第249射:結論 正面から堂々と

結論 正面から堂々と



Side:アキラ・ユウキ



チュンチュン……。


そんな鳥の鳴き声と朝の日の光で目が覚める。


「んー……。よく寝た? いや、夜番あったからそこまでもないか」


俺は肩を回して体をほぐしながら周りをみる。


「すー」

「くかー」


ぐっすりと寝ているのは、撫子と光だ。

よく目を凝らせば、さらに奥にお姫様とカチュアさんも寝ている。

普段なら彼女たちと同じタイミングで一緒に寝ることはないんだけど、今日はルーメル王都に戻るとあって一緒に休ませてもらった。


「そっか……。今日戻るんだ」


俺はそんなことをつぶやきつつ、帆立馬車の出口を覆っている布をめくるとそこには生い茂った木々が視界に飛び込んでくる。

そうそう、人の目につかないように森の中で一夜を過ごしたんだった。

そんなことを考えていると不意に声をかけられる。


「お? 起きたようだね。アキラ」

「あ、おはようございます。ノールタル姉さん、セイールさん」

「はい。おはようございます」


声のした方向に視線を向けると夜番をしていたノールタル姉さんとセイールさんがいた。

だが、一人足りないことに気が付く。

夜番は3人一組で寝ないようにチームを組んでいる


「あれ? ヨフィアさんは?」

「あー、ヨフィアなら……」


そう言ってノールタル姉さんは視線を森の方に向けると、茂みの奥からヨフィアさんが出てきた。


「いやー、すっきりしましたー。明るくならないと用を足すのは怖いからですねー」


と、そんなことを言いながらヨフィアさんがこちらにやってくる。

なるほど。トイレに行ってたんだな。

……とりあえず、俺はさっきの言葉は聞かないふりをして挨拶をする。


「ヨフィアさんおはよう」

「おお! アキラさんじゃないですか! おはようございます!」


ヨフィアさんは飛び切りの笑顔でこっちに駆け寄ってくる。


「今日は王都に戻りますから万全の態勢でいないといけませんからね。タナカさんが偵察と情報収集に行っていますが、絶対ではありません。気を付けてくださいね」

「はい。十分注意します」


そう、今日ルーメル王都に戻るんだけど、王様や家臣の人たちがどう動くかわからないんだよな。

田中さんが言うように、処罰してくる可能性もあるし、最悪乱闘で逃げ出すことも覚悟しないといけない。


「で、その田中さんは?」

「まだ戻っていませんな」

「ですが、時間的にはもう戻ってもおかしくないです。明け方戻るとタブレットの方に連絡は来ましたし」


俺の問いにそう答えてくれるのは、リカルドさんとキシュアさんだ。

手には枝などを持っていることから、焚火の燃料を探していたみたいだ。


「そうですか。連絡がきたなら大丈夫ですね」

「そうですよ。タナカさんの場合なら何かあった場合、音信不通じゃなくて、沢山情報送ってきますよ」

「ですね」


あの田中さんが黙ってやられるようなことはない。

ヨフィアさんの言う通りいろいろ行動を起こすはずだ。


「ま、アキラたちはゆっくり体を休めておくといいよ。ヨフィアが言ったようにルーメル王都に戻るんだ。タナカがあそこまで警戒しているんだからね」

「はい。いざという時に動けるために」


ノールタル姉さんにセイールさんはそう言って気を使ってくれる。

でもな、みんながこうして準備しているのに、休むっての言うのはどうも……。

と、思っていると、ゴードルさんが苦笑いしながら口を開く。


「みんな、脅しすぎだ。アキラ君、ここはいつものように戻ったらいいだ。何かあったらおらたちがフォローする。それでいいだよ」

「はい。ありがとうございます。ゴードルさん」


流石、四天王だった人だ。

多分こういうのが器がでかいとかいうんだろう。

いや、ノールタル姉さんにもそんな感じはするけど。

まあ、男同士だし、ゴードルさんと共感する部分があるんだろうな。

と、そんなことを考えていると……。


「そうだな。別に構える必要はないぞ。逆に警戒してますっていうのは相手に不快感を与えるからな」


そんな声が聞こえて、みんなで一斉にその方向を見ると、そこには田中さんが立っていた。


「まあ、そうやって敵対勢力を浮き彫りにするのもいいが、味方だったやつまで敵に回る可能性があるから、そこらへんは判断に困るな。ふむ、敵になるならそこまでだったということで、やるか?」

「いや、やりませんよ。そこまで考えてもいませんから」


お城が半分吹き飛びそうだからとは言えない。

言ったらマジでやりそうだから。


「で、タナカ。どうだったんだい? お城というか、ルーメルの王国の方は?」


俺がそんなことを考えているうちに、ノールタル姉さんが話を聞いてくれる。


「先行してくれた、連合軍の兵士たちが上手く説明してくれたみたいだ。俺たちの処分は国としてはしないだろうってクォレンは言ってたな。フクロウも意見は一致していたからまず間違いないだろう」

「あ、クォレンさん、連絡が付いたんですか」

「直接ギルドの方に乗り込んできた。あいつは、今回の魔王討伐で右から左に大忙しだったみたいだ」

「なるほど」


まあ、魔王が倒されたんだ。

しかも連合軍までできたんだから、きっとそういう方面で忙しかったんだろうというのは何となくわかる。


「では、私たちはこのままルーメル王都へと帰還するのですか?」

「ああ、このままのんびり歩いて門から入ればいい。あとは勝手に向こうが準備してくれる」

「準備ですか?」

「凱旋とかだな。勇者様が倒してくれたって宣伝するつもりだな」

「え?」

「意外そうな顔をするなよ。勇者が倒したって宣伝しないと、ルーメルは何もしなかったことになるからってのは話しただろう?」

「あ、はい」


そういう話は聞いたけど、実際にやるとなるとどうもな……。

俺がそう考えていることが表情に出たんだろう。

田中さんは察したようで笑いながら。


「別に、何かしろってわけじゃないからな。ま、愛想よくしてりゃいい。というか、凱旋の話はまだ確定じゃない。心配するにも早すぎだ。まずは王にあってからだな」

「しかし、姫様はどうなるのでしょうか?」

「さあな。とりあえず、色々議論はあるみたいだが、戻るか戻らないかはお姫さん次第だろう」

「危険はないのでしょうか?」

「何をもって危険というかだな。というか、リカルドにキシュア、今回の行動で貴族の連中にお姫さんが恨みを買っていないと言い切れるか?」

「「……」」


2人とも田中さんの質問に答えられないでいる。

つまりはそういうことだ。

恨みを買っていると思っている。


「ま、とはいえ、お姫さんを真っ向からとらえるって話にはなっていないから、お姫さん次第ってわけだ。で、どうする?」


田中さんはなぜかそんなことを投げかける。

答えるべき本人はまだ……。


「もちろん、正面から向かいますわ」


あ、もう起きてたみたいだ。


「何も恥ずべきことはしておりません。紆余曲折ありましたが魔王を討伐したのです。その大功を前に集まった諸侯の貴族が動くことはないでしょう。動くとしてもほとぼりが冷めてからです。私を今すぐ処分するには、自分たちも自滅する必要がありますからね」

「あー、そっか。お姫様に手を出せばそりゃ処罰されちゃうよね」

「なるほど。だからこそ却って安心できるというわけですわね」

「はい。その通りでございます」


あ、違った。

お姫様だけじゃなくて、光に撫子、カチュアさん、全員目を覚ましていた。


「というわけだ。本人は戻るって言ってるんだ。俺たちがとやかく言うことじゃない。まあ、お姫さんに何かあったら、ルクセン君たちも黙ってないだろうし、いろいろな意味でルーメルは打撃を受けるだろうから、ルーメルの連中も守ることに力を入れるだろうと、クォレンやフクロウは言っているし、俺もそう思う」

「下手に動かない方がかえって安全ってことですか?」

「結城君のいうとおりだ。ま、ちゃんとドローンでリカルドたちも偵察しているから、不穏な動きがあればわかるだろう。で、さっきの話だ。あえてそういう連中を刺激するような態度をとってもいい。敵を叩き潰せばさらなる安心があるだろうからな」

「「「それはいいです」」」


全員でそう返事をする。

これ以上わざわざ戦う必要はない。


「じゃ、私たちも素直について行っていいわけだ」

「だな。まあ、魔族だからうかつな行動をすればこれ幸いと処理されるからな。そこだけは気を付けとけよ」

「わかっています」

「油断はしないだよ」


ノールタル姉さんたちの方がある意味心配だけど、俺たちが心配するほどやわじゃない。

そうなると、もう心配事はない。

つまり……。


「よし。今後の行動はわかったな。このまま王都に帰るぞ。マノジルの爺さんが何か発見しているといいな」

「あ!? そうだよ! マノジルさんなら何か見つけてるんじゃない?」

「いろいろありすぎてすっかり忘れていましたが、マノジルさんなら何か進展があるかもしれませんわね」

「そういえば、俺たちが王都に戻るのって帰る方法を探すためだったな。盛大にソアラさんたちとそういう話してたのに、なんか王都にどう戻るかで頭がいっぱいになってた」


そうだ、俺たちは帰る方法を探すためにルーメル王都に戻るんだ。

貴族の動きを調べておずおず戻るわけじゃない。

そこにようやく気が付いた。

あ、いや、何か陰謀があったなら警戒しないといけないんだろうけど。


「よし! みんな何も怖がることはないんだ! お姫様の言う通り堂々と帰ろう!」

「「「おー!!」」」


光の言葉で俺たちは早速行動を開始した。

具体的には、速攻で馬車に乗り込んでそのままルーメル王都へと走っていく。



「全く、いろいろ考えてたけど、まずは帰る方法だよ」

「そうですわね。報酬をいただかないといけませんわね。いえ、もともと、向こうが私たちを呼び出したのですから、当然の義務を果たしてもらいましょう」

「……えーと、私が呼び出してしまったのですが……。最大限、帰るための方法を得るためにご助力させていただきます」


帰る方法がなくとも協力だけは絶対に取り付けてやる!

それが俺たち勇者の望みだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る