第63射:作戦立案
作戦立案
Side:タダノリ・タナカ
何かここ最近、大和君たちは一皮むけたようだ。
やはり、オーヴィクたちが瀕死になって、ほかの冒険者が死んだおかげか?
おかげというのは、あれかもしれないが、変わったきっかけなのは間違いないだろうな。
「作戦としては、かなり後方に馬車を置いて、そこを合流地点として、私たちはオーガの群れを討伐したときと同様に、遠距離からの魔術攻撃を行い、オークの群れを攻撃します」
「残った場合はどうする?」
「数が少ない場合は継続して攻撃を、減っていない場合もこちらに気が付いていない場合は攻撃を継続します。逃げる条件としましては、自分たちより、多い数が残ってこちらに向かってきた時です」
ふむ。もともと距離を取っているし、身体強化で足もそれなりに早いから逃げきれるか?
「オークの足の速さがわからん。リカルドたちはこの作戦はどう思う?」
俺には判断できないので、一緒にいるリカルドたちに話を聞いてみる。
「オークは足が速い魔物ではありませんから、十分逃げ切れるかと」
「そうですね。注意するべきは、その体躯から繰り出される強烈な攻撃です。私たちは盾を基本装備としてはいませんから、一撃を受けると致命傷になるでしょう」
「2人の言う通りですねー。基本的には問題はないと思いますよー。あと、気を付けるのは、オーガテンペストの時みたいに、強力な上位種が混じっていたら危ないですね。まあ、見た感じ、いないようでしたけど」
そうか、この前と同じ事例も疑うべきだな。
だが、俺にはオーガの時は分かりやすかったが、オークの上位種とかいうのは見分けがつかん。
どれも同じ猪面にしか見えん。
そんな様子を察したのか、ヨフィアは言葉を続ける。
「まあ、上位種っていうのは、この前のオーガテンペストの時のように、あからさまに、他の個体とは違いますから、体格が明らかに大きかったり、色が違ったり、早々見落とすことはないと思いますよー。まあ、逆に小さくなっていたり、妙な個体もいますけどねー」
そう言われて、改めてオークの群れを、双眼鏡でのぞいて確認してみるが、確かに、ヨフィアの言う通り、上位種というのがいるようには見えない。
「問題はなさそうだな。俺はこの作戦賛成だ。リカルドたちは?」
「私も賛成ですな。いつか、避けられない戦いもあるでしょうし、こういうことは一度経験しておくべきかと」
「同じく賛成です。逃げ道もある、戦う手段も持っている。これはやるべきことです」
「そうですねー。こういう経験はできるときにやっておくべきかとー。私も残りますし、判断を誤ることはないかと。まあ、タナカさんがいて、緊急事態になるとは思えないですけどー」
「ヨフィアの信頼はありがたいが、俺が言うことは絶対じゃない。あんまり信頼しすぎると、痛い目にあうぞ」
「はいはーい」
ちっ、なんというか、流石冒険者ギルドから派遣されて、メイドとしてルーメルの王宮に使えていただけあって、こういうのは簡単に流されるな。
おかげで本当に聞いているのかいないのか、よくわからん。
まあ、死ぬなら死ぬで、問題は無いか。
「あ、何か嫌なことをかんがえましたねー?」
「さあな。とりあえず、大和君たちが戦うことに関しては、俺たち全員否はない。むしろいい経験だと思っている。俺も同じだ。オークに大した脅威がないなら、この状況を利用して、色々試してみるといい」
ヨフィアのことは流して、そのまま大和君たちの提案に賛成だと伝える。
俺もいい経験だというのには賛成だ。だが、逃げる方が面倒もない、という判断に流れるかとおもえば、ちゃんとリテア聖都のギルドで問題になることも予測しているから、合格だ。
俺がいなくなっても、もうやっていけるだろう。
まあ、人間完璧なんてのはないから、失敗しながら学んでいくしかないがな。
それでも、ここまで判断力があれば、致命的なことにはそうそうならんだろう。
「はい。では、考えていたことがありまして……」
そこで大和君が考えた作戦の詳細が知らされる。
「んー?」
「よく、分かりませんね」
「おー」
「どういうこと?」
「あー、なるほど」
説明を受けた5人の反応は二つに分かれた。
大和君の作戦が理解できた方と、理解できなかった方だ。
因みに俺は分かった方だ。
「なぜ、最初に地面を陥没させるのですか? 最初から攻撃魔術を当てては?」
「そうですね。足元を陥没させる意味がよくわかりません」
「足を? んー? なんか引っかかるな」
分かっていないのはリカルド、キシュア、ルクセン君だ。
いや、ルクセン君は気が付き始めているな。
まあ、騎士様の2人はこういった泥臭い戦い方は嫌がるかもしれないな。
で、作戦を理解している、結城君とヨフィアは……。
「大きな穴を開ければ、敵は出てこれないし、俺たちはそこを目標に魔術を撃てばいいわけか」
「ですねー。こっちは更に安全にやれますよねー。いやー、大規模な魔術がつかえるからこそですねー」
そう。落とし穴というのは、原始的な罠に思えるが、これ以上効果の分かりやすいトラップはない。
が、現実では精々人や獣が落ちる罠が精々だ。
なぜなら、落とし穴を掘る時間や力がないからだ。
しかし、この世界は違う。
魔術とかいう、摩訶不思議な力で、そういうことが一瞬でできてしまうのだ。
俺が使えれば便利だなーとは思うが、使えないものは仕方がない。
俺が使いたいという話はいいとして、この落とし穴を一瞬で形成できる魔術は使い方によってはとんでもない効果を発揮する。
落とし穴と考えるからピンと来ないだけであり……。
「リカルドたちは、恐らくちょっとした穴をイメージしてるんだろう?」
「違うのですか?」
「足止めに使うつもりでは?」
2人は未だに分からないようだが、一緒に首を傾げていたルクセン君は分かったようで、目を見開き……。
「あっ!? そういうことか!? 大きい穴とかを作ればいいんだ!! すぐには登れないような大穴!! 堀みたいな!!」
「その通りですわ。光さん。足止めではなく、完全に閉じ込めてしまうような大穴を作ればいいのです」
大和君が当たりだと告げる。
大和君が言うように、あの集団をすっぽり落として登れないような大穴を作れば、もう勝ちが決まったも同然だ。
「……なるほど。それができれば一方的に攻撃をできますが、可能なのですかな?」
「そこまでのレベルだとは思いませんでした。しかし、リカルド殿と同じように可能なのかという疑問が残ります。できたとしても、それで魔術が撃て無くなれば逆に危険なのではないでしょうか?」
意外にも、リカルドたちは拒絶反応を示すことなく、心配点を挙げる。
あれか、魔物だから正々堂々とかは関係ないと思っているのか?
ま、そこはいいか。
リカルドたちが心配していることは、当然のことだ。
閉じ込めるのはいいが、追撃できないのでは、どうしようもない。
まあ、それもある意味、今回は織り込み済みなんだろうな。
「やってみなくては分かりませんが、落とし穴を作ることは、ルーメルの時にも何度かやっていますので、感覚はわかります」
「成功すればそれでよし、出来ないなら逃げるってやつだよな?」
「はい。晃さんの言う通り、私と晃さん2人掛かりでも出来ないなら、あきらめて普通の魔術攻撃に切り替えるか、気が付かれたのなら逃げればいいだけです」
そう、今回は大和君たちのチャレンジ。経験の一環だ。
失敗してもいいのだ。
そして、周りは身内ばかりで、情報漏洩の心配はないし、自分たち以外の人目もない。
村も町も近場にはないから、たまたま通りかかったなどという可能性も極めて低い。
こんなチャンスはそうそうないだろう。
地球でも実際困ったことだった。
敵から鹵獲した兵器の試し打ちをしようにも、町の近くでやれば、住民から反感を買うし、場所を選ばないといけなかったからな。
一応、マニュアルがあって、威力などは記載されているが、実際やってみるのとは違う。
初めての武器を試運転もしないで、実戦で使うとか、バカのやることだからな。
いや、自殺志願者か。
まあ、俺の感想はいいとして、大和君の説明を聞いたリカルドたちも納得したようだ。
「なるほど。魔術の実験も兼ねるというわけですな」
「ならば、あのオークはおあつらえ向きですね。こちらに気が付いていない、規模も大きい。威力や範囲を試すにはもってこいでしょう」
「って、ちょっとまってよ。僕が魔術を撃つメンバーに入ってないんだけど?」
「光さんは、貴重なエクストラヒールが使えるのですから、無駄に魔力を消費してほしくはありません。今回に限っては、魔力をどれだけ消費するかわかりませんから」
「そうそう。いざという時は光を頼りにするから、我慢してくれ」
この判断も俺は賛成だ。
ルクセン君のエクストラヒールは貴重で使い勝手がいい。
重傷者もすぐに復帰できる物凄い代物だ。
それを使えなくするのは良くない。
「ぶー。結局、パーティー内でも隔離されそうだよー」
「まあまあ。別にこれからもずっとってわけじゃないから我慢してくれ」
「ええ。上手く行けば、光さんも魔術攻撃に加われますから」
「むー。仕方がない。そこは我慢するよ」
むくれていたが納得するルクセン君。
まあ、どのみち貴重な能力の持ち主には制限が付くものだ。
これが、仲間内ではなく国が管理しだしたら、外出もままならなくなるからな。
さて、多くの人の為、国の為に、個人の自由を奪うことが正しいのかと考えさせられるな。
だが、この世界にそういう考えかたを求めるのは、なかなか難しいだろう。
今後もルクセン君がエクストラヒールを扱えることは極秘だな。
というか、エクストラヒールはラーリィ君たちの治療以来、試していないからな。
そこら辺を確認したいが、回復魔術は攻撃魔術と違って、先にけが人が必要だ。
しかも、瀕死の重傷者。そういうのに、滅多に出会えるわけもないし、自分たちで実験するのもあれだ。
そんなことを考えている間に、大和君たちは、3人でどう動くかの打ち合わせをしている。
「まずは、私と晃さんが地面に巨大な穴を開けられるか試してみます。それで、上手く行けばそのまま追撃。上手く行かなくても、こちらに気が付いてなければ攻撃。気が付いていれば、撤退位置までいるリカルドさんとキシュアさんの所に行って離脱です。使用する魔術は、晃さんが水で相手を水浸しにして、私と光さんが雷。いいですか?」
「おっけー。びりびりってやつだね」
「問題無し。それなら逃げる場合でもかなり有効だな」
内容は先ほど話した通りだな。
まあ、少し、内容が具体的になっているが。
「田中さん、ヨフィアさんなにか問題はありませんか?」
「いえー、特に問題はないですよー」
「ああ。問題は無いように思う。感電させようっていうのはいい作戦だな。それなら撃ち漏らしは少なくなるだろう」
こういう乱戦で一番厄介なのが、死んだふりとか、瀕死の状態でもう後先考えずこちらを攻撃しようとしてくる連中だ。
それをまとめて始末できる作戦だから、なかなかいい方法だと俺は思う。
死んだふりをしようにも、水面に顔をつけていれば溺死か窒息死、追撃の雷撃で瀕死のやつらも含めて感電死。
いや、楽だね。
死体の山にわざわざ弾を消費しなくて済むのは実に素晴らしい。
「では、リカルドさんとキシュアさんは指定の地点まで馬車を移動して待機をお願いいたします」
「了解しました。ご武運を」
「どうか、御無理はなさらないように」
そう言って、リカルドたちは静かに後方に置いてある馬車に乗り込み、指定地点まで移動を開始する。
「では、田中さん、ヨフィアさん何かあれば、フォローをお願いいたします」
「はいー。お任せください」
「ああ、思うようにやってみるといい」
さあ、どこまで魔術っていうのは凄いのか、改めて見させてもらおうか。
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