第250射:調査の結果とまずやるべきこと
調査の結果とまずやるべきこと
Side:タダノリ・タナカ
正直に言おう。
ルーメル王都でのトラブルは皆無でつまらなかった。
「ちっ、根性なしどもが」
「いやいや、何をいっておるか。タナカ殿」
俺の発言に苦笑いしているのは、マノジルの爺さん。
この世界に連れてこられて唯一当初から結城君たちの味方だったといっていい人物だ。
「何って、あれだけ敵意を込めて見つめてきているのに、何もしかけないからな。根性なしといって何も間違いじゃないだろう」
そう、俺たちはルーメル王都に戻ってきた。
しかしながら、やっぱりというか、俺たちを、いや結城君たち勇者を疎む連中はいた。
ルーメル王が結城君たちの功績を称える中、陰口をたたく連中が当然いた。
だが、動くことは無かった。
これを根性なしと言わなくて何と言えばいいのか?
「いやいや、陛下がちゃんと部下を掌握しているということじゃろうに。おかげで、何もなかったんじゃ。それでいいではないか。ま、こんな時に手を出せば捕まるのがわかっていたのもあるじゃろうが」
「なら、最初からそういう視線を向けなければいいんだよ。結局連中王たちから要注意人物として挙げられていただろうに」
隠すなら徹底的に隠せという話だ。
ああ、あれが囮っていう線もあるな。
そうなると、裏には大きい組織がいるってことになるから、ルーメルはまた大打撃だな。
「何かまた妙なことを考えておるのう?」
「別に妙なことじゃない。あれだけ露骨な態度とるんだ。ただの馬鹿か、何か後ろに支援がないとできないだろう?」
「……また恐ろしいことを。しかし、信じられんというにはあれじゃのう」
「ま、せいぜい裏を探ってみることだな。一応こっちとしても、ルーメルが崩れるのは困るからな」
報酬の回収ができなくなるからな。
「はぁ。で、勇者様たちはどうじゃ?」
「結城君たちのほうは、さっさと帰る方法が知りたいみたいだな。見つかったか?」
「……すまぬ」
「気にするな。そう簡単なことじゃないっていうのは俺たちも理解している。結城君たちが怒ることはないさ。まあ、利用されるのは嫌だろうがな」
しかし、やっぱり帰る方法は見つからないか。
怒ることはないが、がっかりはするだろうな。
「で、何かあてとかはあるか?」
「そうじゃのう。一応考えてみたんじゃが、このルーメルと同じような知恵者がいるところを訪ねていって、本などを読ませてもらうのがいいじゃろう」
「簡単に言えば専門家を探して、情報を教えてもらえってことか」
「そのとおりじゃ」
まあ、それしか方法がないか。
いまだに俺たちの帰る手段はルーメルで発見されてはいない。
そうなると、ルーメル内で調べることはマノジルたちに任せて、俺たちは別の地域へ帰る方法を探すのが効率はいいだろうな。
それが本当ならな。
「で、俺たちがいなくなって真剣に調べられると思うか? 俺たちがいなくなって困るのはルーメルのほうだろう?」
「わしは真剣に調べる。そこは信じてほしいが、国益を言われると微妙じゃな。姫様は陛下に褒賞として帰る方法を探すための援助をと言っておったし、陛下もそこは当初の約束を守るつもりではいる。しかしじゃ、勇者殿がいなくなるということは、ルーメルにとってはいいことではないからのう」
「ま、そうだよな……」
今勇者たち、つまり結城君たちを返してしまえば、ルーメルは連合に対して強気の発言ができなくなる。
なにせ、今回の魔王大征伐で活躍したのは、ルーメルでは勇者たちだけだ。
アスタリの町での防衛線もアスタリ子爵と冒険者たちが共同で、結城君たちが頑張った結果追い返せた。
「いや、案外頑張ってルーメルのために活躍した俺たちに文句をいうぐらいだ。俺たちがいなくなってもその分厚い面の皮で、連合と交渉を続けるんじゃないか?」
「……まあ、交渉はできなくはないじゃろう。対面上連合側も勇者どのたちを送り込んでくれたことを大きく感謝してくれている。それにアスタリの街に進軍した好戦派の軍を撃破したことも大征伐が成功した大きい要因であるとな。じゃがな、勇者殿たちが帰ってしまったあとにそんなことを続けるとなると、向こうもいい顔はすまい。最終的には勘違いした連中がでてきて、連合国と開戦なんてなったらのう」
その通りだな。
何もしてなかった連中が勇者たち、結城君たちが頑張った功績を盾に交渉してくるとか、ほかの国からすればお前ら何言ってんの?頑張ったのは勇者たちだろう?って感じになるだろう。
とはいえ……。
「そんな未来のことは知らん。というか、部下の統制は上の仕事なんだろう? で、いい加減話がずれたが、俺たちや爺さんが帰る方法を模索するとして、邪魔してきそうな連中はいないのかってことだ」
俺が聞きたいのはそこだ。
俺たちの帰還を邪魔する連中がいるのかどうかだ。
結城君たち勇者がいなくなることで起こりうるデメリットを危惧して、動く連中がいれば、今後の情報収集の方法も変わってくる。
下手をすると……。
「消されるぞ。爺さん」
帰還を望むもの中で一番その条件を満たしやすいのは、この宮廷魔術師筆頭のマノジルだ。
だからこそ、勇者たちの帰還を望まない連中はこう考えるはずだ。
マノジルさえ、消せれば勇者たちは帰れないってな。
「ふん。若造どもにやられるほど老いてはおらんわ」
「別に真っ向から来るとも限らないぞ?」
「毒なぞにやられるわけもないのう」
「違う違う、成果が出ないから予算取り上げろとか、気が付けば研究棟が不審火で全焼とかな?」
「……」
流石にここまで言われると、反論できないようだ。
別にマノジル爺さんを殺すだけが、帰還とん挫の方法ではない。
周りを壊していけば遅らせられる。
「消されるというのは、命ではなく、そういう失態で地位を失う可能性もあるか……」
「そうそう。あからさまにやる方法じゃなくてそういう風に削ぐことも考えられるだろうさ。そして、手助けをするふりをして取り込む、あるいは小細工するとかな」
「……話はわかるがよくもまあ、そんな悪辣な方法がポンポンと思いつくのう」
「向こうじゃよくある話だからな」
こんなマッチポンプはどこでもやっている。
被害が大きいか少ないかだけの話だ。
こっちの連中は戦争など、力を振るえることが多いからそういう発想に至らないんだろうな。
「まったく怖いところじゃな」
「権力っていうのはそういうもんさ。まあ、爺さんも考えたことがないわけでもないだろう?」
「まあのう。しかし、タナカ殿のような若い者からいわれるとな。世の中の非情を嘆きたくなるわ」
「嘆くだけで、危険が回避できるならいいじゃないか。ということでだ、爺さんの身はどうでもいいとして、俺たちが帰るための研究資料が燃やされるのは問題だ」
「おい。わしのことがどうでもいいとか……」
「自分でどうにでもできるって言っただろう?」
「ぬぐっ」
「まあ、何かあったときは俺たちが用意している隠れ家に逃げるといい。場所はその時になって、フクロウやクォレンにでも聞けばいい」
そのための複数の避難場所だ。
俺たちだけの避難場所ではない。
俺たちの味方のための場所でもある。
「で、まずはやるべきことが決まったな」
「ん? どういうことじゃ? 他国に行くということか? 誰か有力な知恵者でもいたか?」
「あー、そっちは色々伝手がある。連合軍に参加したからな。向こうの総大将とも話して、何かあったらこっちにこいって言われてるからな。帰る手段も探してやるってさ」
「むう。そちらに行くのか? そうなると、タナカ殿の言ったことになりそうじゃな」
「ああ、そっちにはいかない。まだその前にやるべきことが決まったんだよ」
「その前に?」
そう、確保するべきものは分かった、マノジルに、おそらくお姫さんが研究していた資料一覧だ。
俺たちにとっては意味不明のものでも、見る人が見れば帰還のヒントになるかもしれない。
そんな資料を万が一でも喪失するようなことになってはいけない。
つまりは……。
「爺さんが保管している資料をデジタル化する」
俺はそう言ってタブレットを見せる。
「でじたるか?」
「爺さん。このタブレットは通信もできれば映像も送ることができるのは知っているな?」
「うむ。……あっ!?」
「気が付いたな。つまり、爺さんがそろえてきた資料を全部、このタブレットにデータとして保管すればいいわけだ。そうなれば燃やされても資料は喪失しない」
「お、お、おお!! つまりじゃ! くそ重たい本を持ち歩かなくてもいいわけじゃな!」
おー、この爺さんすげー。
タブレットを預けられるほどの人物ではあったが、俺のいうデジタル化の利点をあっという間に理解しやがった。
「そうそう。ついでに、探すのも検索できるから、タイトルさえ覚えていればすぐに見つけられる」
「素晴らしい! 早速、そのでじたるかを進めよう! さあ、タナカ殿! 今すぐ!」
まあ、デジタル化を喜んだ理由は爺さんにとってはつらい内容だしな。
確かに、調べるだけで重い本を探して持ち運ぶのは苦労でしかない。
その時間が無駄だもんな。
「落ち着け。一体本が何冊あると思っている。というか、研究用の本だけじゃなく、歴史書とかも資料の対象だろう? どれを優先的にデジタル化するのか、それを選んでもらわないといけない」
とはいえ、いきなりやってもちゃんとこういうのはルールのもとやらないと混乱する。
ちゃんと段取りを組んでもらう必要がある。
それは、爺さんも理解できるのか、狂喜乱舞してたのがすぐに真顔になる。
「ふむ。確かに資料は膨大じゃな。優先するべきは……帰る方法に関する本じゃな」
「その通りだ。まずはそれを確保してくれ。それから、余裕があれば爺さんが保存したい本も保存するといい」
「ありがたい。さっさと帰還の本をまとめてでじたるかして、わしの本を整理しよう!」
「目的が変わってるからな」
「わかっておる。わかっておる。じゃが、そういう本も何かしらヒントになるものじゃよ。と、すまぬなタナカ殿。わしはさっそくでじたるかの準備に取り掛かる。また明日まっておるぞ」
「へいへい。せいぜい頑張りすぎて、明日眠るなよ」
ということで、俺はマノジル爺さんの部屋から出て、お姫さんにも明日説明しなきゃいけないなーと思うのであった。
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