第246射:帰還とこれから

帰還とこれから



Side:タダノリ・タナカ



「……ということで、よさそうな拠点を3つほど探してくれ」

『いきなり3つかい。金はあるんだろうね?』

「さあ、足りるか分からないが、連合の王族とかがくれた財宝があるな。足りない分はルーメルの方からぶんどる予定だ」

『はっ。相変わらずだね。ま、今回の事を考えれば余裕だろうね。というか屋敷ぐらい向こうで用意してくれそうなものだが?』

「そんな監視してくれっていうような拠点を誰が利用するかよ」

『当然だね。わかった。探しておくよ』


そう返事をしてフクロウとの連絡が切れる。

俺たちは今、アスタリの町まで戻ってきていて、ルーメル王都からの連絡を待っている状態だ。

ちなみに俺たちが魔王を倒したって報告はアスタリの町全体にすぐ伝わって、今やお祭り騒ぎ。

俺たちはその騒ぎから逃れるように、冒険者ギルド内の宿舎でゆっくり旅の疲れを癒している。

とはいえ、こうして情報収集は行っている。

さて、あとは冒険者ギルドのほうの情報だな。



「冒険者ギルドのほうは連絡取れたか?」


俺がそう聞くのはアスタリ冒険者ギルドの副ギルド長のイーリス。

ギルド長のソアラはアスタリ子爵と町の治安維持などの打ち合わせで外に出ている。


「いや、ルーメル王都のクォレンギルド長とは連絡が取れない」


どうやらルーメル王都にいるギルド長クォレンのほうは忙しいのか連絡がつかないようだ。

タブレットも渡しているんだがそっちも音信不通だ。

まあ、魔王討伐成功の報告がグランドマスターから届いて大混乱しているんだろう。

せいぜい頑張ってくれ、その分俺たちの安全が増す。

さて、情報がないならここにいる必要はないな。

そう判断して、部屋を出ようとすると……。


「で、無事に魔王は倒した。タナカ殿たちこれからどうするつもりなんだ?」


イーリスからそんな質問を受けた。


「今更な話だな。俺たちの目的は最初から変わっていない」

「元の世界に戻るか?」

「そうだ。無理やり連れてこられたんだ。用事が終わったのなら約束を履行してもらうだけだ」


用事は終わった。あとは帰るだけだ。

とはいえ……。


「それは、叶いそうなのか?」

「厳しいな。俺たちをこの世界に呼び寄せたお姫さんは帰す手段を見つけてはいない。何せ勇者たちと一緒に魔王退治だったからな。城に残っているマノジルが調べてくれるとは言ったが、それも報告がないことから望みは薄いだろう」

「まあ、それはそうだろうな」


全く約束を履行できないというのは腹立たしい。

おかげで俺たちの行動は帰る方法を探す旅にシフトチェンジするだろう。

予測通りで悲しい限りだ。


「冒険者ギルドのほうにも依頼を出してもらうようにグランドマスターに頼んでいる。何かあったらイーリスも教えてくれ」

「わかった。そこは任せてくれ」


各国の連中も帰る方法を探すと約束してくれた。

そういう意味では、まだ可能性がゼロではないのはいいことだ。

異世界だからな。何か方法が見つかるかもしれない。


「で話は終わりか? 部屋に戻るぞ?」

「ああ、引き留めてすまないな」


俺はイーリスと別れて部屋に戻る。

結城君たちは町の方にでてノールタル、セイール、ゴードルに街の案内をしている。

ノールタルもセイールも町を見て回る余裕は前回なかったからな。

というか、男どもに嬲り者にされていたしな。

……ゴードルの方は、まあ、保護者だな。

俺がついていかなくて何よりだ。


「ふぅ……」


窓際に立って一服する。

煙が窓から出て行って空に消えていく。


「今日は天気がいいことで」


まさに平和といっていいだろう。

相変わらず、アスタリの街も結城君たちがもたらした魔王討伐の報告に沸いてお祭り騒ぎで、窓からも騒ぎ声が聞こえる。

もともと、ゴードル率いる魔族と魔物の軍を倒したことで騒いでいたのが、さらに輪をかけて騒がしくなっている。

冒険者の連中は四六時中酒を飲んでいるように見える。

金はどこから出ているんだと思えば、以前のゴードルいや、馬鹿が攻めてきたおかげで魔物の素材がたっぷりとれて懐が温かいようだ。

町の住人たちも懐の緩い冒険者相手の荒稼ぎをしているってわけだ。


「いやぁ、経済が回っているねぇ」


戦時特需ってやつか?

いや、戦争はあっという間に終わったからな。

ただの一過性のものか。


ぷかーっとタバコの煙が宙を舞う。


ここ最近、ずっと忙しかったからこんな時間は久々だな。

ま、こうしている時が一番危険なんだが。

そうなったときはそうなった時だ。


「とはいえ。この状況で、勇者を襲うメリットがないからな。ルーメルは自分で首を絞めるようなものだし。デキラ派の魔族がいたとしても、勇者を敵とみなさないだろう。連合軍が家を奪ったんだからな。恨みはそっちに行く」


俺はタバコを吸いながら、自分たちが安全だという理由を口に出して再確認しておく。

正直、ルーメルの暴走した連中が我が身顧みず突っ込んでくる可能性はあるのだ。

そういうのは防ぎにくいから、俺としては結城君たちには冒険者ギルドから出て行って欲しくなかったが、そんなことを言い出したら、ずっと部屋に隠れておかないといけないってことだしな。

不満がたまるのは目に見えている。

ましてや、祭りに参加できないとか、ストレスマッハだよな。

ということで、外出を容認している。

もともとアスタリの町はどちらかというと俺たち寄りだしな。

さらに、ルーメル王都の連中はようやく魔王討伐を知ったころだろうし、俺たちにちょっかいを送る暇もないだろう。


「問題はそれより、これからだなぁ」


そうルーメルのちょっかいは最初から想定しているから、問題ない。

問題なのは、俺たちが帰る方法を探すことについてだ。

何をどう探していいのか、俺の方はさっぱりわからん。

とりあえず、資料を読み漁ることもあるだろうから、家を確保しておくことにしたわけだ。


「行き来ができる方法ね」


自分で言ってなんだが、難易度はクソ高いだろうな。

地球だって外国との往復は飛行機に乗るだけじゃなく、パスポートも必要だし許可もいる。

乗り物自体飛行機が落ちる可能性がある。

それを異世界というか別の星同士をつなぐって方法を探そうって話だ。

そこら辺のことがよくわからない俺にも不可能に近いものだと理解できる。


「それは、結城君たちも理解はしていると思うんだけどなぁ」


とはいえ、魔術っていう摩訶不思議なものがあるから諦めずにいるってところか。

ま、帰還をあきらめて自堕落になられるのもこっちとしては面倒だしな。

そういう意味では、ノールタルやセイール、そしてゴードルが旅に参加してくれるのはいいことなんだろう。


「あとは、ルーメル王たちの動きだな。それ次第で……」


のんびり帰る方法を探すことになるのか、あるいは追われながら逃げながら探すことになるのか。

後者にならんことを祈る。

いや、その場合はやっちまうか?

お姫さんがあったころより割かしまともだし、上を挿げ替えるっていうのも手だな。

と、そんなことを考えていると、ばたばたと冒険者ギルドに誰かが駆け込んでくる音が聞こえる。

何か緊急事態でも起こったか?


魔族の軍を撃退したとはいえ、魔物が完全にいなくなったわけじゃない。

魔物はただの野生動物みたいなものだしな。

こっちが休みでもお構いなしだ。

いやー、そういうことを考えると、常にその魔物に対処しなきゃいけない冒険者や兵士ってのも大変だよな。

ん? いや、こういう場合は緊急の案件ができたのと一緒か。

そうなると働いている人は全員同じか。


と、そんなくだらないことを考えていると、冒険者ギルドを駆け上がってくる音が聞こえる。

まさか、俺の方に用事か?

この祭り騒ぎに乗じて仕掛けてくるか?

どっかの坂本龍馬の最後みたいだな。


バンッ!


相手はノックもなくドアを開けてくる。

その相手の正体は……。


「姫様。ノックもなしに入るのはいかがなものかと」

「いいのです。そういうことを気にする間柄ではありませんわ」


ただいまアスタリ子爵と会議中のはずのお姫さんだった。


「いや、気にするぞ。下手をするともうすぐ撃つところだった。ほれ」


とりあえず、命の危険があったということを銃口を向けながら教えておく。


「ひっ!?」

「タ、タナカ殿。冗談でも、ひ、姫様に銃を向けないでください」


2人ともジョシーにやられた時のことがトラウマになっているようで銃を見るとこういう風に固まるようになっている。


「お前ら、いい加減慣れろ。トラウマなのはわからんでもないが、一般人より命を狙われる確率は高いんだからな。動けるぐらいにはなっておけ」

「そんなことを言われましても……」

「で、バタバタ入ってきた理由はなんだ? 何かあったのか?」

「あ! そうです! 王宮から連絡が来ました!」


そう言ってお姫さんは持っている手紙をこちらに差し出す。


「へぇ、来たか。内容は?」

「こちらの功績を認め、称えると書いてありますわね。おそらく一緒に行ってくれた各国の使者のおかげでしょう」


そういえば、セラリア女王たちが俺たちの身の安全のために、ルーメルへの使者を同行させてくれたんだったな。

それがうまく機能したか。


「そして勇者様たちには王都に戻ってもらい、正式に勲章と褒賞を与えて国民に対して凱旋を行ってほしいと要請が来ています」

「なるほどな。ま、国民にも告知は必要だろうしな。で、勇者様たちってことは俺はいらないって意思表示か?」

「いえ、タナカ殿に対してそんな恐ろしいことをできるわけないと思います。まさか凱旋とか一緒にしたかったんですか?」

「いや、遠慮したいね」


凱旋なんて狙ってくれというものじゃないか。

どっかの大統領が見せしめに世界初の衛星放送で殺されたときみたいにな。


「ですよね。それで、タナカ殿には別に褒賞を用意するといっています。今回の魔王討伐では勇者メンバーの中で一番の働きをしたといっても過言ではないですからね」

「随分と評価してくれているな」

「魔王を倒したのです。それだけ評価をしてくれているのでしょう。もちろん、リカルドやキシュアにも褒賞、そして勲章が授与され、立場が回復するでしょう。そういう事情で、私たちには二週間以内に王都に戻ってくるようにと連絡が届いています」

「リカルドとキシュアにとってはよかったのかもしれないが、立場が回復ってのは、やっぱり勇者の供回りは不名誉なものだったか」


ここでぶっちゃげてくれたな。


「……魔王と戦うことになりますから」

「死亡率が高い職場は不人気か。当然だな。ま、話はわかった。あとは結城君たちが戻ってから話そう」

「はい。あ、最後にお父様から注意が来ていて、軍に集まってもらったのをそのまま凱旋に利用するそうです」

「ま、集めておいて要りませんでしたは、駄目だろうしな」

「それで、勇者様たちによる魔王討伐を快く思っていない者もいるそうで、そこに注意はしてくれとのことです」


あー、そっちかよ。

やっぱりめんどくさい。

帰ってからの方が面倒だな。


そう思いつつ、俺は再びタバコをふかせるのであった。


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