第197射:待ち伏せ

待ち伏せ



Side:ナデシコ・ヤマト



「ごめんね。ノールタル姉さん。なんかウォールの町じゃゆっくりできなかったね」

「別に構わないよ。もともとあの変態に一泡どころか、パンチ入れるためについてきたんだからね」

「……そう、あの変態、は、殺す」


そんなことを話しながら、私たちは、ウォールの冒険者ギルドから得た情報をもとに、急遽ウォールの町を飛び出し国境沿いで魔物が出てくる大森林へと向かっています。

しかし、田中さんは情報封鎖の件を簡単に言っていましたが、下手をするとこれは……。


「大和君。色々考えてしまうが、味方のリリアーナ女王やゴードルもデキラ側に潜り込んでいる。何かあれば後手に回っても最悪の事態は避けられるだろうさ」

「……そこはもうちょっと大丈夫だとは言えないのですか?」

「そこまで楽観主義じゃない。というか、俺たちは圧倒的に組織力がないからな。クォレンやグランドマスターたちの力を借りているが、それでも全然情報が足りていない。これで、大丈夫といえるようなバカじゃない」

「……」


確かに、私たちは力を貸してくれている人たちがいるだけで、決して自分の組織があるというわけではありません。

それで、大丈夫とは言えないというのは田中さんなりの誠意なのでしょう。

……もうちょっと、気を使ってほしいですが、田中さんがそう言う甘いことを言うはずがないですわね。

現実を見ろということですか。


「リリアーナ女王や、ゴードルさんに連絡は? リテアの国境の方はどうなっているのですか?」

「昨日の今日で変化はないさ。とはいえ、俺たちの調査次第で動きが変わるかもな。あ、フクロウの方にも国境の話をしておいて裏を取る必要があるな」


確実にできる手を打っていくというやつですね。

……確かに私たちにできるのはこれぐらいです、か。


「さて、雑談はここまでだな。もうすぐガルツからルーメルの国境付近だ。敵が本当に監視しているなら……」


田中さんがそう言って外を見ようとした途端……。


「田中殿!! 前方に煙です!!」


リカルドさんがそう叫び、馬車の進む方向を見ると確かに煙が上がっていて……。


「結構いるな。オーガにオーク、でかいウルフみたいなのもいるな」

「げー、本当にこうして襲ってくるんだ」

「……あの数、普通の冒険者たちでは無理でしょうね」


ぱっと見た感じ、最低でも50はいます。

敵は本気でルーメルへ戻ることを阻止しているようですね。

そして、こちらを確実に殺す気で向かってきています。


「普通ならこれで勝てないと思ってガルツに戻るんだろうが……」


田中さんはそう言いながら、銃を構えて……。


「悪いな。俺たちの目的はルーメルに戻るんじゃなくてお前たちなんだよ」


物凄くうれしそうな顔になっています。

……やる気ですね。


「じゃ、予定通り、逃がした奴は俺が止めを刺すから、結城君たちがまずは遠距離から魔術攻撃で減らしてみてくれ。デキラの軍とぶつかることを想定しているなら、これはいい練習だ」

「おっけー! いまさら、あの程度の数に怯むような僕たちじゃないよ! 晃、撫子、いくよ!!」

「おう! デキラの好きにさせるか」

「ですわね。私たちがいつまでも殺しに怯えているとは思わないことです」


もう散々命のやり取りはしてきました。

やらなければやられる。

今はその時です。もうそれが感じられるようになりました。

命を無暗に奪うのは悪いこと、そう、無暗にです。

これは、私たちの命を守るため、そして友人を故郷に返すため、多く人の命をというのはアレですが、今の私たちに躊躇いなどありません。


ズドドーン!!


そんな思考をしているうちに無詠唱で魔術を放ち、魔物たちの群れを吹き飛ばします。

散々、アスタリの町で有効的な広範囲魔術の練習をしましたし、着弾点なども含めてずれもありません。


「おうおう。アスタリで頑張った甲斐があったな。おかげで俺たちの援護は必要なさそうだ。なあ、リカルド、キシュア、お姫さんたち」

「ええ。流石勇者殿たちですね」

「ここまでの魔術をモノにするとは見事です」

「私は、勇者様たちを信じていました」


3人ともそれぞれに感想をいいますが、お姫様に関しては、何を白々しい……。と思ってしまうのはアレですね。

とはいえ、それを言うのは空気が読めないわけでもないので、スルーしておきましょう。

お姫様もお姫様で色々葛藤があってのことですから。

そう考えていると、田中さんがいきなり別の方向を向いて……。


タァァァン!!


いきなり発砲しました。


「へ? いったいどうしたの? あっちに魔物はいないよ?」

「……いや、なんかいるな」


晃さんがそう言ったので、よく見てみると……。


「本当ですわ。人のように見えますね。田中さんはあの方を狙ったんですか?」

「ああ、前と同じように様子見している連中がいると思ってたからな。まあ、予想通りだったわけだ。俺たちが出ていくことを報告する人材もいるだろうから、当たり前といえば当たり前だ」

「なるほど」


確かに、ガルツからルーメルへ向かう人たちを襲うのですから、その量などはしっかり調べて報告する必要はあるのは当然です。

その人員が私たちを見ていたわけですね。


「さて、俺は撃ったやつの確認をしてくる。結城君たちは魔物がほかにいないか警戒しててくれ。ヨフィアも働けよ」

「えー、私の出番は基本的にメイドですよ? あ、アキラさんのお世話ってことですか!?」

「ばか、本業での仕事してろ。ノールタルたちも同じように警戒だ」

「わかったよ。とはいえ、全然出番はなさそうだけどね」


そう言って、田中さんは撃った人のところへ行きます。

……連れてくるといわないのは、おそらく、そういうことでしょう。

そんなことを考えながら、魔術を撃った先を見つめますが、やはり魔物は出てきません。


「うまく全員倒せたのかな?」

「どうだろうな、まだ煙が昇っているから、よくわからないな」

「油断は禁物ですよ二人とも。田中さんが戻ってくるまで、しっかり見張っていましょう」

「りょーかい。でもさ、こうして襲ってきたってことは、やっぱり田中さんが言うように情報封鎖していたってことだよね?」

「多分な」

「偶然襲ってきたなら、それはそれでいいんですが……」


田中さんがこちらの様子を見ていた人を見つけたようですし、偶然という可能性はかなり低いでしょう。


「そういえば、ノールタル姉さん。魔族が魔物を使うっていうのはよくあるの? この前も魔物を操っている人に襲われたしさ。一般的みたいなもの?」

「全員が全員てわけじゃないけど、テイマーの才能を持つ連中はいるね。まあ、あんな森の中に住んでいるからね。魔物とはよく遭遇するし、それを利用しているわけさ。戦力にもなるからね。ほら、ゴードルが警備している畑にもウルフタイプの魔物が一緒にいただろう?」

「そう言われれば確かにいましたね。普通に犬のように見えましたけど」

「力の強い魔物は、国境沿いに放して防衛力に回しているからね」


なるほど、確かにその方が魔物を殺すよりもいいかもしれません。

まあ、そうなると、連合など作って人が攻めてくれば被害は甚大になりそうですが。


「で、今回はその魔物を意図的にここに連れて来ている感じだね。さっきの魔物たちも群れにしては種類が変だったしね。お互い攻撃する魔物も一緒にこちらに向かってきていたから、操っているテイマーがいたんだろうね」

「そっかー。で、あの数を操るのに、テイマーって何人いるの? もしかしてテイマーだけ今残ってたりする?」

「それは、個々の技量によるからね。一人で何百って数を使役できるのもいれば一匹で限界ってのもいる。まあ、こんな国境でガルツに向かうだけの人を襲うように指示できるテイマーだし、それなりの実力者じゃないかな。百匹操るのに、百人連れてくるような目立つマネはしないだろうさ」


そんな感じで、ノールタルさんからお話を聞いていると、ある疑問がでてきました。


「ノールタルさん。魔族の方がテイマーの才能を持つ人が多く、魔物を使役できるのは分かりましたけど、その使役した魔物の餌とかはどうなるんでしょうか? 魔族は開拓している土地が少なく、食糧が厳しいはずですが?」

「そう、そこなんだよね。魔物を兵士として使う時の問題は。魔力を餌としているタイプのスライムとかアンデッド、スケルトンとかはご飯は必要ないんだけど、生物タイプの魔物はそうもいかない。ウルフとかオークとかね。そいつらは結構食べるから、役に立つ分、困りもするのさ。リリアーナが言っていたデキラの軍備の増強の問題点はここなんだ。戦力を増やそうとすれば、魔物を増やすのが手っ取り早いんだけど、維持費がかかりすぎるからね」


軍にはお金がかかるということですね。

デキラの方も危機感を感じているからこそ、そういう判断をしているのでしょう。

そして、こんな行動を起こしている。

しかし、まだリリアーナ女王からこの手の許可は下りていないですから……。


「恐らく、私たちから巻き上げた資産はこういうところに使われているんだろうね。全く腹立たしい限りだよ」


本当にその通りです、自分たちが頑張って稼いだお金や資産を、こんな情報封鎖の為に使われているのですから。

と、そんなことを話しているうちに、田中さんが戻ってきました。


「そっちは特に問題は無いようだな」

「あ、田中さんおかえり。こっちは見ての通り何も動きはないねー。で、そっちはどうだった?」

「こっちは面白くない話だな。魔族だけじゃなかった」


田中さんにしては、珍しく難しい顔をしています。


「どういうことでしょうか? 魔族以外に誰かいたような感じですが?」

「それがな、暗殺ギルドも加わっていたようでな」

「「「はぁ!?」」」


あまりの事態にみんな声を上げます。

魔族と暗殺ギルドが組んでいる!?


「な、なぜでしょうか!!」


この事実にお姫様も声を荒げています。


「なぜって、そりゃルーメル王都の闇ギルド、暗殺ギルドが潰されたからな。その報復だろうな」

「……そんな」

「ともあれ、なぜこんなに情報封鎖が上手くいっていたかは分かった。闇ギルドの連中が魔族と組んで、ルーメルに情報封鎖をしていたってことだな」

「ちょっとまって、闇ギルドと組んでいるってことは、もう随分前から情報封鎖してるってことだよね?」

「だろうな。デキラのやつはもう準備をしていやがったってことだ」


それは、つまりリリアーナ女王たち和平派が危険だということ。


「大至急アスタリに戻る。ウォールの暗殺ギルドを潰している暇はなさそうだからな」

「「「はい!」」」

「馬車の中で気持ち悪いと思うが、各自関係者に連絡を取ってくれ、お昼に出る可能性は低いが、出てくれればこの事態を素早く伝えられる」


こうして、私たちは急いでアスタリの町に戻ることになりました。

だって、ここまで準備をしているのであれば、デキラはいつ攻めてきてもおかしくないのですから。



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