第28射:次の訓練地
次の訓練地
Side:アキラ・ユウキ
「くあー。結構戦ってたと思ってたけど、まだ夕方かー」
森を出て草原を見ると、ようやく日が傾いてきて、夕焼けに染まってきたかなーぐらいだった。
「はは。何かに集中すると、時間が経つのは早いというが、実戦は逆のことが多いな。命を懸けて戦うから、一戦一戦は時間が短いが、命のやり取りをしているから、長く感じることが多いし、命を懸けて戦うというのは結構体力を使うからな。そう何回も戦えない」
そう言って、俺の言葉に、ローエル将軍は笑いながら説明をしてくれる。
確かに、今までの森でウルフやゴブリンを退治していた時も、あれだけ戦ってたのにまだこんな時間かーっていうのはあったな。
よくよく考えると、毎日日が暮れる前には戻っていたんだし、森で魔物退治はそこまで時間を懸けていなかったってことだよな。
「でも、一日で森の魔物退治終わってよかったんですか?」
そう聞くのは光だ。
光の言う通り、午前中だけであれだけいたのにスパイダー退治は今日で終わりなんだよな。
「心配はいらない。そもそも、冒険者や兵士の一団が行って全部退治できることなどまれだ。確認のために後日また別のチームが出てくるし、こういう魔物はいつでもわいてくるからな」
「なるほど。では、あの森の状態は特に問題なしということでしょうか?」
「いや、大型のスパイダーがいたから、スパイダーが多かった」
「では、問題があるのでは?」
「魔物の大型は珍しいのは珍しいが、ないことでもない。大事なのは定期的な報告だな。別に町に魔物の大群が迫っているわけでもないから、この報告を届けて、今後の森の見回りを強化するなどをウォール伯爵や冒険者ギルドは対策をとるわけだ。一つの情報源だけで判断はしない」
「なるほど。しっかりした体制ができているというわけですね」
「何も考えず、魔物と戦ってきたわけじゃないからな。蓄積があるのさ」
なんて頼もしい。
というか、当然か。
俺たちが心配することなんて大人が気が付かないわけがない。
「という感じで、大型の魔物はいたが、別に慌てるほどのことでもないな。これを報告して、向こうがどう判断するかだ。おそらく、調査員の増員だろう。そこは私たちが関与するところではないからな。私たちの、というより勇者殿たちの目的は、多くの種類の魔物と戦い経験を積むことだからな。今回の森の魔物退治のほうがある意味、予定外だったのさ」
「え? この魔物退治が予定外ですか?」
「ああ。今回の魔物退治は森の魔物が多いという話があったから、その調査に来たんだ。その原因と思われる大型のスパイダーは倒したし、ほかにいるのであれば、もうちょっと本格的な調査をするだろう。本来であれば冒険者がこなすんだが、今回は勇者殿が来られるということで、受けてみたわけだ」
「なるほど。じゃあ、本来はどんな予定だったんですか?」
俺がそう聞くと、ローエル将軍はすぐに答えてくれた。
「ダンジョンだ」
「ダンジョン?」
「聞いたことはないか? 魔物が湧き出す洞窟だな」
「あー、確かマノジルさんから聞きました。ダンジョンマスターっていうのが管理している場所ですよね? しかも、そのダンジョンマスターって魔王より厄介とか言ってた気がするんですけど?」
確か、魔王と違って、いきなりダンジョンができるから発見が遅れたりして、かなり被害が出るケースがあるとか……。
だから災害なんて呼ばれたりもしてたとか……。
「ああ。その通りだ。ダンジョンマスターにもランクがあってな、強い奴は強いが、弱いところは弱い魔物しか出てこないところもあるんだ。訓練用に使うにはこれほどいい場所はない」
「そうなんですか。あ、そういえば宝箱とかもあるとか?」
「あるぞ。ダンジョン専門でいく冒険者もいるぐらいだから、一攫千金になる人物もいる。だから一概に災害とは言えないんだ。一種の鉱山のようなものでな。掘れば何かいい物が出てくる時もある」
なるほど、人を集める理由にもなるし、経済の一環ってやつなんだろう。
まあ、詳しくはわからないけど。
「へー。なんかわくわくするね。晃」
「俺たちも何か見つけられるかな?」
「2人とも、私たちの目的は宝探しじゃなくて、訓練ですからね? それに、ローエル将軍の話では訓練用の安全が確認されたダンジョンみたいですし、宝が残っているとは思えないですわ」
俺たちの夢と希望は早々に撫子に砕かれる。
少しぐらい、異世界を楽しもうと思ってもいいじゃないか……。
その様子を見てローエル将軍は苦笑いをしながら話を続けてくれる。
「まあ、ナデシコの言うように、調べつくされているダンジョンというのは間違いないが、宝箱も定期的に生成されるからな。何も見つからないというわけでもない」
「宝箱も出てくるんですか?」
「なんでだろう?」
「そのことについては、魔物が湧き出す理由と共に、多くの学者が研究をしているが、答えは出ていない。一説には、宝箱などで冒険者を呼び寄せるのが目的だというのがあるが、ダンジョンが攻略されては意味がないからな。だからこそ、ダンジョンマスターがいないダンジョンは自然にできた産物だといわれている。そこを放っておくと、いずれダンジョンマスターが生まれて、周りに被害を及ぼすと言われている」
いまだ謎は残っているってやつか。
あれかな? 鍾乳洞とかと同じような感じかな?
「でも、それだけ危険なら、残しておく理由はあるのですか? いくら宝箱が出るからとはいえ……」
「ああ、そうか、ダンジョンの一番の特性をしらないのか。いや、当然の話だな。ダンジョンの中にあるダンジョンコアという特大の魔石を取らずに、なぜダンジョンを稼働状態にしているかという疑問は、宝箱が目的ではないんだ」
「ほかに目的があるんですか?」
「ああ。宝箱は基本的に二の次でな。ダンジョン内の魔物が目的なんだ」
「魔物がですか?」
「そうだ。冒険者をやっている勇者殿たちならわかると思うが、武具の材料、果ては食材としても魔物は利用されている。つまり……」
ここまで言われれば俺も分かった。
「あっ、魔物が無限に湧き出すってことはそれが取り放題ってことですか?」
「そうだ。まあ、素材全部が取れるわけではないのだがな。ダンジョン内の魔物は倒すと、アイテムを落として綺麗さっぱり消滅するんだ」
「しょうめつ? どういうこと?」
「ヒカル。そのままだ。消えてなくなるんだ。倒した魔物に関係するアイテムを一つ落としてな。解体いらずで綺麗な素材を手に入れることができるわけだ」
「それは、便利ですわね」
「そうだ。便利なのだ。ウルフであれば、牙や皮、ゴブリンであれば、魔石といった感じかな? ああ、無論このスパイダーも同じタイプでダンジョンにでて、落とす素材は糸だったり、肉だったりする。それは、物資の安定供給が望めるということだ。産業などが起こしやすく、私たちもダンジョンの恩恵にあずかっているということだな。まあ、最初に言ったように、死体丸まる手に入れば素材も多いのだが、戦闘あとの魔物の素材は痛むからな。そういう意味でも好まれること多い」
「品質がいいってことか」
「そうだ。ガルツはそのダンジョン産業とでもいえばいいのかな? それに力を入れている。無論、ダンジョンを管理するためが第一で、管理できないようなダンジョンはつぶすがな」
なるほどな。
俺たちはそこで訓練することになるのか。
「ローエルさん。私たちが行くダンジョンは訓練にちょうどいいって話ですけど、どんな魔物がいるんですか?」
「残念ながら、ヒカル。それは教えられない。情報を得ようとするのは間違っていない。むしろ推奨されるべきことだが、今回はタナカ殿の方針で伝えないでくれとのことだ」
「え!? なんでだよ。田中さん」
光が言うと同時に俺たちは後ろをついてきている田中さんを見る。
「ん? どうしてって、見たことのない魔物に対しての対応の練習だな。情報があるならそれに越したことがないのは事実だが、情報がない敵の場合はどうするんだ? っていうのを経験させたい」
「勇者様たちは、魔王を倒すために敵地の奥深くに入ることになりますからな。見たこともない魔物を相手にすることもあるでしょう」
「なるべく、私たちも情報は集めてフォローをしたいとは思いますが……」
「全部が全部、完璧に調べられるわけではないですからねー。失敗できるうちにー、経験しておいた方がいいかとー。タナカ様だけでなく、私たち、全員の総意ですー」
「「「……」」」
あまりにも完璧な理由なので、何も言えなくなる俺たち。
「まあまあ、そこまで心配そうにしなくていい。ヨフィア殿の言う通り、失敗できるうちに失敗しておいた方がいい。私たちもサポートでつくし、タナカ殿たちもいる。安心して、初見での対応の仕方を学ぶといい。それに……」
「それに?」
「ダンジョンで宝物が出てきた場合は、ふつうに勇者殿たちが取得してくれていいからな。頑張れば、何か見つかるかもしれないな」
「「おおー!!」」
俺と光は声を上げて興奮する。
撫子は逆にやれやれって感じになる。
「まったく。遊びではないのですよ。命を懸けた訓練ですわよ?」
「落ち着け。大和君。委縮するよりはいい。宝箱ぐらいのご褒美があっていいだろう」
「そう、ですか?」
「ああ。あまり根を詰めすぎるのもよくない。大和君の姿勢は悪いことではないが、心のストレスは体に負担をかける。どこかで、息抜きをすることを覚えるといい」
そうそう。撫子はまじめすぎる。
まあ、お嬢様だから仕方ないとは思うけどね。
「うーん。ストレスが溜まっている実感はないのですが、田中さんが言うのですから、その通りなのでしょう。でも、どう息抜きをしていいか……」
「指摘されるとこまるよな。まあ、ゆっくりでいい。何か息抜きできるものを探してみるといい。幸い、俺の能力で甘い物とかは取り寄せられるからな」
「ああ、それがいいですわ。老舗のケーキが食べたいです」
「あ、それは僕も食べたい」
「俺は近所にあったラーメンがいいですね」
「まてまて、老舗のケーキも近所のラーメン屋も俺は行ったことがないからな。無理だ」
「「「えー……」」」
わかってはいるけど、そういって非難してみせると、田中さんは苦笑いをする。
それを見たローエルさんは笑いだし……。
「あはは。いや、失礼。タナカ殿も新人の扱いには困っているようですね」
「いや、故郷を思っているから当然でしょう」
「なるほど。ならば、らーめんはわかりませんが、ケーキならわかります。故郷のものとは違うでしょうが、町に戻ったら出してもらうようウォール伯爵に頼んでみましょう」
「「「おー!!」」」
そんな感じで、俺たちは意外と余裕で、森での魔物退治を終えて、ウォールの町に戻ったのであった。
ちなみに、ケーキはパンを固めたような……撫子曰く、昔のケーキで、意外とがっくりしてしまったのは、内緒だ。
ローエルさんは気を使ってくれたんだから。
あ、ちなみに、あとで、田中さんが知っているケーキを取り出して部屋でこっそり食べた。
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