第35射:ありがたい出会い

ありがたい出会い



Side:タダノリ・タナカ



いやー、本当にありがたい世界だわ。

俺が対物ライフルでオーガをぶっ飛ばしたのだが……。


「すごい魔術を使えるんですね」

「あんな威力の魔術なんて見たことないわ」

「一点に、破壊力を集めたすごいものだな」

「そっちが実力者で助かったわ。あのまま逃がして、ほかの旅人に被害とかシャレにならないもの」


と、褒め讃えてくれる、冒険者のオーヴィクたち。

銃が存在しないこの世界において、俺は危険視されようがないのだ。

俺はなにせレベル1だからな。魔術を使えるとも思われていない。

このメンバーにいれば必然的に……。


「さすが、勇者様たちだ」

「納得の実力よね」

「ああ、さすがは魔王を倒すものだ」

「これで、なんか希望が見えてきたわね」


勇者である、結城君たちが行ったと思うのは当然の話である。


「あ、あはは……」

「ま、あれぐらいとーぜんだね」

「……光さんは、度胸がありますわね」


まあ、ルクセン君を除いて、自分の手柄になっていることにいろいろ思うようなところがあるみたいだが、この状況ではルクセン君の態度が正しい。

色々理由はあるが、一番大事なのは俺の能力がばれないためだ。

銃という武器が認識されることが危険だからな。


「しかし、タナカ殿。勇者殿たちをそのまま紹介してよかったのですか?」

「確かに、もともとはお忍びのような形になると……」

「ルーメルのこともあるからー、もっとおとなしくいくのかと思っていましたー」


大人3人は結城君やオーヴィクたちを遠巻きに見ながらそう質問してきた。


「別に、ルーメルにとって、勇者の宣伝は必要だったからな。まあ、俺たちが今後動きやすくするためだが、その状況がちょうどそろったわけだ。見知らぬ魔術でオーガを倒しても勇者といえば信じるだろう?」

「なるほど」

「たしかに」

「ヨフィアの疑問は、何も情報がないのはあれだからな。噂がたてば……」

「あー、ルーメルとか、何か勇者に敵対するものがいるなら動くってことですかー」

「そう言うことだ。この際、敵になりそうなモノは判別しておきたいからな」


ルーメル内部だけが敵ってわけでもないからな。

魔族にわざわざ情報を流して始末させようとしたんだし、ほかの国でもそういう勢力はいるだろう。

ガルツでは滞在期間が短かったから、そういう連中と出くわすことも調べることもできなかったが、リテアでは冒険者ギルドの伝手にこうして、現場の冒険者とも知り合いになれたから、情報収集という面ではかなり良い立場だ。

そういう意味では、幸先良いといっていいだろう。


「ですが、勇者様たちは何で、こんなところに?」

「えーっと、なんでだっけ?」

「はぁ。光さん。私たちはリテアの方に挨拶に行くんですわ」

「そうそうそれ」

「はは、光はこんな感じだから気にしないでくれ」

「なんか、楽しい勇者様ね」

「あ、その勇者様ってなしね。僕のことは光って呼んで」

「いや、しかし……」

「いいの?」

「いいですわ。私たちはこの世界では異邦人。そして、別に高貴な生まれでもなかったですから、こうして勇者様と呼ばれるのは慣れていないんですわ」

「うんうん。俺も、オーヴィクって呼ばせてもらうからさ。晃って呼んでくれ」

「えーと、いいのかな?」

「いいんじゃない。本人がそう言ってるんだし、よろしくね。ヒカリ」

「おう、ラーリィ。よろしくー」

「クコさんでしたか、私は撫子とお呼びください」

「あー、ナデシコは丁寧なタイプなのね。うん。よろしく」


そんな感じで、和気あいあいと話す若者の横で……。


「あー、そのなんだ。サーディアという。よろしく頼む」

「ああ。俺はタナカだ。おっさん同士仲良くやろう」

「若者は若者でということですな」


こっちもおっさん同士でのんびり話していると、ヨフィアがひょっこり顔を出して。


「あのー、皆様。魔物は倒したので、いったん馬車の方に戻りましょう。キシュア様を一人にするのも心配ですよー」

「「「あ」」」


そう言われて、キシュアを残してきたことを思い出し、慌てて馬車の方に戻る。



「どうやら、無事に倒したようですね。よかったです」


何事もなかったようで、キシュアはこちらを見て普通に答える。


「で、そちらの方々は?」

「ああ、オーガと先に戦っていた冒険者たちだ。途中で共闘して、一緒にリテアに向かってくるれることになった」


俺がそう答えると、キシュアは少し警戒した顔をしたが、俺たちの様子から敵ではないとわかったのか。


「そうですか。それはありがとうございます。私は勇者様たちのお供をしています。キシュアと申します」

「あ、いえ。そんな頭なんて下げないでください。俺はただの冒険者でオーヴィクといいます」


そんな感じで、オーヴィクは荒くれ者の多い冒険者の中では礼儀正しいいようで、リカルドや、キシュアといった貴族の騎士たちにも受け入れられたというのが、同行をお願いした理由だ。


「さて、一緒にとリテアに向かうとのことですが、オーヴィク殿たちは馬車などは?」

「持っていないようだから、こっちの馬車に乗ってもらおうと思っている。しかし、馬にはきついか?」

「そうですね。さすがにこの人数は無理があるように思いますので、何人かは歩いてついていく必要があるかと。無論、馬車はテント代わりに使うのには問題ありません」

「あ、いえ。そこまでお世話になるわけには……」

「気にするな。まあ、気になるなら、最初にあるけばいい。オーヴィク君だって、自分たちが馬車で、ほかの人をずっと歩かせているのは気が引けるだろう?」

「そう、ですね」

「だから、俺たちのためにも利用してくれ」

「わかりました」


真面目な奴にはこういう言い回しがいい。

ついでに俺がオーヴィクたちとあまり長時間顔を合わせて話すことを避けるためというのもあった。

今のところ敵ではないが、どうなるかわからないからな。

俺が最初に歩いて、馬車の中に交代で戻ったら疲れて寝るということにする。

情報収集は結城君たちに任せるとする。

俺は冒険者ギルドにいるグランドマスターが本命だしな。



と、思っていたが、そうは問屋が卸さないらしい。


「ねえ。タナカだっけ? あなたはなんで勇者様、じゃなかった、ヒカルたちと一緒にいるの?」


ポツンといるおじさんにそう話しかけてきたのは、ラーリィという魔術師だった。

まあ、鎧も着込んでいないただのおじさんだからな。

リカルド、キシュアには見劣りするし、ヨフィアはメイド姿でいかにも付き人ですって感じだもんな。

そんな感じで、自分をはた目から見てみると、不自然極まりない。ラーリィの疑問ももっともだ。

なので、包み隠さず答えることにする。


「なんでといわれると、保護者だからだな」

「保護者?」

「ああ。結城君たちの保護者だな。召喚の時に巻き込まれたが、一番年上でな。無茶なことをさせられないように間に入ったんだよ」

「へー。じゃ、タナカも強いの? あんまり強そうに見えないけど?」

「おう。俺自身は全く強くないぞ。レベル1から上がらないみたいだ」


嘘は言っていない。

俺は強くなどない。

戦場から去った傭兵だからな。

俺より強い奴なんてごまんといる。


「え!? それって、すぐ死ぬんじゃない?」

「みたいだが、なんとか生きてるな」

「それなのに、なんでまた、ヒカルたちの修行の旅なんかについてきてるの? 戦闘とかになったら危なくない?」

「ま、ルーメルの上層部がいろいろ暗躍しててな。俺は人質にされそうだったから、こっちについてきただけだ」


嘘は言っていない。

俺、なんて正直ものなんだろう。


「人質?」


しかし、ラーリィは人質の意味が分からず首をかしげている。

まあ、救世主である勇者様を使いやすくするために、俺を排除しようとしたとか、利用しようとしたとか思いもつかないだろうな。

いや、案外こういう冒険者は、貴族の厄介ごとは経験があるんじゃないか?

そう思った俺は言い方を変えてみる。


「簡単にいうと、貴族のメンツとかそういうのだ」

「ああー、なるほど。詳しくはわからないけど、貴族の派閥争いとかに利用されそうになったわけね。それでこっちについてきてると」

「そういうこと」


やっぱり経験があったようで、すぐに納得してくれる。


「災難ねー。ヒカルたちみたいに強くもないのに」

「いや、ラーリィ殿。それは誤解だ」


なぜか、リカルドが俺とラーリィの会話に入ってきた。


「タナカ殿は勇者殿たちより強い。そして私たちよりも」

「え?」


しかも俺のことをばらしやがった。

いや、ばらしてはないか、事実を話しただけか。


「ほんと?」

「本当だといって信じるか?」

「うーん……」


俺が聞き返すと、難しい顔をして俺を見つめてきて……。


「ごめん。信じられない」

「そうだよなー」

「いやしかし……」

「まあまて、リカルド。俺が強そうに見えるか見えないかの話で、お前が嘘をついているかという話じゃない」

「あ、ごめんなさい。そういうつもりはなかったんです」

「むう。いや、ラーリィ殿に悪意がないことはわかったが、タナカ殿が強いのは確かだ」

「かといって、戦って見せろっていうのはなしな。手札は見せたくないし、まだリテア聖都にもついてないからな」

「わかっています」

「というか、私は魔術師だし近接戦なんて挑まないわよ」


ラーリィはそういうが、俺はどちらかというと遠距離戦だな。

こちらでいうと超遠距離戦だろうが。

まあ、このラーリィとの会話はオーヴィクたちもしることになり、いろいろ話すことになった。


「大変でしたね」

「そういうことか。同じ大人として尊敬するぞ」

「そうね。ナデシコたちを好きにさせないために守るってのはなかなかできることじゃないわ」


軒並み、俺がこっちに来てからの境遇に対しての感想で、レベル1に関しては何も言うことはなかった。

ある意味個人情報とか能力に対しての意見になるから、失礼だと思っているんだろうな。

というか、一般常識でもステータスを聞くのはタブーだというのに、それを真っ先にさらせといったルーメルの連中は信用ならんよな。

まあ、把握するうえでは、ステータスを見ることがこれ以上ない方法なのは認めるがな。



そして、オーヴィクたちと一緒に進むこと2日後。

予定より1日早く、聖都に到着した。

これ見よがしに、大きな教会が遠めから見えるのが、いかにもな国だな。


「おおー。すごいねー」

「あれが、オーヴィクの言ってた大聖堂か」

「すごいですわね」


そんな感想を漏らしている結城君たち。

この2日間でオーヴィクたちとは仲良くなれたのか、いろいろな冒険譚やアドバイス、町の情報などを仕入れていた。

これは、結城君たちの手腕を褒めればいいのか、オーヴィクたちが俺たちにために話してくれたことに感謝するべきなのか、迷うところだな。

まあ、わかったことは……。


「聖都のギルドに行くにはこっちの方が近いですよ」


このオーヴィクたちには何の悪意も今のところないってことだ。

ここにいる間は、ローエル将軍よりは頼りにできそうだ。



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