第336射:女傭兵の戦略
女傭兵の戦略
Side:タダノリ・タナカ
「ちっ、つまらん」
「何を期待してるんだよ」
「そりゃ、引き金を引くような事態さ」
こいつは本当に戦闘狂だなと改めて思いつつ、ジョシーの見ているモニターを確認すると、そこには俺たちが拠点としているゼラン商会の倉庫を護衛という名目の元、監視をしている騎士たちが見受けられる。
「あれだけ馬鹿にしてやったのに、喧嘩を売るやつがいないとか、騎士ってのは案山子のことかい? 私相手にへりくだりやがって、最初の勢いはどこに行ったってんだよ」
「俺に聞くな。というか、もともとお前が騎士とやり合ってみたいって言ったのが原因だろ」
そう、ジョシーは最近護衛についた騎士たちから姉御と呼ばれている。
理由は、女で護衛として動いているのが気に入らない騎士がジョシーに突っかかってきたので返り討ちにしたところ姉御と呼ばれることになった。
まあ、ジョシーの言動から察するにこいつが煽ったのが原因なので俺たちからは相手に苦情を入れるわけにもいかない。
ユーリアが多少頭を抱えて、少しはおとなしくしてくださいと言っていたからな。
聖女さんや魔王はそんなもんだろうという感じだったので、器の違いが出るんだなと思った。
ちなみに、この前の交渉事もそうだが聖女さんと魔王は基本的にルーメルの交渉に口を出したりはしない。
口を出せば、自分たちが交渉の矢面に立つことになるからな。
地元で復興とか各国との連携をやっているときにこっちのことまで手を出すとか自殺志願者だろう。
だからこそこっちに丸投げしていて物資の供給など裏方に徹しているわけだ。
「これなら、あのエルジュとかリリアーナに相手してもらった方がいいよ。しっているか? あいつら銃は持ってないから仕方ないが、近接ならそれなりに動けるんだよ」
「ああ。それは知ってる」
何せ裏にはあいつがいるからなそれぐらい簡単にこなすだろう。
ジョシー程度っていうとあれかもしれないが、それぐらいの実力が最低限ラインだからなあそこは。
あいつは一般人に何を求めているのか俺としても不思議だからな。
いや、境遇がそうさせたんだが、理解はしたくない。
と、そこはいいとして、今はこれからのことだ。
「それで引き金を引く事態に関しては、もうすぐ上からの連絡が来るそうだぞ」
「ふん。どうせ、こちらの力を使うつもりだろうさ」
「いや、望むところだろう? オマエにとっては撃ちまくれるぞ」
「使われるのは気に食わないんだよね」
「傭兵は元々使われるのが仕事だろうが。何をいまさら」
「違うんだよ。マイケルの元自由だっただろう? きっと今回のはお偉いが戦略とか考えるんだ」
「そりゃそうだろうな」
オマエに細かい戦略とか言っても無駄だったからな。
指定して撃ってこいしか言わなかったんだよ。
「そんなのはお断りさ。任されたらその区域を全部撃ちまくるんだよ」
「いや、こっちの場合は戦闘地区の敵は全部殲滅してもいいと思うぞ。民間人はあまり撃つなとも言わないと思う。何せあんなのだからな」
一応、地球の軍隊は非武装の民間人に対しての発砲は傭兵であろうと固く禁じられている。
そんなことをすれば今度はこちらが背中から撃たれかねないし、何のために戦っているのかがわからない。
だが、こちらにはそんな制限はない。
「え? マジか?」
「ああ、何せ条約なんてないからな。好きにしていいんだろうさ。敵をちゃんと確保しろとも言わないだろうさ」
「へぇ、それならいいか」
「それに、俺がお前を味方に被害があるような場所に送ったりはしない。敵ばかりの所に送ってやるから存分にまた死んで来い」
こいつに味方との連携なんて高等技術ができるわけがない。
小銃とか持って突撃するだけだからな。
いい囮として使うしかやりようがない。
「ははっ。いいねぇ。私が死ぬ様な戦場があるなら行ってみたいよ」
「俺にあっさり殺されたがな」
「あれは、ドローンを知らなかったからな」
「窓際に立てば狙撃されるなんてよくあることだろうが」
「窓の向こうに建物がないのに警戒するか」
まあ、そりゃそうか。
とはいえ、魔法がある世界だ。
「地球でならありえないが、こっちは魔法があるんだ。そこら辺をちゃんと考えてないとあっという間に死体だぞ」
「そこは分かっているよ。元々死体だけどな」
……そういえばこいつ見た目はルクセン君の回復魔術で肉体は治っているが、実際どうなんだろうか?
傷がないが死んでいる状態なのか?
もう一度致命傷を受けると死ぬのか?
「とはいえ敵の正体や規模もはっきりしてないからな」
「そこが不思議なんだよねぇ。戦っている連中が本当に何もしらないとかありえないだろう?」
「まあな。戦っている連中は正体ぐらい知っているんじゃないか。こっちでも魔族が発生した国は突き止めているんだし、そこから逃げて来た王族も確保している話も聞いている」
「はっ。そりゃ、上が戦いに勝った後のことを考えてもめているだけだろう?」
「それもあるかもな。だが、押しきれてないのも事実だ」
俺はそう言って地図を見せるが、ジョシーはそれを見て顔を顰める。
「なんだこのガキでも描かないような地図は?」
「喜べ、これがある程度の上位者が持っているこの大陸(?)の地図だ」
「マジか」
「そしてその情報から俺が作ったのがこれ」
「……あまり変わらないじゃないか」
「それでも地名が読めるだけましだろう」
とは言いつつも俺もどうかなーとは思っている。
とりあえず、ドローンを絶え間なく動かして詳細な地図は作り上げている最中だからもっと後になれば少しはましになるとは思う。
そんなことを考えながら前に手に入れている戦況をジョシーに説明をする。
「これ、一体どれぐらい前の情報だい?」
「かれこれ一か月前ぐらいか?」
「ゴミじゃねえか!」
「否定はしないが、この世界はこんなもんだって理解しろ。情報伝達も馬だったろうが」
「ちっ。で、ここの間抜け共は魔族って連中に国土の半分を奪われているって? どう考えても出来レースか足の引っ張り合いだろうさ」
「そういう判断をする根拠は?」
「簡単だよ。確かに押され気味ではあるけど、本当に力差があるなら押さえられない。航空戦力に地上戦力があっても意味がないのと同じさ。そこまで力差があるなら戦線を構築できるわけがない。だから、敵を抑えてることには成功しているわけだ。魔族とは戦えている。つまり押し込めないのは周りと連携ができてない証拠さ」
意外にまともな推察をするな。
俺もそれは間違っているとは思っていないが……。
「相手が様子を見ている可能性は?」
「ゼロじゃない。こっちに送ってきた頭空っぽの馬鹿どもがいるからな、そういうのを処理させている可能性もあるね。いうことを聞かない連中程上にとっては邪魔だからね」
「……お前、自分のこと言っているってわかってるか?」
「私はいいんだよ。ちゃんと遊び終わったら戻ってくるからさ。依頼はこなす。程度はわきまえているんだよ」
……確かにその通りだが、釈然としないものがあるのも事実だな。
「それよりも、フィエオンだっけか? 敵の本拠地って目されているところ。そこに殴り込みかけるかこっちで独自行動を起こす方が面白いと私は踏んでいるね」
「面白いって、俺たちの独自戦力はない。敵中孤立とか馬鹿か?」
「別に乗り込まなくてもいいだろう? 戦闘機でも用意して対地爆撃で終わりだ」
「……なんでそういうことになったのか、俺たちも調べる必要があるんだよ」
「それなら誘い出せばいい。どうにでもなるだろう。下手に足を引っ張り合っている可能性もあるんだ。そっちに巻き込まれるのはいいとは思わないね」
「まあな。本当に足の引っ張り合いをしているならな。とりあえず、連合軍の様子を聞いてからだな。向こうが前線を押し上げるってときに別行動をしてもいいからな」
「ああ、あいつらを囮にするなら、それもありだな」
こうして、お姫さんたちに話す前に魔族に対しての戦略を考えているのだが、結局、帰還方法を調べるためにも連合国に幅をきかせる必要があるので、ある程度協力することにはなるだろうがな……。
それをどう見せるつもりなのか、お姫さんたちの手腕に期待だな。
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