嘔吐してしまう。


「大丈夫です。大丈夫ですよ。アキラさん。ゆっくり、ゆっくり全部出してしまいましょう」


ヨフィアさんが背中をさすりながら、そう優しく言ってくれる。


「す、すみません」

「いえ。ここまでの状況で正気を保っているものも少ないですから。ほらユーリア姫も」


どうやら一緒についてきているユーリア姫も同じように嘔吐しているみたいで、横にカチュアさんが付いている。

因みに、光にはノールタル姉さん。撫子にはセイールさんが付いている。


「……みんな、強いんですね」

「違いますよ。必死に堪えているだけです。ここで倒れてしまえば、次は私たちがああなると分かっているから」


そうか、ここで倒れれば、次は俺たちがこうなるのか。

……戦争をしているんだ。

そんな中で蹲っているなんて、殺してくれっていうモノだ。

いつ攻撃されてもおかしくない。

そう思った瞬間……。


「な、なにが起こった!!」


そんな声と共に、土の中から人が一人飛び出してきた。


「魔族の生き残りか!!」

「皆さん下がりなさい!!」

「おお、生きていたか。運がよかったな」


どうやら、魔族の生き残りらしい。

まずい。早く立たないと、でも足に力が入らない。


「くそっ。ヨフィアさん、俺をおいて……」

「バカ言わないでください! そんなことできるわけないですよ!!」


そんなやり取りをヨフィアさんとしていると……。


「クソ!! 人間どもが!! 何をしたかは知らんが、私に勝てると思うなよ!! なにせ次期四天王の……」


ドンッ。


ドサッ。


「棒立ちしたままベラベラ喋るなよ。つい撃っちまった。おい、生きてるか?」


と、田中さんは遠慮なく引き金を引いてた。


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