第289射:不気味な町をどうする?
不気味な町をどうする?
Side:ナデシコ・ヤマト
田中さんは水源を確認してくるといって、移動していましたが結局答えを得られずに戻ってきました。
「ねえ、田中さん一体水源がどうしたの?」
「ああ、町の人が全員大人しく移動するには、何とかして抵抗できないようにするしかない」
「まあ、そうですね」
確かに、町の人たちすべてが言うことを聞くわけがないので、無理やりケガ無く移動させるには抵抗させないようにするしかありません。
……自分で言っていて無茶苦茶ですわね。
矛盾しています。
「でも、それってむりだよね?」
「だから、できるようになるにはどういう方法があるかを考えたわけだ」
「方法ですか。あ、だから水源なんですね」
晃さんは何かに気が付いたようでポンと手を打ちます。
「水源ってことは薬ですか? 睡眠薬とか」
「「「あ」」」
晃さんの答えに全員が声を上げます。
確かに、それなら抵抗なく町の人たちを運び出せます。
「そうだ。だが、これには問題がある。全員が同じタイミングで水飲むか?」
「「「あ」」」
田中さんの指摘でその事実に気が付いて再び声を上げます。
確かに、現実的ではないです。
でも、この状況を引き起こすならそういう……。
その時エルジュが口を開きます。
「なるほど。それなら、広域に魔術を使うというのはどうでしょうか?」
「魔術?」
「はい。レベル差で効き方は変わってきますが、相手を睡眠にいざなう魔術というものもあります」
「へぇー。そういうのもあるんだ」
「まあ、普通はそこまで効く魔術ではないので、戦闘や制圧には向かないのです」
当然ですわね。すぐに相手が眠りこけてしまうような魔術があれば、敵を倒すことに苦労などしないです。
つまり戦うまでもなく相手を倒せるのですから、戦いは負けはしないでしょう。
それは夢物語、そんなのが現実にあればこの世界は統一国家によって制圧されているに決まっているのですが……。
「こんな広い町を余すことなく包み込んで魔術をかけるなんてのは聞いたことはありません。ですが、今の状況を考えると……」
「その可能性は捨てきれないな」
田中さんの言う通り、絶対にないとは言い切れないでしょう。
敵がそういう魔術を開発することに成功した可能性もあります。
「でも、それをこの町にする理由って何がありますか?」
晃さんが言うように、それをこの町にする理由はさっぱりわかりません。
こんなことができるのならもっと敵兵が多いところでやるべきだと思います。
「さあな。とはいえ、文字通りきれいさっぱり人が消えているのは事実だ。本当に突然人が消えているって感じだった」
「はい。生活感がそのまま残っていましたからね。ある日突然消えてしまったように感じます。まあ、スラムの方は見てなかったので確かなことは言えませんが、この状況は普通ではないのは事実です」
田中さんの言葉に同意をするヨフィアさん。
どちらも色々な意味で経験豊富な人たちがいうのですから、あの町の状況がおかしいというのは事実でしょう。
今も、モニターには灯りも灯ることのない暗闇に包まれて人の営みは感じられません。
「まあ、何もわからなかったのが分かったけど。これからどうするんだい? ゼランたちを上陸させるのかい?」
「いや。待ってくれノールタル姉さん。流石に地元とはいえ、あんな怪しいところに戻りたくはないよ。死にたがりじゃないんだ」
どうやらゼランさんもあの町に戻りたいとは思っていないみたいです。
流石にあんなに気味が悪いと当然ですね。
「でも、ほかのみんなはどうなんだ? ゼランだけで判断してもいいことじゃないだろう?」
「はい。きっとあの町が生まれ故郷の人もいるはずです」
「ゴードルやイーリスの気持ちはうれしいけど、あんな怪しいところに人を戻すのは避難民、レジスタンスを纏める身として許可できないね」
確かにあの状況がつかめない町に人々を戻すわけにはいかないですね。
しかし、そうなると……。
「ゼランの話は分かったけどさ。そうなるとノールタル姉ちゃんの言う通り、これからどうするんだよって話になるよね? ユーリアはこういう時ってどうする?」
「私がですか? うーん、情報が本当に少なすぎますからね。こういう時は、ほかの場所で調査をするか、深くこの町を調査するしかないのですが。どちらもリスクが読めません。エルジュはどうですか? 連合軍の総大将を務めていたのでしょう?」
「ふぇっ!?」
変な声を上げるエルジュさんですが。ユーリアさんの言うとおりです。
彼女はロシュール、リテア、ガルツをまとめ上げてラスト王国を開放した聖女なのです。
ですから……。いえ、そういえば……。
「す、すみません。私はそういう戦略とかはさっぱりで、そういうのはちぃ姉様がやってくれてました……」
「「「あー」」」
納得です。
セラリア女王はこういうことは得意そうでしたからね。
「別に気にすることじゃない。軍っていうのは総大将が全部考えて実行するわけじゃない。そいうのは専門に任せておけばいいんだよ。とういうか、総大将が自分でひっきりなしに動くとか軍として崩壊しているからな」
「ですねー。それって下がよほど無能か、総大将が馬鹿かって話ですから」
確かに。総大将が何から何までするというのは何のために人が集まったかわかりませんね。
そんな軍はだめだという話は納得です。
ですが……。
「結局の所どうするのでしょうか?」
そう、その問題は解決していません。
というか、これを決めないと何も動けません。
「意見がまとまってない以上、リーダーが決めるべきだが……。この寄せ集めのリーダーって誰なんだ?」
不意にそんなことを田中さんがいいました。
あまりのことに全員の思考が停止したのが私でもわかりました。
だって、私も停止しましたから。
そして、その停止の世界から即座に回復したのが。
「いや、田中さんがリーダーでしょう。ね、みんな?」
光さんがそう言って全員の停止状態が解除されてすぐに上下に首を振ります。
田中さん以外がリーダーなんて考えもしていませんでした。
ここまでみんなを引っ張っておいてそんな発言がでるとはびっくりです。
「は? そうだったのか? 俺は基本的に一兵士として意見と方針を言っただけだが」
「いや、今まで僕たちの訓練とか魔王城の攻略とかやっててくれたじゃん」
「まて、訓練まではそう指導してきたが、それは方針を決めたルクセン君たちにそって献策しただけだぞ?」
「あ、そういわれるとそうですね」
確かに、戦いが全然ダメだったころは指導してくれましたが、それ以降は私たちが方針を決めて、それに田中さんが助言をするような形になっていましたね。
「でも、この状況でどう動けばいいかわからないのも事実です。田中さんだったらこれからどう動きますか?」
「そうだね。ここは田中さんならどうするか教えてほしいな。みんなもそうだよね?」
そう光さんが言うと、皆さんそろって頷きます。
私も同意です。こと戦場において経験が一番高いのは田中さん。
その意見を聞くのは当然のことでしょう。
「そうだな。まず、目的を整理しよう。俺たちはこちらの大陸に来たのは、ゼランたちを送り届けて、この大陸で帰る方法を見つけるためだ。これはいいな?」
「はい。そのためにこちらにやってきました」
「ああ。タナカ殿にこうして送り届けてもらえば、国に渡りをつけるっていう約束だが、この分だと国と交渉するのはまだ先になりそうだ」
「そこは仕方がない。戦争状態なんだしな。さて、目的ははっきりとしているが、ゼランたちをここに置いていけばミッション完了というわけにはいかない。こちらのシュヴィール王国だったか? そこと国交を開くことが必要だ。だが、今そのシュヴィール王国の状況が不明すぎる。だからこのバウシャイで情報を集めようって思ったんだが、町がゴーストタウンになって何も情報が集まらない状態だ。これが今の状態だ。ここまでに質問はあるか?」
田中さんにそう言われて、私はすかさず手を上げます。
「なんだ大和君?」
「そもそも、この町へ来たのは情報収集が目的だったということでいいのでしょうか? ゼランさんからこの町は魔族に襲われたというのは聞いていたはずです。敵に占領されている可能性……いえ、あの話からすると町が抵抗できたとは思えません。そうなると情報を集めようという話がおかしなことになると思うのですが?」
「あ、そういわれるとそうだね。普通安全なところに向かわない?」
そうなのです。
ゼランさんの関係でこの町にやってきたと思っていましたが、よくよく考えるとこの場所に来るのはおかしいのです。
敵が占領している可能性があるような場所に接近するだけでなく、わざわざ偵察をして乗り込むなんて言うのはおかしいです。
「あ、気が付いたか」
「え? わざとだったんですか?」
「いや、わざとってわけじゃなかった。基本的にゼランが道案内だったからな。正しい道とかわからん。だから勘で海を進んでいたらここまでたどり着いたってだけだ」
「ではなんで敵がいるような可能性がある場所へ偵察をしたのでしょうか?」
「そりゃ情報収集だよ。聖女様。敵を知り己を知ることで百戦して危うからずだからな。偶然とはいえ、ここに来たんだ。集められるときに情報は集めたい。で、偵察のドローンを送ってみたらゴーストタウンと来たもんだ。あんなのを見せられて情報を集めないわけにはいかなかったって所だな」
なるほど。
ここに来たのは偶然で、情報を集めようとしたらかなり不可解な状態だったというわけですか。
「ではー、タナカさんこの情報収集の結果どうするつもりですかー?」
「そうだな。ゼランの案内で安全そうな港町に向かうのがいいだろうな。勝手に軍艦が敵地の港にいたら敵認定されかねない。そうなれば面倒だしな。あとは、ダンジョンをどこで展開するかって問題があるんだよな。下手に港の近くに置けば、連合軍を送り込むとかの話にならないか?」
「いえ、流石にそれは……。遠征軍というのはとても疲弊しますし、敵の強さもわからない状態でそんな命令は出せません。それに、このシュヴィール王国のことはルーメル王国がまず話を通さなければいけません」
「そうね。まずはルーメル王国がどうするか決めないと、内政干渉よね。あ、シュヴィール王国が助けてといわなければこっちも内政干渉というか侵略行為になるわね」
確かにその通りですね。
ダンジョンを設置してゲートを開いたからといって即座に助けに動けるというわけではないのですね。
「そうなると、近場の別の安全な港に移動する方がいいだろう。ゼランいいか?」
「当たり前だよ。その方が命を落とさなくて済むし、あの気味の悪い謎が解けるかもしれない。向かうはシュヴィール王国のもう一つの港、バウシャイの姉妹港町のシャノウの港町だ」
こうして私たちは不気味な謎を残しつつバウシャイの町を離れるのでした。
一体何が起こっているのでしょうか?
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